大舞台で際立った羽生結弦の“人間力” 「自分との戦いに勝ち」偉業を達成
フィギュアスケートは人生を映し出す
羽生結弦が平昌五輪フィギュアスケート男子シングルで2連覇を達成 【写真:松尾/アフロスポーツ】
「ここまで来るのが本当に大変でした。応援してくれた方もたくさんいましたし、何より家族やチーム、これまで自分を人間として成長させてくれたコーチ、担任の先生など支えてくださった方へ、いろいろな思いがこみ上げてきました」
昨年11月のけが以降、羽生は公の舞台に出てこなかった。平昌五輪に向けて過熱する報道。「本当に羽生は間に合うのか」。そんな疑問がささやかれるほど、注目度は日増しに高まっていった。
現地入りして2日後の13日。記者会見の場に姿を現した羽生は、試合に向けてこう語った。「とにかく今は夢に描いていた舞台で、夢に描いた演技をしたいと思います」。穏やかな口調ながらも、はっきりと込められた意志。その目には未来に待ち受ける光景がすでに映し出されていたのかもしれない。
「この試合は勝たないと意味がなかった」
けがの影響はやはりあったが、ジャンプの種類を制限しても羽生は結果を出すことにこだわった 【写真:松尾/アフロスポーツ】
4回転時代が加速している現在の男子フィギュアスケート界において、サルコウとトウループの4回転2種類で勝てるのか――。羽生は「勝てる」と踏んだ。自分には4回転だけではなく、得意のトリプルアクセルや他のエレメンツもある。何よりサルコウもトウループもジャッジに評価してもらえることを知っていた。
その思惑通りに羽生は勝った。他の選手にではない。「自分との戦いに勝った」のだ。これまで楽な方の道ではなく、常に険しい道を選んで歩みを進めてきた羽生。そんな彼がジャンプの構成を落としてでも結果を出すことにこだわった。
「この試合は特に勝たないと意味がないと思っていました。これからの人生でずっと付きまとう結果なので、本当に大事に大事に結果を取りにいきました」
そこまで勝ちにこだわる羽生を初めて見た。4年前のソチ五輪では、日本男子のフィギュアスケート選手として史上初の金メダルを獲得しながら、演技にミスが出たこともあり、「悔しい」とさえ言った男だ。ジャンプの構成を下げることは苦渋の選択だったに違いない。それでも今の自分が持つ最大限の力を発揮することで、その不足分をカバーした。そうした葛藤の中でも自身を見失うことなく目的を達成できるのも“人間力”の高さゆえだ。