札幌といわきが大会を通して得たものは? 第1回「パシフィック・リム」を総括する
「今後も参加したいと思える大会」か?
第1回パシフィック・リムカップで優勝した札幌。果たしてこの大会は来年以降も継続するのか 【宇都宮徹壱】
「今年(の大会が)成功したら、19年はMLSとJリーグが提携するシンボルとなるような大会にしたい。そして20年には、メキシコや韓国やタイのクラブにも声をかけて、真の意味での『環太平洋の大会』にしていきたいんです」
今大会をプロデュースした中村武彦氏(ブルー・ユナイテッド・コーポレーション代表)は、大会前のインタビューでこのように語っていた。非常に立派なビジョンだと思う。そこで総括の指標として、まず「この大会は今後も持続し得るのか?」という問題提起を掲げることにしたい。その前提条件となるのが、日本勢とMLS勢、それぞれにとって「今後も参加したいと思える大会」であること。この大会を継続的に参加する意義とメリットを感じられなければ、他の国々を巻き込むこともおぼつかないだろう。
あらためて、パシフィック・リムの「セールスポイント」について考えてみたい。ポイントをまとめると、「シーズン開幕前の2月に、温暖なハワイでキャンプを行いながら、普段とは異なるタイプの相手と国際試合を行うことができる」ということになるだろう。シーズンが早春に始まり晩秋に終わるのは、日本もMLSも同じ。ハワイという立地も、日本と米国西海岸から見てちょうど中間地点だ。日米(そしてカナダ)の参加チームにとって、この時期にハワイでキャンプと試合を行うことは、決して悪い話ではない。
とりわけMLS勢にとり、このパシフィック・リムはアジャストしやすい大会であった。ハワイは米国内なので、日本と比べて時差の影響をそれほど感じることはない。また、会場のアロハ・スタジアムは人工芝のピッチだったが、普段から人工芝でのプレーに慣れている彼らにしてみれば、これもまったく問題ではなかったはずだ。となると、「今後も参加したいと思える大会」なのかという問いは、むしろ日本側に向けられることになる。
「札幌よりもコロンバスと対戦したい」いわきFC
アマチュア唯一の参加となったいわきはフィジカルと走力でMLS勢に対抗できることを示した 【宇都宮徹壱】
とはいえ、このチームの選手たちは、外国人選手を除けば全員がアマチュア。練習以外の時間は、ドームいわきベースという流通倉庫で毎日5時間働いている。そんな彼らが、なぜパシフィック・リムに参加できたかと言えば、アンダーアーマーが今大会のスポンサーとなっているからだ。いわきの親会社は、アンダーアーマーの日本における総代理店である株式会社ドーム。およそ130億円を投資して、流通倉庫の隣に立派なクラブハウスと人工芝のピッチを作っているくらいだから、海外での大会に参加すること自体は高いハードルではなかったはずだ。
いわきは8日の準決勝で、バンクーバーと対戦。昨年のウェスタン・カンファレンス3位の強豪に対し、チャンスこそ限られていたものの互角に近い戦いを演じていた。後半、バンクーバーがほぼメンバーを代えてテストモードになったが(この大会は10人まで選手交代ができる)、いわきはあくまで勝負にこだわる戦い方を貫く。結局、0−0で迎えた後半45分にPKを献上。これをしっかり決められて終了のホイッスルが鳴り、いわきは武運つたなく3位決定戦に回ることとなった(余談ながらいわきは、PK戦となることを見越してGKを交代した直後、PKで失点する不運に見舞われた)。
興味深かったのは、試合後の選手のコメントである。「3位決定戦は札幌とコロンバス、どちらと対戦したいか?」と平岡将豪に尋ねたところ、「もちろんコロンバス」と即答した。「札幌とはまたいつか対戦できると思いますが、コロンバスとはなかなかやれませんからね。(準決勝第2試合では)札幌に頑張ってほしいです」と、いささか上から目線な発言となったのが面白い。結局、3位決定戦の相手はコロンバス戦となり、3−5という壮絶な打ち合いの末に、いわきは今大会を4位で終える。それでもデュエル(1対1の競り合い)の場面では、相手選手を吹き飛ばす力強さを見せて、スタンドからは何度も「いわき」コールが起こった。