札幌といわきが大会を通して得たものは? 第1回「パシフィック・リム」を総括する

宇都宮徹壱

チャンピオンとなった札幌は来年もハワイにやって来るのか?

地元の歓迎を受ける札幌のペトロヴィッチ監督。ハワイはロケーションとしては最高だった 【宇都宮徹壱】

 少なくとも、いわきに関しては今大会で大きな自信を得ることができたように思う。では、J1クラブの札幌の場合はどうだっただろうか。札幌は今季、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督を新しい指揮官に迎え、その代名詞である可変式3バックシステムの実践の場として、今大会は十分に機能したと言えよう。準決勝のコロンバス戦は、取られては取り返す展開で前半を2−2で終了。後半3分、縦に抜け出した都倉賢の折り返しに、右から走り込んできた三好康児がワンタッチで決めて、これが決勝ゴールとなる。きっちり結果を残しつつ、前半と後半で2チーム分の選手を試すことができたのも収穫だった。

 準決勝では、ピッチを幅広く使うことで「外から仕掛けたり、(相手の)中が空いたらそこを突いたり」(三好)という狙いどお通りのサッカーができていた札幌。ただし、後方から丁寧にビルドアップしてくるコロンバスと異なり、縦方向への意識が強く、フィジカルの強さを前面に押し出してくるバンクーバーとの決勝では、攻めあぐむ時間帯が続く。前半のチャンスらしいチャンスは、福森晃斗の左足から繰り出されるセットプレーのみ。後半は両サイドからのクロスに都倉が頭で合わせる場面が2回続いたが、ネットを揺らすには至らず。ようやく後半40分に、福森のFKのチャンスから最後は都倉が押し込み、これが決勝点となって札幌の優勝が決まった。

 試合後、「僕が決め切れなかっただけで、チャンスはコロンバス戦と同じくらいあった。自分たちの守備が崩されることもなかった」と語っていたのは、決勝点を決めた都倉である。自分たちの目指すスタイルが発揮できない展開でも、しっかりと結果を残したこと。新体制となって間もないタイミングで、タイトルを(しかも国外で)獲得したこと。いずれも新シーズンに向けて、ポジティブな結果であったと言えよう。また開幕前の準備として考えた場合、8週間のキャンプを強いられる彼らにとり、沖縄と熊本の間にハワイで国際大会を経験するのは、いいアクセントとなったのではないか。

 ならば、来年もパシフィック・リムが開催されたとして、札幌はチャンピオンとして再びハワイにやって来るだろうか。おそらく「今は確約はできない」というのが正直なところだろう。札幌の野々村芳和社長は、大会の意義を認めた上で「こっちの練習環境は正直、まだまだですね。ハワイ大学(の天然芝グラウンド)で、ようやくギリというところ」と厳しい指摘。また他のJクラブにしても、人工芝で行われる大会に難色を示すことは十分に予想される。温暖な気候と、観光地ならではのホスピタリティ。確かにロケーションは申し分ないが、ハワイが継続的な国際大会の会場となるには、さらに強い説得力を持つ「何か」がほしい。それが、今後のパシフィック・リム開催の鍵となることだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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