惜しくも予選で敗れ去ったJ内定者たち 高卒でプロへ、変化が見えた卒業後の進路

川端暁彦

横浜FM内定の生駒は将来有望なCB

横浜FMへの加入が内定している鹿児島城西の生駒仁(写真は17年9月のU−18日本代表合宿のもの) 【川端暁彦】

 12月3日、年代別日本代表の候補選手がいた関係で遅れていた神奈川県の予選が桐蔭学園の14年ぶりの優勝という形で閉幕。第96回高校サッカー選手権大会に臨む48の代表校が出そろった。これから大会に臨むチームから来季Jリーグへと進む選手たちには華々しいスポットライトが当たることだろう。ただ、惜しくも涙を流したチームの中にも、来季プロのステージへ進む選手たちがいる。

 たとえば、鹿児島県からは鹿児島城西のDF生駒仁が横浜F・マリノス、神村学園のFW高橋大悟は清水エスパルスへの来季新加入が決まっているが、予選決勝で対峙(たいじ)した二人の明暗は必然的に分かれることとなった。過去2大会はいずれも生駒擁する鹿児島城西が神村学園を破って全国に進んでいたが、今年は0−0からPK戦までもつれ込む戦いの末、神村に軍配。前年度の選手権でも大活躍を見せ、高校サッカー界でも指折りと評価されるDFは決勝の舞台で涙をのむことになった。

 ただ、この試合も強力攻撃陣の神村を完封し切ったことからも分かるように、生駒自体のポテンシャルは間違いなく高い。「ヘディングは絶対に負けたくない」と語るように、184センチの長身を生かした空中戦の強さを武器とするセンターバック(CB)は、スピードもあってスペースにも強い。今年はけがに泣いたこともあったが、それでもプロのスカウトからの評価が落ちなかった。まだビルドアップの部分や判断には課題もあり、U−18日本代表の最終メンバーからは漏れていたが、プロでもまれる中で伸びていく可能性は十分にある。

潜在能力はピカイチの履正社FW町野

“ハンパない”資質を持つ履正社のFW町野。U−18J選抜との試合ではスーパーゴールを決めた 【写真:築田純/アフロスポーツ】

 生駒と同じく横浜FMへ進む選手は大阪府にもいる。履正社のFW町野修斗だ。タイプ的には今大会の応援リーダーを務める“ハンパない”日本代表FW大迫勇也に最も近いストライカーだが、彼もまた予選の決勝で惜しくも敗れて大会への出場はかなわない。ただ、そのタレント性は大会へ出場してくるストライカーたちに劣るものではない。潜在能力に関して言えば、ピカイチと言っていいかもしれない。

 元々は中盤の選手だったこともあり、足元の器用さがまず光る。左右両足をしっかり使えて、184センチという長身を生かした懐の深いキープから周りを使うプレーも巧みだ。そして何より、左右両足から繰り出すシュートは“ゴラッソ”製造器。ワンタッチでのボレーやミドルシュートなど、観る者の度肝を抜いて記憶に残るようなスーパーゴールをこれまでに幾つも決めてきた。

 横浜FMのエリク・モンバエルツ前監督はゼロックススーパーカップの前座試合として行われた、日本高校サッカー選抜とU−18Jリーグ選抜の試合でファインショットをたたき込んだ彼を見て、すぐに「彼を獲らないのか?」とスカウトに聞いてきたそう。一振りで見る者を虜(とりこ)にするような“一発”のある選手である。

 守備への貢献を含めた総合的な力という意味ではまだまだの部分もあり、今夏に欧州クラブへ練習参加した際には、「フィジカル面でまだまだ足りないと思った」と課題も痛感。プロ入り後はウェイトアップも含めた肉体作りにも力を注ぐ。U−18日本代表のスタッフも「プロで化けるかもしれない」と期待を込めて見守っており、ここからのブレイクスルーに期待したい逸材だ。

3人のプロ内定選手を擁する興国高校

興国の大型ボランチ・西村恭史(右)。ボランチの位置からスペースを見つけてボールを運ぶドリブルも巧みだ 【川端暁彦】

 町野と同じ大阪にはJリーグ内定選手が他に3名いるのだが、いずれも興国高校の選手たちである。セレッソ大阪U−18の選手たちが主に通う高校でもある興国は選手権への出場経験こそないものの、サッカー部の強化に力を注いでおり、今や全国でも指折りのタレントが集まるチームになりつつある。今年も準々決勝で府大会の近畿大学附属に敗れて選手権への夢は破れたが、J入りする3人に限らず、タレント性を持った選手たちのいる好チームだった。

 エースFWの大垣勇樹は来季、名古屋グランパスへと進む。出場こそならなかったものの、すでにJFA・Jリーグ特別指定選手(高校チームなどに所属したまま、Jリーグへの出場を可能にする制度)としてJ2リーグ戦のベンチ入りも果たしており、風間八宏監督の評価も非常に高い選手。複数クラブによる争奪戦となったが、クラブ側の熱意が実る形での名古屋入りとなった。

 その魅力は何と言っても、スピードに乗ったドリブル。柔らかいタッチに加え、ボールを持っても速さが落ちないプレーぶりは、日本代表MF乾貴士の高校時代を彷彿(ほうふつ)とさせるものがあり、ドリブラーにありがちな視野の狭さもない。うまくDFの間でボールを受けながら、機を見て仕掛けて切り崩すプレーはJクラブのみならず、欧州クラブからも高い評価を受けた。

 また、清水エスパルス内定の大型ボランチ・西村恭史からも大器の予感が漂う。中学時代は所属チームでも試合に出られない時期があったと言うが、高校入学後に身長が10センチも伸びたことから分かるように、もともと晩熟タイプの選手だったのだろう。184センチと大柄ながら不器用さはなく、ボランチの位置からスペースを見つけてボールを運ぶドリブルも巧み。長い距離のキックを精密に蹴り分ける技術があり、ミドルシュートやFKも持っている。

 ジャンプ力もあり、ヘディングのポテンシャルもかなりのもの。プロのステージで武器にするためには筋力アップを含めてまだ練習が必要だが、可能性は十分にある。日本にはあまりいないタイプだけに、関係者の期待値も高い。年代別日本代表には今年9月の候補合宿に一度呼ばれたのみで、しかも合宿途中で負傷するという「持っていない」ところを見せてしまったが、そこまでの評価はかなり高かった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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