ブラジル戦で感じた「ポット1」との差 想定外のアクシデントに我を失った日本

宇都宮徹壱

ブラジルにとっての日本戦の位置付けとは?

チッチ監督はネイマール(写真)らの先発出場を前日会見で明言していた 【写真:ロイター/アフロ】

 マルセロがいる、ガブリエル・ジェズスがいる、ウィリアンがいる、そしてネイマールがいる。日本対ブラジルのフレンドリーマッチが開催されるスタッド・ピエール=モーロワでの前日練習の風景。ブラジル代表の面々が姿を現したのは、午前10時のことであった。翌11月10日のキックオフは13時。これに合わせて、リールでの日本代表の練習も13時に行われていたのだが、前日練習はどちらかが時間をずらさなければならない。よって、ブラジルの面々は早起きを強いられることとなった。それにしても午前中にスタジアムを訪れるというのは、何だか社会人の大会を取材している気分になる。

 この日のブラジルの練習公開は冒頭15分のみ。フィールドプレーヤー全員で「鳥かご」をやっていたが、それほどガツガツとボールを奪いにいくわけではない。ゆっくりと体をほぐしながら、徐々に気持ちを高めていっているのだろう。それでも笑顔を絶やすことがないのは、いかにもブラジルらしい練習光景。加えて、明日の相手が過去11回の対戦で一度も敗れていない日本とあって、セレソン(ブラジル代表の愛称)の面々は実にリラックスした様子であった。

 練習後の会見。ブラジル代表のチッチ監督は、日本戦のスタメンを問われるとスラスラと答えてみせた。いわく「GKアリソン、DFダニーロ、ジェメルソン、チアゴ・シウバ、マルセロ、MFフェルナンジーニョ、ジュリアーノ、カゼミーロ、FWネイマール、ウィリアン、ジェズス」──。これを余裕と見るか、サービスと見るか、あるいは完全に日本を舐めていると見るか。かつて日本代表を率いたジーコ監督は、記者に求められるとスタメンを正直に教えてくれることがあった。ある意味、ブラジルではそんなに珍しいことではないのかもしれない。

 とはいえ、ブラジルにとっての日本戦が、4日後のイングランド戦に向けた「トレーニングマッチ」と認識しているのは、やはり認めざるを得ない事実だ。理由はいくらでも挙げられる。最終ラインにダニーロやジェメルソンを起用するなど、いつものメンバーから5人を入れ替えていること。そして、前日会見でイングランド戦を前提としたような記者の質問が目立っていたこと。世界で2番目に本大会出場を決め、残りの南米予選をチームのベースアップの機会に費やしてきたブラジル。このシリーズでは、本大会で対戦するポット2(欧州)とポット4(アジア)の候補と手合わせするのは、非常に理にかなったマッチメークと言えるだろう。

日本の出鼻をくじいたVARによるPK献上

前半早々に想定外の失点を喫した日本。出鼻をくじかれた格好に 【Getty Images】

 翻って、日本から見たブラジル戦の位置付けとは、どのようなものか? チッチ監督の会見が長引いたため、押せ押せの雰囲気の中で行われた日本の前日会見。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「本大会では世界一と対戦する可能性があるから、今のうちに経験しておく必要がある」と語っている。12月1日に行われる組み合わせ抽選会は、直近のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングに準じてポット分けが行われる。現在44位の日本が最も下のポット4に入るのは確実で、対戦相手はいずれも格上。とりわけ、ブラジルなど強豪国がひしめくポット1との力の差は、今のうちに体感しておく必要があるだろう。

 この日の日本代表のスターティングイレブンは以下のとおり。GK川島永嗣、DFは右から酒井宏樹、吉田麻也、槙野智章、長友佑都。中盤はアンカーに長谷部誠、インサイドハーフは山口蛍と井手口陽介。FWは右に久保裕也、左に原口元気、そしてセンターに大迫勇也。なおキャプテンマークは、久々に戦列に復帰した長谷部ではなく、この日が代表戦100試合目となる長友の右腕に巻かれることとなった。一方、ブラジルのスタメンは予告通り。チッチ体制ではキャプテンが固定されていないが、この試合ではプレシーズンマッチで長友が「チェルシー戦でマッチアップした」というウィリアンが務めることとなった。

 さて、はるかに格上のブラジルに対して、日本が採るべき戦い方が自ずと限定されるのは必定。長友は言う。「まず守備じゃないでしょうか。チームとしてブラジル相手にどれだけ守れるか」。大迫は言う。「守備の時間が長くなると思うけれど、ただ引くだけでなく、しっかり取りに行けるような意識を持ちながらやりたい」。その上で指揮官は、こう明言する。「われわれがボールを奪ったら、どうすべきか。それらについ完璧に(選手には)説明している。どこにつないで、誰が顔を出すかという話までしている」。

 果たして、指揮官がイメージするサッカーを、選手たちはピッチ上で展開することができるだろうか? 小雨が降りしきる中でキックオフを迎えた試合は、日本の積極的な前線でのプレッシングで幕を開けた。入り方としては悪くない。そんな中、日本に予想外のアクシデントが発生したのが、前半8分のこと。日本がスローインを得た直後、主審がゲームを止めてバックスタンド側のタッチラインに走ってゆく。うかつにも私は、VAR(ビデオ・アシスタントレフェリー)が採用されていることを、この瞬間まで知らなかった。やがて主審は、両手で長方形を描くジェスチャーを見せてからホイッスルを吹いてPKスポットを指差し、さらに吉田にイエローカードを提示した。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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