涙の4年生と、笑顔で迎える監督 「挑戦し続ける」天理大ラグビー部

斉藤健仁

大きな武器となったスクラム

自信の表情でスクラムに向かうPR木津。ジュニア・ジャパンにも選ばれ、将来の日本代表入りを期待されている 【斉藤健仁】

 部員全員が入ることができる寮が完成した2012年度も関西を制して関西Aリーグ3連覇を達成した。だが、2013年度は一転して6位に終わってしまう。そこで翌2014年度からFW、セットプレーの強化が始まった。スクラムは明治大OBの岡田明久コーチが、モールはOBの比見広一コーチが指導にあたり、4年目を迎える今年度は、大きな武器となっていた。

「僕が1年生のときから強化が始まって、モールとスクラムに対する意識が変わった。それが試合でも見えるようになってきて、今年度は完成度を上げようとシーズン中でも成長した。こういう(セットプレーの)文化を今後も途切れることなくやっていってほしい」(PR木津)

 天理大は145人の部員がいて、シーズンに入るまでは、チームを分けることなく基本的には全員で練習している。また小松監督は、今年からほぼ全員が入寮している寮の消灯を23時にするなど、私生活の細かな部分に関しても心を砕くようになった。
「すべてがつながっています。部員は150人くらいおりますから、試合に出ているものだけで『日本一や、日本一や』と言っても、残りの100人くらいが『無理やろ』という気持ちでやったら日常生活に出てくる。みんなで目標に向かってやることが大事です」(小松監督)

小松監督「今回負けた悔しさを感じることも大事」

試合後に選手と抱き合う王子キャプテン 【斉藤健仁】

 4年生の誰に聞いても「小松監督のおかげで成長できた」と監督への感謝の言葉を口にした。小松監督は決して雄弁なタイプではないが、フランスで2年間プレー経験があるため、基本的には選手の自主性を重んじて見守りながら、学生スポーツのため、厳しくいうときは厳しく言うというスタンスで指導にあたる。「小松監督は全員を見てはる。細かいところだけでなく、総合的に判断して常に接してくれる。小松監督の考えに触れて、勉強になった4年間でした」(王子キャプテン)

 小松監督は「(大学選手権は)関西リーグとは別ものですね。理論的にボールを動かすだけでなく、相手のディフェンスを打ち破る個の力とかプラスアルファが必要」と課題を挙げつつ、「質は毎年、どんどん上がってきているような気がしています。今回負けた悔しさを感じることも大事。うちは『来年は絶対に優勝する』ということはないですが、挑戦し続けるしかない」と先を見据えた。

 東海大に負けた後、天理大の4年生は膝をついたり、顔を上げられなかったり、目を赤くしていた。本気で「日本一」を目指していたからこその、姿だった。そんな4年生を小松監督は笑顔で出迎えていた。監督に、その真意を聞くと「精一杯やってくれた。今年のチームは一生懸命やってくれたなと思います」と選手たちの健闘を称えた。

 アタックもディフェンスも、セットプレーも強い。そして監督と選手は、強い信頼関係で結ばれている。練習環境も整っている。天理大学が覇権を握る日もそう遠くはないと強く感じた。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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