キタサンブラック偉業支えた“仕上げ人” もう一人の立役者・黒岩と3年の舞台裏

山本智行

ディープを超えた17年天皇賞・春「あの勝利は嬉しかった」

 その後の走りは3度の有馬記念も含めて記憶に新しいところ。明け4歳の大阪杯からは名手、武豊とコンビを組み、王道を突き進んでいく。天皇賞・春では勝負根性を発揮し、驚異の差し返し。4歳秋の京都大賞典で初めて1番人気となり、ジャパンカップは2馬身半差で快勝した。

「レース前に具合がいいと思ったのは、このジャパンカップと菊花賞。逆に良くないと感じたのはダービーと5歳の宝塚記念の2回です。あの宝塚のときはエネルギーが入っていない感じでした。追い切り時に4角で肩ムチ使ったのは初めて。あとのレースは普通というか、良さを見せないタイプでした」

黒岩が「嬉しかった」と振り返る、連覇を達成した17年天皇賞・春 【スポーツナビ】

 5歳になってからは大阪杯前から坂路3本乗りと攻め強化。「さすがに嫌がることもあったんですよ」と明かしたが、その甲斐あって天皇賞・春では、あのディープインパクトが持っていたレコードを大幅に更新し、いつの間にか怪物になっていたことをファンにアピールした。「この馬の良さはロングスパートの一歩目が速いところ。あれでリードを広げる。一部の予想家の人はまだキタサンブラックの強さを疑っていたので、あの勝利は嬉しかったです」

劇的な勝利となった2017年豪雨の天皇賞・秋、黒岩は「雨なんか関係ない。ボクは“降れ”と思っていた」 【写真:中原義史】

 また、泥んこ馬場となった天皇賞・秋では出遅れのピンチも克服して差し切った。

「道悪を心配する方もいましたが、雨なんか関係ない。嫌がる馬もいるだろうし、むしろボクは”降れ”と思ってました。ストライドは大きいけれど、叩きつけるようなフットワーク。ピッチとストライド、両方できた」

「お前がちゃんと乗ったから」…グッと来た先輩の言葉

 極端に違う状況で同一年の天皇賞春秋制覇。ここからジャパンカップ→有馬記念と続く調整過程で清水久師からアドバイスを求められた黒岩は3戦目でパフォーマンスが落ちるこれまでの経験を踏まえ「週末の攻めの本数を減らしては」と提案。ジャパンカップこそ3着に敗れたが、それが奏功し、目イチの仕上げで臨んだ有馬記念を3度目の挑戦でモノにした。黒岩は言う。「キタサンブラックは馬場、コース、脚質不問。すべての面で限りなくレベルが高いオールラウンダー。スタートが早かったので先行してましたが、本質的には差し馬だったのでは。フィジカル面ではケガしない。回復が早い。心肺機能が高い。同期のドゥラメンテの方が爆発力はあったかもしれませんが、歴史的名馬とは呼ばれていない。1回も予定を崩さず、GIを走り抜いたキタサンブラックは凄いです」

2017年有馬記念後のお別れセレモニーでは、オーナーの北島三郎さん(右)自らが黒岩を呼び込んだ 【写真:有田徹】

 5万人が残った有馬記念後のお別れセレモニー。”まつり”の舞台に呼び出されると思い、検量室に潜んでいたら”大御所”北島三郎から直々にマイクで呼び出された。その舞台で北村宏司から「お前がちゃんと乗ったから」と声を掛けられ、グッと来た。

2世への期待「ボクも乗ってみたいです」

 この7日にはGI初制覇となった京都競馬場で引退式。60口で総額13億5000万円のシンジケートが組まれ、社台スタリオンステーションで種牡馬入りする。

キタサンブラック2世の活躍も期待する黒岩、今度は本職のジョッキーとしての飛躍を誓う 【写真:高橋由二】

「ひとことで言うと超実戦型。敏感で賢い。その資質は子どもにも受け継がれるはず。その産駒にボクも乗ってみたいです。ジャンプもやれば、絶対にうまかったはず。オジュウチョウサンに負けないぐらいに」と黒岩。キタサンブラックとの3年の日々は「張りがあり、責任感もあった」というが、本職はジョッキーだ。「情けない、と思うこともありました」。もちろん、このままで終わるつもりはない。

■黒岩悠(くろいわ・ゆう)
1983年10月26日、高知県出身の34歳。02年騎手免許取得、同年3月に栗東・吉岡八郎厩舎所属でデビュー。現在はフリー。JRA通算52勝(平地21、障害31)。164cm50kg、AB型。同期は田辺ら。趣味は麻雀。

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著者プロフィール

やまもと・ちこう。1964年岡山生まれ。スポーツ紙記者として競馬、プロ野球阪神・ソフトバンク、ゴルフ、ボクシング、アマ野球などを担当。各界に幅広い人脈を持つ。東京、大阪、福岡でレース部長。趣味は旅打ち、映画鑑賞、観劇。B'zの稲葉とは中高の同級生。

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