酒井宏樹、マルセイユでの2年目の挑戦 ライバルとの競争や早期交代もプラスに

木村かや子

ピッチ内外で地盤を固め、ファンに愛される選手に

マルセイユで2年目のシーズンを過ごす酒井(左)は、いまやファンに愛される選手の1人になっている 【Getty Images】

 マルセイユでの酒井宏樹のシーズンは2年目の前半戦を終え、リーグ後半戦の開始を迎えようとしている。初年度よりも難しいと言われる2シーズン目だが、結果から先に言えば、酒井はここまでかなりうまくやってのけている。昨年末、1年目と比べてどこが上達したかと問われた酒井は、こう答えていた。

「波は少なからずなくなったのではないかと思う。プレーのインテンシティー、試合への入り方、特にアウェーの試合でも感情の揺れがかなりなくなった。相手がどんなに強くても、どんなに難しい状況でも、自分なりの抜け道、解決策を見つけることができるようになってきたのは、ポジティブな点だと思う」

 安定したパフォーマンス、めったにボールロストせず、概して慎重だが、チャンスと見れば仲間との連係で攻撃に加担する。華々しくなくとも、常に頼りになる堅固なプレーが評価されてきた。そのため今季、同ポジションのライバルが出現し、ターンオーバーが行われている中でも、酒井はレギュラーの座を確保。特に固い守備が求められる強豪相手の重要マッチでは、酒井が先発することが定型となっている。

「大きな才能がない分、毎試合、全力を振り絞ってプレーしている」という真摯(しんし)な頑張りに、マルセイユのファンたちは敏感だ。今や酒井は、年末の地元紙のファン投票で「マルセイユで3番目に良い選手」に選ばれるほど、ファンに愛される選手の1人にもなった。

 安定性のあるプレーに加えて、今季の酒井に求められているのは、よりクリエーティブなアシストと、自らゴールを狙うフィニッシュの部分での精度と果敢さだ。昨シーズン終了後の総括で、マルセイユのルディ・ガルシア監督が挙げていたのがそこだった。

「宏樹はすでに、かなりの評価に値する選手だ。良い守備ができ、何より非常に良いカウンターアタッカーでもある。おそらく攻撃面において、最後の20メートルでよりクリエーティブになるよう要求し、それができるようにさせてやらなければならない。対面する相手を抜き、より多くのアシスト、得点を生むパスをし、いつか自分でもゴールを決められるように。マルセイユのサイドバック(SB)には、時にそこまで要求される」

 昨季の酒井は、攻撃によく絡んでいたが、記録に残るアシストは1シーズンを通して2本にとどまった。しかし今季は、前半戦が終わった時点ですでに同数のアシストを記録。さらに、自らバイタルゾーンに切り込んでシュートしたり、仲間のクロスを追って自らゴール前に飛び込んだりという、昨シーズンには見られなかった試みも見せるようになった。「自分で少しずつ感覚を試しながら、トライの幅を伸ばしている」という酒井にとって、思い切りと慎重さの良いバランスが、今季のテーマの1つ。当人は「とにかく結果、数字がほしい」と、いい意味での貪欲さも見せ始めている。

今季のライバルは元右ウイングのサール

本来右ウイングであるサール(左)が、酒井のライバルとして台頭してきたが、今では2人で切磋琢磨している 【Getty Images】

 酒井にとって、昨シーズンと今季の大きな違いの1つは、同ポジションにライバルがいることだ。昨シーズンのマルセイユは、本職の右SBは酒井のみ。1〜2試合でまずいプレーをしても、もれなくレギュラーだったのはそのおかげでもあり、試合に出続けているうちに順応も加速し、調子も上がっていった。

 しかしEL(ヨーロッパカップ)への出場権を得た今季、1人で3日おきに60試合近くを戦うのは不可能。そのため、ガルシア監督は出場機会の少なかった右ウイングのブナ・サールを説得し、右SBに転向させた。「走力、スピード、質の高いクロス。右SBで成功するすべての資質がある。昨季、酒井は1人だった。君が競争を生み出すんだ」という監督の言葉に当初、サールは懐疑的だったと明かしている。

「僕にとって、最初のテストだったアンジェ戦(現地時間8月20日)が割とうまくいった。その後、監督に『一時しのぎの代役なのか、それともシーズンを通してなのか』と聞きにいった。監督は、(シーズンを通し)僕を頼みにするときっぱり言った。だからトライしようと決めたんだ」

 それでもアンジェ戦の時点でのサールは「とりあえずどのくらい試合に出られるのか、冬の(移籍)市場まで様子を見る」と語っており、さらに「僕はシーズンを通して、酒井の控えに回るつもりはない。やるなら、レギュラーを目指す」とある種の宣戦布告をしていた。

 反対に酒井は、本来ウイングであるサールのプレーを「彼がアタッキングサードに入ったときの迫力には、すごいものがある」とたたえ、「彼は僕にはないものを持っている。だからといって彼のまねをするのではなく、僕には僕にしかできないことがあると思うので、いい感じで2人でやっていければいいと思う」と、究極のチームプレーヤー発言でこれに応えた。また「彼が昨年、辛い思いをしていた時期も知っているから、ライバル意識というのはない。もちろん彼がいいプレーをするのを見れば『僕も頑張らなきゃ』という刺激にはなる」とも言い添えた。

 結果、どうなったのか? ELで勝ち残り、国内のカップ戦も始まって3日おきの試合が続く中、2人のターンオーバーによるサイクルは定着しつつある。最初は、攻撃面はよく、守備ではややおぼつかないという様子のサールだったが、11月に入ると守備もそつなくなり、3試合に1回はサールが先発するようになった。

 攻撃面でのサールが、上がった際に自らのドリブルで切り開き、ゴールまでいこうとするタイプだとしたら、酒井はより仲間との連係で攻め上がろうとするタイプ。守備面の堅実性では酒井が上だが、サールも守備的な判断ミスを減らし始めている。そして酒井の人柄の影響を受けてか、最近のサールは「僕らは特質が全く違うから、競争とは感じない。監督は必要に応じて選択することができる。2人で共に、チームのために自分のベスト出し合いたい」と、発言のトーンもすっかり変わっていた。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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