“森保色”を濃密に感じさせたタイ遠征 2年半余りの東京五輪への旅が始まった
選手たちが見せたハングリー精神と向上心
3戦目でのフォーメーション変更はあえてのトライ。選手たちは「生き残りたい」という意欲を見せた 【写真は共同】
全年代を通じて初めての代表という選手も複数いるチーム構成で、「ほぼ全員初対面」(FW上田綺世=法政大)というケースも珍しくはなかった。ここからはい上がろうと思えば、「いかに監督のやりたいことを理解するか」(MF神谷優太=湘南ベルマーレ)という部分に重きが置かれるのも自然なことである。結果として、こうした前のめりな空気感は、急造チームの雰囲気を自然とポジティブなものにしていた。
07年、いわゆる“調子乗り世代”のU−20日本代表コーチを務めたのを最後に、もっぱら「大人」のチームを指導してきた。それだけに未熟ながらスポンジのような吸収力を持った若者たちを久々に指導するのは、森保監督にも心躍るものがあったようだ。久々の感触について聞いてみると、満面の笑みを浮かべてこんな答えを返してくれた。
「みんなハングリー精神を持っていて、向上心があって、成功したいという野心を持っていて、少しでも何かを吸収したいという心があった。難しいことも要求したのですが、本当によく食らい付いてきてくれた。みんな『ちょっとでもいい選手になりたい』と思っているし、『ちょっとでも上にいきたい』と思っている選手たちでした」
要求した難しいことと言えば、多くの選手が「初めてやる形」と語っていた3−4−2−1のフォーメーションで2試合までトライしながら、決勝ではいきなり4−4−2のシステムに変えてきたことも挙げられるだろう。このシステムがあまり機能しないままに苦しいゲームになった一面もあったと思うが、それもまた森保監督には織り込み済みの部分だった。
「1戦目より2戦目の方がよくなっていたので、このまま3戦目も同じ形でいけばもっと、という考え方もあったと思う」と、指揮官は単に「決勝で勝つ」という視点からは必ずしも上策でなかったことを認める。だが、「今回のキャンプに参加した選手たちには柔軟性と対応力を持って戦えるところを見せてほしいと言ってきたし、自分たちのできることを増やしていこうと思っていた」と、あえてのトライだったことを明かした。
「これはスタートであって、ゴールではない」
森保監督はタイ遠征について、選手たちのポジティブな面がたくさん見られた成果の部分を強調 【写真は共同】
いきなり4−4−2のシステムでやるように言われた選手たちが見せる対応力を、今後に向けたひとつの判断材料にしていたわけだ。そしてどうやら、何人かの選手にとりあえずの合格通知が届くことになりそうだ。
チームはこれでいったん解散となるが、来年1月のAFC U−23選手権で再招集となる。ここにはU−20W杯メンバーも含まれる見込みだが、「ポテンシャル枠」とでも言うべきメンバーだった今回のM−150杯からも複数名が選出される見込み。当初は2、3名という話だったのだが、もう少し増えることになるかもしれない。
さらに来年3月のインターナショナルマッチウイークには南米遠征も予定されており、こちらにはAFC U−23選手権への招集が見送られそうなFW久保建英(FC東京)や天皇杯に勝ち残ったチームの選手はもちろん、MF堂安律(フローニンゲン)や伊藤達哉(ハンブルガーSV)ら欧州組もできれば招集したいところだろう(欧州組はこの冬、さらに増える可能性も高い)。
大会を終え、森保監督はPK戦の末にウズベキスタンに敗れて優勝を逃したことを惜しみつつ、「これはスタートであって、ゴールではない」とも強調。むしろ選手たちのポジティブな面がたくさん見られた成果の部分を強調した。“森保色”を濃密に感じさせるタイ遠征を最初のステップに、2年半余りにおよぶ「東京」への旅が始まった。