時代とともに激変したファンとの距離感 JリーガーのSNS事情を考える (1)

木崎伸也
PR

提供:(公社)日本プロサッカーリーグ

炎上する人は1万人に1人いるかいないか

プロスポーツと相性のいいSNS。Jリーグも積極的に活用している 【スポーツナビ】

――トラブルになるのが怖いという選手もいると思います。注意点は?

 教科書的に言うと、人間のコミュニケーションとして普通にやっていれば炎上というのは、実は起こりづらいんですよ。炎上する人は1万人に1人もいないと思います。普段の人間関係でやらないようなことをネットでもやらない、というのが基本です。

 もちろんスポーツはファンやサポーターも熱くなりがちなので、批判や炎上もおこりやすいですが、スタジアムの観客の野次(やじ)と同じようなものと考えてもらえれば、対応方法もイメージしやすいと思います。どちらかと言うと、炎上したときにどう対応するかが大事。カルマ(業)と呼ぶべきか分からないのですが、そもそもコミュニケーションでは蓄積されていくものがあると思っています。

 たとえば、誤解で炎上しそうになったときにも、もし普段からちゃんとコミュニケーションをとっていたら、大勢の人にはそういう趣旨じゃないと分かってもらえる。積み上げてきた関係値があると、許容されたり、フォローしてもらえたりする。コミュニケーションを長くとっておいた方が、トラブルに強いのです。

 もちろん、サッカー選手の本来の仕事であるプレーがおろそかになるぐらいなら、ソーシャルメディアには手を出さず、練習に時間をつぎ込むという選択も正しいと思います。ただ、興味はあるけれど食わず嫌いでトラブルが怖いから始めないというのはもったいないなと思います。

――逆に知名度が低い選手の場合、「自分なんかがやっても見てもらえない」と考えている人も多いと思います。

 その視点も、もったいないと思います。数に関して、みんなの認識がインフレを起こしてしまっているんですよ。フォロワーが1万人いないといけないとか、10万人いないといけないとか。そんなわけないです。

 そもそも仲の良い友達なら2人で飲み会をしても楽しいじゃないですか。知名度が低い選手であればあるほど、自分を応援してくれる人は1人1人が貴重なはずです。応援してくれる人にお礼をするという形でのコミュニケーションと考えれば、フォロワーが何人だろうが意味があるはずです。

 例えばアクティブサポートという手法もあります。ソーシャルメディア上で検索し、自社の名前をツイートしている人に話しかけるというもの。ソフトバンクなどの通信会社は会社をあげてやっています。選手も自分について言及しているファンがいたら、お礼を言うだけでもいいと思います。間違いなくびっくりされると思いますよ(笑)。

Jリーグをサポーターとともに創る

――選手やクラブを問わず、ソーシャルメディアをどう活用すれば、Jリーグをさらに盛り上げられるでしょうか?

 オープンイノベーションという言葉があるように、外部の人の力を活用しやすい時代になったと考えてみて下さい。マーケティング用語で言うと共創。Jリーグの盛り上げはサポーターとともに創ると考えると、Jリーグにはとても手伝ってくれる人がいるはずなんです。

 マスメディアの時代は、企業側が頑張る時代でしたが、ソーシャルメディアの時代はソーシャルメディアを通じてファンやサポーターの力を借りられる時代です。もっとファンやサポーターを巻き込んでいろいろなことをお願いしてみてもいいのではないかと思います。クラウドファンディング的手法で、お金ではなく、マンパワーを借りるとか。たとえば、クラブ公認で情報発信のボランティアを募集してはどうでしょうか。

 米国での有名な成功事例は、オバマの大統領選挙キャンペーン。「マイ・バラクオバマ」というサイトをつくってボランティアを募り、若者ら多くの人をオバマが大統領を目指すためのPRやマーケティングを手伝ってくれるパートナーにしたんです。ボトムアップの最高級の成功事例です。

 普通の企業でいうと、サッカーのサポーターはめちゃくちゃうらやましい存在。共創の文脈でいうと、サポーターはお客様でもありますがパートナーでもある。もっと積極的にいろいろなことを相談してみてはどうでしょうか。

――ヴィッセル神戸のルーカス・ポドルスキがドイツの新聞で、「Jリーグにはマーケティングが足りない」と発言していました。どう思いますか?

 もともと日本では、マーケティングという言葉が大きく誤解されているんですよね。マーケティングを広告や宣伝行為だと思っている人が多い。でも、言葉としては「市場ing」じゃないですか。商品開発から何もかも含めてなんですよ。

 話題になりにくい商品が完成してから、それをお客さんに口コミしてくださいというのでは当然ダメです。サッカーで言えば、例えばどんなスタジアムにすれば、どんな口コミが生まれるか、と考えるべきなんです。

 たとえばスタジアムの入場ゲートでの記念撮影を写真映えするように工夫して、サポーターにとっての儀式にできればどうでしょう。スタジアムに来場してくれたみんなが写真をシェアするようになって、宣伝効果があるかもしれません。でも日本の場合、一般的にそれはマーケティングの仕事ではなく、スタジアムやクラブの運営の話と思われがちです。

 もう一度、マーケティングを会社全体の仕事だととらえて、何をやるとお客さんが喜んで口コミをしてくれるのか、クラブ全体、会社全体で考えないといけないと思います。



 徳力の解説によれば、選手はフォロワー数といった「量」を気にするよりも、ファンとの会話といった「質」に力を入れるべきということだ。

 これをまさに実行している選手が、バスケットボール界にいる。Bリーグの千葉ジェッツに所属する伊藤俊亮だ。

 Twitterのフォロワー数(約8000人)は、本田圭佑(約27万8000人/3月8日現在)の約3%にすぎない。だが、企業とのコラボ商品の実現から、クラブのスポンサー獲得まで、伊藤のツイートが大きなムーブメントを起こしている。

<JリーガーのSNS事情を考える(2)に続く。文中敬称略>

2/2ページ

著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載開始。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント