3月場所は“戦国十両”が熱い! 最速出世、元大関、貴ノ岩ら役者が集結

荒井太郎

最軽量・炎鵬は史上1位のスピード出世

3月場所の十両には役者たちがそろった。左から炎鵬、照ノ富士、貴ノ岩 【写真は共同】

 昨秋から土俵外の話題が多かった角界。しかし11日に初日を迎える3月場所で、十両は稀にみる7人もの大量昇進となり、土俵のほうも活気づきそうだ。新十両は2人。東幕下6枚目で4勝3敗の炎鵬、東幕下7枚目で5勝2敗の貴公俊という注目の若手ホープがそれぞれチャンスをモノにした。いずれも本来であれば上がる星ではなかったが、十両からの陥落者が多かったため、幸運に浴することになった。

 炎鵬は169センチ、91キロの小兵で関取衆70人の中では最軽量ながら、角界デビュー以来、21連勝で序ノ口から三段目までは3場所連続優勝を果たすなど、前相撲から所要6場所という史上1位タイのスピード出世で新十両を射止めた。

 アマチュア時代から抜群の相撲センスの持ち主で、同じ石川県金沢市立西南部中学のときの同級生で現・幕内の輝ともに県代表として出場した都道府県大会では団体優勝。金沢学院東高(現・金沢学院高)3年のときには世界ジュニア選手権軽量級で優勝。金沢学院大時代には世界選手権で連覇を果たすなどその名を鳴らしたが、体が小さかったということもあり、プロ入りは考えていなかった。

 しかし、横綱白鵬との出会いが運命を決定づけた。「親孝行しなさい」という横綱からの言葉が決め手となり、宮城野部屋の門を叩いたのだった。

「まずは体重を3桁に乗せたい。15日間を戦える体をしっかり作っていきたい」と課題を心得つつも「自分なりに個性を出して、面白い相撲を取っていきたい」と十両の土俵を大いに盛り上げてくれそうだ。

 もう1人の新十両、貴公俊は双子の弟、貴源治に遅れること5場所で関取の切符を手に入れた。「うれしさと悔しさがあった」という複雑な思いを抱えながらも、弟に先を越されてからは一度も負け越すことなく着実に番付を上げてきた。双子の同時関取は史上初。関取衆が4人となった貴乃花部屋もこれから隆盛のときを迎えそうだ。

雌伏の時を経た実力者も

17年3月場所で新十両昇進を決めた貴源治(右)。兄・貴公俊も今場所から関取となった 【写真は共同】

 この1年の十両の優勝争いは混とんとしている。14勝1敗で蒼国来が優勝した昨年11月場所を除けば、優勝ラインは10〜11勝。もともと番付が東西14枚しかないため、各力士の実力はおのずと伯仲したものになり、新十両力士がいきなり優勝することも珍しくない。過去には9勝6敗で8人の力士が並び、トーナメント形式で優勝決定戦が行われた平成13年7月場所のケースもある(当時の番付は東西13枚。武雄山が優勝)。

 星の潰し合いが激しさを増している昨今、決定戦に持ち込まれたケースは過去6場所中で4場所と混とん。十両は現在、まさに“戦国時代”の様相を呈している。勝ち越した力士がもう2つ、3つ白星を上積みすれば、優勝の可能性も大いに出てくるということだ。
 この例に倣えば、新十両から2場所連続で9勝をマークしている隆の勝も、実力的には十分その資格を有していることになる。伸び盛りの23歳は「前に出るしかないので思い切りいくだけ」と外連味のない持ち前の押し相撲は日に日にパワーアップしている。

 新十両場所以来、7場所ぶりに再十両を果たした先場所で9勝した大翔鵬は「前は負けたら落ちると思って余裕がなかったけど、今場所(1月場所)は落ち着いて相撲が取れている」と語っていた。稽古場での強さには定評があるものの、幕下上位では極度の緊張のため大事な一番をことごとく落とし、昇進のチャンスを逃してきた苦い経験が過去にはある。課題を克服しつつある今、本来の実力が発揮できれば幕内もそう遠くはないだろう。

 先場所千秋楽は勝てば優勝の英乃海を大熱戦の末、寄り切って勝ち越しを決めた貴源治は、これで再十両から2場所連続7勝7敗からの給金直し。十両下位で関取の座を死守し続けたことは、精神面の成長を大いにもたらしたに違いない。「持っているものを全て出し切れば、負けることはあまりないと思う」と語る二十歳の若武者は、そろそろ飛躍のときを迎えている。

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著者プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに転身。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。著書に『歴史ポケットスポーツ新聞 相撲』『歴史ポケットスポーツ新聞 プロレス』『東京六大学野球史』『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。雑誌『相撲ファン』で監修を務める。

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