3人のライターが予想する選手権の行方 優勝候補は7校、ダークホースにも期待

スポーツナビ

3年ぶり2回目の選手権出場を決めた昌平(埼玉)。広島皆実(広島)との1回戦は注目だ 【写真:平野貴也】

 12月30日に開幕する第96回全国高校サッカー選手権の組み合わせ抽選会が11月20日に行われた。スポーツナビでは、抽選会当日に高校サッカーやユース年代を中心に取材活動を行う安藤隆人氏、川端暁彦氏、平野貴也氏による座談会を実施。前編では今大会の注目選手について語ってもらった。
 後編となる今回は「大会展望」をテーマに、1回戦の注目カードから選手権の必勝法、優勝候補や期待のダークホースに至るまで、大会の見どころを存分に語ってもらった。

1回戦の注目カードは昌平vs.広島皆実

――96回大会の組み合わせが決定しましたが、トーナメント表を見ての印象をそれぞれ聞かせてください。

安藤 青森山田(青森)がいるブロックには毎回強豪が片寄りますよね。

川端 最近はそうでもなかったのですが、昔は「青森山田のくじ運」はよくネタになっていましたからね。それこそ、今大会の応援リーダーになっている大迫勇也擁する鹿児島城西(鹿児島)と初戦で当たったり。

平野 そして、優勝候補に挙げられるチームの中では、大阪桐蔭(大阪)がチャンスのある良い組み合わせになったと見るべきではないかな。

川端 ただ、大阪桐蔭のキャプテン西矢健人くんは「チームメートが油断するかもしれない。引き締めないと」と言っていました。選手権の初戦はどんなに強いチームであっても、危ない。戦力で優位なチームが、必ずしも有利なわけではない。有利だなと思ってしまうこと自体が罠(わな)。

平野 それを西矢君が、しっかりと危険だと認識しているところが良いなと思いました。

川端 中でも1回戦の注目カードは昌平(埼玉)vs.広島皆実(広島)ですね。

安藤 これは楽しみですね。あと今回は1回戦でそこまですごいカードは生まれなかった印象ですが、1番の注目カードと言えますよね。個人的には山梨学院(山梨)vs.米子北(鳥取)は気になりますね。

川端 玄人好みの試合になると思います。エンタメ性の低い試合と言われるかもしれません(笑)。

(一同笑)

川端 どちらもハイレベルですから、決勝戦のようなガチガチのゲームになりますね。

平野 球際は、格闘技のような試合になると思います。

安藤 米子北は堅守速攻がベースのチームで、堅い守備からのスピードカウンターが持ち味なのですが、それを山梨学院のロケットランチャー加藤(拓己)くんが破壊できるか、という戦いですね。

川端 山梨学院は加藤くんという分かりやすい柔道家を擁していますので(笑)。彼を目掛けてボールを蹴り込むシンプルなストロングスタイル。米子北の城市(徳之)総監督とも話したのですが、今年プレミアリーグのウエストでJユースのうまいチームを相手に試合を重ねてきて、そういったうまいチームとの戦い方は自然と習熟して、「選手権に出てくるうまいチームとはやれる」という自信を得た、と。でも、実際に対戦が決まったのが、ストロングな山梨学院という……。

安藤 局面での激しい球際の攻防がたくさん見られる、熱い試合になりそうですよね。

開幕戦はテクニックの応酬が期待できるカードだが……

関東第一(東京B)との開幕戦を戦う佐賀東(佐賀)は、中野嘉大(写真)らJリーガーも輩出している 【Getty Images/J.LEAGUE】

川端 関東第一(東京B)vs.佐賀東(佐賀)の開幕戦も注目度の高いカードですね。

安藤 (佐賀東監督の)蒲原(晶昭)さんが、それまで赤崎秀平(ガンバ大阪)や中野嘉大(ベガルタ仙台)などをAFCパルティーダというクラブから引き継いで育て上げてきたのですが、3年ほど赴任先が佐賀東から別の学校に移った時期がありまして、この間はパルティーダから佐賀東への流れが止まったんですよね。その3年の間は、笹原脩平くん(東海大)などがパルティーダから秀岳館(熊本)に行くようになって、秀岳館が強くなったという背景があったんです。

 その後、佐賀東に蒲原さんが教諭として戻ってきたことで、パルティーダ出身の選手が佐賀東に来るという流れも再開したので、1、2年生にいい選手がそろっています。佐賀東は来年が楽しみだな、と思っていたら今年の選手権に出てきました。

平野 パルティーダは代表の筒悦郎さんが相当変わった方で(笑)。パルティーダの子は肩甲骨をすごく使った独特なドリブルをするんです。

安藤 仙台の中野は、まさに典型的な選手ですよね。

平野 ウォーミングアップから、何から何まで肩甲骨を動かしまくるオリジナルのトレーニングをしていました。ドリブルの方向転換を、上半身で行う指示もしていました。腰から体の方向を変えるのではなく、肩甲骨を動かして、上半身の向きを変えるという方法です。

安藤 Jリーガーは5人輩出いますよね。中原秀人(鹿児島ユナイテッドFC)や平秀斗(福島ユナイテッドFC)もそうですね。

平野 面白いチームですよね。そして佐賀東は正直、(身長は)小さい選手が多いので見た目からして強そう、という訳ではないのですが、見ていると「うまい!」とか「今の何?」となるようなプレーが多いんです。

 対する関東第一も最近結果を残してきているチームですが、「うまいけれど勝てないね」とずっと言われていたチームです。なので、テクニックの応酬が期待できるのですが、何せ開幕戦なのでそれが出せるかどうか……。

川端 開幕戦はキックオフした瞬間に、選手たちの頭からゲームプランが吹っ飛んでしまう(笑)。両者が狙い通りにやり切ったという試合はあまり見た覚えがありません。

 関東第一は2年連続の開幕戦を戦いますが、小野(貴裕)監督に「去年の経験が生きますね」と話したら、「あれは経験しても変わらないですよ(笑)」と返ってきました。「逆にゲームプランを固めすぎないようにしたい」と話されていたのが印象的です。

優勝のポイントは初戦の戦い方とPK戦にあり?

会場の雰囲気は異様とも言われる選手権。雰囲気に慣れるため、会場の音を練習中に流す高校もあるという 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

平野 開幕戦に限らず、初戦はやっぱり難しいですよね。

川端 過去の優勝校の試合を振り返っても、初戦の内容は絶望的というチームは多いです。

平野 1、2回戦と準決勝、決勝の出来が違うという話はよくありますよね。逆に1回戦を見て「これは勝ち上がるかも」と思っても、そのまま素直に勝ち上がっていくことはまずない。1、2回戦は「内容はどうでもいいから、とにかく勝つ」というのが優勝を目指すうえでのポイントですね。

川端 あと先生方によく聞くのは、「選手権という大舞台だから、最初はセーフティーに入ろう」と指示して試合に入ると80分間そのままいってしまうみたいなこともよくあるみたいです。「セーフティーなのは最初だけと言ったのに!」と(笑)。

平野 あとはPK戦をどうしのぐかですよね。PK戦なしで優勝したチームは、けっこう少ないんじゃないでしょうか。

安藤 PKはいい加減にABBA方式にしたほうがいいと思うんですよね(編注:「ABBA方式」とはPK戦において先攻と後攻での有利不利をなくすため、1本ずつ交互に先攻後攻を入れ替えて行うPK方式のこと)。

川端 次回大会からそうなりそうですよね。特に選手権のPK戦は心理的なプレッシャーが並ではないので。

安藤 予選を見ていても、ほとんど先行が勝っていますからね。

川端 だからPKは「コイントス力」ですよね(笑)。一方、後攻が勝つのは先行の1人目が外したときが多い。1発目の緊張感は別格ですから。

安藤&平野 そうそう(笑)。あと選手権の会場の雰囲気は異様ですからね。

平野 あの雰囲気はどうやっても、練習で感じることはできないですからね。

川端 高校によっては、会場の音を練習中に流したりしていますが、なかなか難しいですよ。

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