3人のライターが選手権の注目選手を紹介 イチオシは感動を呼ぶ“ファンタジスタ”
ライター川端氏、安藤氏、平野氏(左から順)に、選手権の注目選手を聞いた 【スポーツナビ】
抽選会当日、スポーツナビでは長年にわたり高校サッカーやユース年代を精力的に取材している3人のライター、安藤隆人氏、川端暁彦氏、平野貴也氏に依頼し、座談会を実施した。主なトークテーマは「注目選手」と「大会展望」の2つ。前編では、今大会“見るべき”選手たちを彼らの豊富な知識を交えて熱く語ってもらった。
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青森山田にはJリーグ内定選手が2人在籍
平野 山梨学院(山梨)のFW加藤拓己くんは(抽選会の)壇上に上がったとき、1人だけ鼻息が荒かったですよね(笑)。昨年2年生エースとして(選手権に)出るはずだったのが、直前にけがをしてしまって出られなかったんです。今大会に懸ける思いは強いと思います。
抽選会時に「鼻息が荒かった」と平野氏が話す山梨学院のFW加藤 【スポーツナビ】
安藤 加藤くんは憧れの選手を聞かれて「(格闘家の)ミルコ・クロコップ」と言っていました(笑)。
川端 言っていたね(笑)。
安藤 加藤くんの他にも注目選手はいっぱいいますよね。
川端 やっぱり青森山田ですね。Jリーグ内定選手のMF郷家友太とFW中村駿太(編注:郷家はヴィッセル神戸、中村はモンテディオ山形に内定)には注目です。駿太くんに関しては平野さんが小さいころからよく知っていますよ。取材し続けてもう8年になりますか?
山形に加入が内定している中村駿太(右)。写真は2017年インターハイ時のもの 【平野貴也】
安藤 本人の希望で青森山田に移ったんですよね。もともと中学の時には市立船橋(千葉)に行きたいと言っていたんですけれども、以前から高校サッカーに憧れていて「最後の1年で勝負をしたい」という志を持って、青森山田に行った選手です。
平野 彼はJユースにいたというだけではなくて、ジュニア世代の柏レイソルU−12で日本一を経験しています。そのときに、全国大会の得点記録を塗り替えていて、おそらくこの世代で一番初めに全国で名前を売った選手だと思います(編注:11年の全日本少年サッカー大会で優勝を経験。大会新記録の23得点を挙げ得点王に輝いた)。
アンダー世代の日本代表にもコンスタントに選ばれていて、プロにもいくだろうと言われていた選手が、(高校)最後の1年で高校サッカーに殴り込みに来たような形になっている。青森山田も連覇という難しい目標がある中で、貴重な戦力が入ってきたということもありますし、本人のキャリアにとっても、初めての選手権で何を感じるのか非常に楽しみですね。
川端 かわいがられる選手なので、青森山田に行っても輪の中に入っていける力があると思います。ただ、自分が入ることによってレギュラーから外れる選手がいるわけで、そういうことも考えて、結果にこだわってやっている。
安藤 郷家くんは「ロングスローの郷家」と呼ばれるのが嫌で、「本当はロングスローに中で合わせたい」と言っていた。やっぱり点を取りたいんですよ。(編注:郷家はロングスローから数々の好機を作り出し、昨年の選手権でも注目を浴びた)。
平野 (ロングスローも)投げられるけれど、競る方もものすごく強いですからね。
安藤 彼は昨年の前橋育英(群馬)との決勝後にすごく不満そうな顔をしていたのですが、その理由が2つあったそうで、1つが「ロングスローの郷家」と呼ばれること。もう1つは3年生に「来年が大変だな」と言われたことだったみたいです。彼の気持ちの強さ、負けず嫌いが出ていて、すごく好感が持てました(編注:青森山田は昨年、選手権と高円宮杯U−18チャンピオンシップで優勝し、2冠を獲得している)。
川端 そうそう。選手権決勝後の囲み取材で後にキャプテンになる小山内慎一郎くんが「いやー、来年はヤバイっすよ」と言っていたら、隣で郷家くんが「来年は(インターハイも含めた)3冠を取りますよ」と言っていたなんてこともありました(笑)。
(一同笑)
平野 郷家くんはプロにいく子のメンタルだよね。
小嶺監督が育てた世代ナンバーワンストライカー
3人が今大会ナンバーワンストライカーと位置づけた安藤瑞季(左)。写真は日本高校選抜として4月に参加したデュッセルドルフ国際ユース時のもの 【写真:アフロ】
川端 僕は現地で凍えていたので、なおさら印象的です。チームメートも「あいつはおかしいですよ!」と言うし、モンゴル人のカメラマンも「クレイジー……」と(笑)。影山(雅永)監督も「半袖でもいいけれど、大丈夫なんだな?」と本人に確認していたくらいですから。
安藤 でもそれぐらい気持ちが強い選手です。複数のJクラブが獲得を争っている注目株ですしね。
平野 大会ナンバーワンストライカーと言ってもいいよね。
川端 Jユースも含めて、この高校3年生年代のナンバーワンFWかもしれない。
安藤 得点力もあるし、うまい。ワイルドなプレーもできるし、ショートパスの交換から裏へ抜け出したりと、器用なプレーもできるんです。
平野 迫力が目につきますが、体の使い方もうまいですよね。「何でそのボールがあなたのものになったの?」と聞きたくなるようなプレーを見せてくれる。高校に入る前までは有名な選手ではなかったんです。出身の大分県では高く評価されなかったと本人が言っていました。お兄さん(安藤翼/駒澤大)に話を聞いたら「あいつ、そこまでうまくなかったんですけれどね。最近ゴールを決めたというニュースがすごく多くないですか?」と(笑)。
川端 彼を見いだした小嶺(忠敏)監督はやっぱりすごいなと思います。
安藤 Jリーガーでも大久保嘉人(FC東京)や渡邉千真(ヴィッセル神戸)のようなストライカーを育てていて、ストライカーを育てるのが本当に上手ですよね。フィジカルとスピードと技術を併せ持った選手を作れるというすごさがある。
平野 フィジカルが強いだけで、技術のない選手は高い評価をされない傾向が少し前までありましたが、選手の持っている能力や素材を信じて、我慢して教えられる監督ですよね。
川端 忍耐力ですね。普通の指導者だったら、下手だった時点で「俺の理想とするサッカーは体現できないな」とか「コンバートするからサイドバックとして頑張れ」となってしまうところを、「あなたは能力があるからストライカーなんでしょう」と割り切って、我慢して使い続ける。
素材を見る目も違うし、そうした我慢ができるところが違いますよね。そういう選手を前で使うという方針を変えないからこそ、こうして「当たり」も出てくるんだと思います。もちろんそうやって使われたすべての選手がうまくいくわけではない。でもストライカーを育てるには、「忍耐力」が一番求められるのだと思います。