教育現場に「ラグビー」浸透中 協会理事が語るこれからの普及育成プラン
今回は「ラグビーの普及 Impact Beyond 2019」と題して、講師に日本ラグビーフットボール協会理事で普及育成担当の山本巧氏を招き、司会はラグビージャーナリスト・村上晃一さんが務めた。
現役時代にプロップとしてプレーしていた山本氏は、青山学院高時代に高校日本代表に選出された経験を持つ。この日は普及、育成の観点から日本ラグビー界の将来へ向けた構想が語られた。
ワールドラグビーと日本協会の普及戦略
普及育成について語る山本理事 【スポーツナビ】
「IMPACT〜」は2015年のイングランドW杯でも策定され、当時はタッチラグビーによる裾野拡大や、競技が根付いていないヨーロッパ各国への普及活動などに取り組んだ。アジア初開催となる19年W杯に向けての目標は以下4つ。
・日本のラグビー登録人口を20万人以上にする
・アジアで新しいプレーヤーを100万人以上増加、プレーヤー人口を200万人以上にする
・アジア全土でラグビーが広く放送される
・世界のプレーヤー人口を1100万人以上にする
これとは別に、日本ラグビー協会は、東京五輪が開催される2020年までを見据え、「BIG TRY」をビジョンとした戦略計画を持っている。普及育成部門の目標は先の「IMPACT Beyond」とリンクする形で定められている。
「現在のプレーヤー数は9万6000人だが、2020年が終わるまでに12万人にしたい。そのうち10人に1人はコーチになってもらいたい」と山本氏。フルコンタクトのラグビー以外にも、タックルがないタグラグビーのプレーヤー、指導者も増やすことで「登録人口20万人」の目標を達成したいと語った。
プレーヤー増加のキーとされたのは高校生と小学生。山本氏によると、高校生の年代では1000人に7人がラグビーのプレー経験を持つ計算になるが、小学生では半分にも満たない。「高校はいろいろな施設も指導者もいる。これを生かすためにも小学生年代での人口を増やし、中学、高校とつなげていきたい」とした。
代表戦やトップリーグ、大学ラグビーなどを合わせた総観客動員数の増加も目標だ。「BIG TRY」では16年度実績の92万人から、2020年までに150万人と1.5倍以上の増加を狙っている。
実現への道筋として山本氏は、代表の成績が大きな影響を与えることは認めつつ「サッカーJリーグが地域密着を掲げるように、トップリーグの理念・強みは何なのかあらためて見直したい。大学リーグは大学というコミュニティの持つテーマに目を向けたい」と、各カテゴリーの集客向上のため新たな取り組みが必要だと訴えた。
学校教育でラグビー普及の基盤づくり
オールブラックスが2013年に来日した際は、タグラグビーを通じて小学生と交流した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
教育現場での普及基盤と言えば、これまでは部活動が果たしてきた役割が大きかった。しかし近年は状況が変化しているようだ。「部活だけで広めるのは難しくなってきた」との村上氏のコメントに対し、山本氏も「体育の授業を活用していきたい」と同調。現在、約64%の小学校でタグラグビーが授業の一環として行われているが、これを2020年までに100%にしたいと述べた。
教育界への働きかけはこれに留まらない。学習指導要領の改定に合わせて、本文や解説文に「ラグビー」の文言が加えられたことを追い風と考え、必修化される道徳授業の素材にラグビーを提供したいと語った。
育成環境に目を向けると、求められるのは指導者・レフェリーの充実だ。ただし近年の両者の関係について、山本氏は「指導者のレフェリーに対するリスペクトが少なくなったのでは」と語る。
かつては高校の先生が普段は監督、試合ではレフェリーも務めることが多かった。近年はコーチとレフェリーの分業制が進んでいるが、相互理解を進めていくためにもそうした仕組みは大切であると指摘。小学生年代におけるレフェリーの仕組みを考えるにあたって、指導者が果たすべき役割を考えたいとした。