八村塁、助走期間を経て“次の段階”へ 2年目のシーズンで得た手応えと課題

丹羽政善

課題は英語でのコミュニケーション

手応えをつかんだ八村だが、課題は英語でのコミュニケーションにある 【丹羽政善】

 その一方で、自分に足りないものを痛感することもある。

 12月1日に行われた全米ランキング25位のクレイトン大戦では、試合が始まって比較的早い段階で出場したが、4分ほどで交代させられた。ベンチに戻ると、マーク・フューヘッドコーチ(HC)が飛んできた。

 その時の会話について八村は、「ディフェンスのミスがすごく多かったので」と試合後に説明したが、実のところ「混乱していた」とも明かした。

「今回の相手(クレイトン大)は今までで一番難しかった。相手もスカウトがすごいチームなので、オフェンスもディフェンスも……。特にオフェンスなんて、複雑すぎて僕も何をやっているのか、分からなくなってしまいました」

 サイドラインから飛ぶHCの指示も、瞬時には理解できなかった。

「コミュニケーションのところでも、コーチも難しいことを言い始めたりするので、その部分でダメでした」

 ゴンザガ大に来て、まず苦労したのがHCやチームメートとの英語によるコミュニケーションだ。練習ならまだしも、試合中に通訳してもらうわけにはいかない。1年でそれなりに克服したつもりだったが、まだ想定外のことには対処が難しいことを露呈した。

 ただ、見方を変えれば、彼のレベルが上がっているからこそ、去年は見えなかった課題が出てきたとも言える。八村もそれをポジティブに受け止めていた。

「大学になるとチーム戦術に差が出てくるので、そこをもっとやっていかないといけない。次のステップじゃないかなと思います」

ドラフトでは1巡目での指名が予想されるが……

NBAドラフトでは1巡目での指名が予想されているが「あくまでも予想でしかない」と八村 【Getty Images】

 八村は、壁を求めて海を渡った。
 
「(NCAAは)バスケをやり始めた小さいころから、次に向けての段階として目標にしていたところ。ここでどうやるか。いろいろ学びたい」

 彼が口にした“次の段階”とはもちろんNBAを指すが、そのために今、どれだけの挫折を経験し、それを克服できるか。その多さこそが将来を左右すると自覚している。

 さて、そのNBAについてだが、NBAドラフトの指名予測を行っている「NBADraft.net」などは、八村を1順目の18位で指名されると予想している。高い評価だが、八村は「あくまでも予想でしかない。それを気にしても仕方がない」と話した。小さい頃はそう言われることに、「プレッシャーを感じていた」そうだが、今は「何とも思っていない」ときっぱり言った。

「どういう人が言っているのかも分からないし、本当にそうなのか信じることもできない。自分は自分で、やることをしっかりやる。その結果として、そういうところに行けるかもしれないと思っています」

 浮かれることはない。次から次へと沸いてくる課題に1つずつ対処する。その延長線上にNBAがある。そこを目指す覚悟は、米国に来てから明確に定まった。

「ここまで来たら、人生を懸けてのことだと思っています」

 その言葉に、八村の現在地が集約されていた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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