日本から発信する新しいレガシーの形 ラグビーW杯を地域活性化に生かすために

スポーツナビ
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提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

「ラグビーW杯のレガシー」をテーマに、講演を行った仲伏達也氏(左)と増田久士氏 【スポーツナビ】

 公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と公益財団法人日本ラグビーフットボール協会(JRFU)が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第55回が7月23日、東京都・港区のみなとパーク芝浦内「男女平等参画センター(リーブラ)ホール」で開催された。前回に続き「ラグビーW杯のレガシー」をテーマに、三菱総合研究所レガシー共創協議会事務局長の仲伏達也氏と、釜石市総務企画部ラグビーワールドカップ推進室室長補佐の増田久士氏による講演と、ラグビーW杯2019組織委員会の西機真氏をモデレーターに迎えてパネルディスカッションが行われた。

大会を地域の課題解決につなげる

ラグビーW杯を地域活性化に生かすという発想が必要だと語った仲伏氏 【スポーツナビ】

 第1部では、まずは仲伏氏が講演を行った。
 そもそも、レガシーとは何なのか。仲伏氏によれば、1964年の東京五輪では新幹線、首都高速道路など、ハード面での遺産が主なレガシーとして残ったが、2002年の日韓共催サッカーW杯では、両国の若者による交流など、ソフト面でもレガシーが残った。仲伏氏自身も、1995年南アフリカ大会で日本の対戦相手だったアイルランドのファンと交流して以来、アイルランドとのつながりを持ち続けているという。こうした「大会をきっかけにして、人々の心、社会、地域に残るもの」がレガシーであると説明した。

 過去の大規模イベントではどんなレガシーが残されたのか。その一例として、12年のロンドン五輪が紹介された。大会後に何を残すかが重視されたこの大会では、開催5年前に「イギリスを世界トップのスポーツ国家にする」「若い世代の啓発」など5つの約束が掲げられた。それらは多くが実現し、そのうちの1つである「東ロンドン周辺の都市再開発」は、もともと貧困層の多いこの地域の課題解決に導いたとして、「最大のレガシー」と呼ばれているという。この成功例から仲伏氏は、19年ラグビーW杯でも「開催地の地域が抱える問題を解決するために、どう大会を生かすかという発想が必要」と強調した。

 では、ラグビーW杯を日本の地域活性化、課題解決につなげるにはどうしたらよいのか。仲伏氏はその鍵となる大会の3つの特徴を挙げた。

(1)世界からの注目・来訪
(2)五輪、サッカーW杯に次ぐ「世界第三のスポーツイベント」という大会規模
(3)開催都市が全国12カ所に点在

「これらの特徴と地域や社会が抱える課題を掛け算し、レガシーを考ええることが重要」と仲伏氏。試案として、「開催都市、合宿地でのラグビー(スポーツ)を核にした街づくり」「世界との関係強化」「人材育成・全員活躍」を提案した。

 最後に、「ラグビー関係者、そうでない方々がラグビーを生かして、その地域社会の課題をどう解決していくか、これが大きな動きとなっていくことによって、ラグビーW杯やラグビーそのものの意義・価値もまた大きくなっていく。今日がそのきっかけになれば」と期待を寄せ、講演を締めた。

「レガシーは私たちでつくらないと」

“ラグビーの町”釜石市ならではのエピソードを披露した増田氏 【スポーツナビ】

 続いて、増田氏による講演が行われ、19年W杯の開催都市である釜石市とラグビーのつながりと、開催都市から見たレガシーについて語った。

 釜石市は日本選手権7連覇を達成した新日鉄釜石ラグビー部(現・釜石シーウェイブス)の本拠地で、エディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチから「Kamaishi is a fantastic rugby town(釜石市は素晴らしいラグビーの町)」と称されたこともある。増田氏によれば、“ラグビーの町”としての特徴は、2011年の東日本大震災でも見られた。市は壊滅的な被害を受け、沿岸にある鵜住居小学校と釜石東中学校も水没した。しかし、日ごろの訓練が生かされ、在校する児童・生徒約600人全員が生き延びた。「私たちにとって非常に大きな力でした。この場所があったからこそ、この場所にW杯ができるようなスタジアムを造りたいと、地域の人たちで考えたんです」と明かす。

 また、震災発生後も外国人選手が市内に残り、復旧作業に献身的に取り組んでいたという。そんな中、住民からラグビーの町らしい声が上がり始めたと、増田氏は振り返る。

「(選手が)町の人たちから『お前たち練習をしなくていいのか』と言われたそうです。『こんなふうに言われたのですが、増田さんどうしたらいいですか?』と聞かれて、『じゃあ、ラグビーをやろうか』と再開しました。ラグビーの連帯意識がどこかしらに根付いている町で、(震災では)子供たちが(津波から)本当によく逃げ切ってくれました。そういった所でラグビーW杯をやるのもありなのではないかと考えました」

 さらに、震災が契機となって県を縦断する道路の整備計画が早まり、「何とか2018年に完成させようと躍起になってくれた」という。これにより、新幹線の停車駅がある仙台市まで約2時間、花巻市まで約1時間で移動できるようになり、交通アクセスが飛躍的に高まる予定だ。

 増田氏が考えるレガシーとは何なのか。「ロンドン五輪では、ロンドンの人たちがつくったからレガシーが残ったのであって、私たちは私たちでつくらないとレガシーにならないのではないか」と力を込める。その上で、「一番大事なのは大会の後、その地域、釜石市や三陸がどうやって生きていくかということ。もちろん大会を安全に行ってからですが、(釜石市に)来るプレーヤー、観に来る人、それを手伝う人も全て含めて、19年に来た人がもう一回来てくれような、そういう町になっていきたい。今はそう考えて、大会の準備をしている。そういったところがレガシーになっていけばいい」と未来を見据えた。

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