川崎とC大阪の数奇な運命 ルヴァン杯の勝敗を分けたリーグ戦の戦い

江藤高志

今季逃した3つ目のタイトル

ルヴァン杯決勝でC大阪に敗れ、川崎はまたしても悲願達成はならなかった 【(C)J.LEAGUE】

 またしても優勝には手が届かなかった。4日に行われたルヴァンカップ決勝で川崎フロンターレは開始47秒で失った1点を挽回できず、セレッソ大阪に0−2で敗れて悲願達成はならなかった。すでに敗退したACL(AFCチャンピオンズリーグ)、天皇杯に加え3タイトルを逃したことになる。とはいえ、この結果により鬼木達監督の手腕が全否定されるべきではない。それどころか就任初年度の監督としては十分すぎる実績と考える。

 前任の風間八宏監督からチームを引き継いだ時、今季の川崎に対し懐疑的な声が出ていなかったわけではなかった。風間前監督が作り上げたのは川崎サポーターのみならず、サッカーファンを魅了する攻撃サッカーで、2016年シーズンはそれに結果を伴った戦いとなっていた。1stステージ準優勝とチャンピオンシップに進出した末の年間3位という成績。そして天皇杯の準優勝という結果が出ていた。決して悪くはない成績の16年を最後に、川崎は2人のカリスマを失う。その1人が風間前監督で、もう1人が大久保嘉人(現FC東京)だった。大久保に関しては川崎で13年から3年連続で得点王を獲得しており、在籍最終年となった16年もオールラウンドな活躍を見せていた。

鬼木監督が繰り返した3つの原則

鬼木監督は3つの原則を伝え、技術的なベースがあったチームに戦う気持ちを浸透させた 【(C)J.LEAGUE】

 チームを去った2人のカリスマの穴を、鬼木達という新任監督がどれだけ埋められるのか。懐疑的な声が出て当然な状態だった。その鬼木監督は宮崎での一次合宿中に選手の心を震わせるミーティングを行っている。森谷賢太郎が振り返る。

「一番(印象に残っているの)はキャンプの最初のミーティングで、今までフロンターレは優勝したことがなかった。優勝して歴史を変えられるのは今、ここにいるメンバーだ! と言われたことでした」

 この鬼木監督の言葉を受けた森谷は深く共感した。

「本当にそうだなと思いますし、タイトルに向かってチーム一丸となってやるためには、出られない選手が練習でもやらないといけない。ふてくされているような態度を取るべきじゃないと思います。そういうの(鬼木の言葉)があるから、見失わずにやれたかなと思います」と述べている。

 森谷に限らず、選手の心をつかんだ鬼木監督は、チームの中に、徐々に戦うメンタリティーを植え付けていった。ミーティングごとに鬼木監督は3つの原則を繰り返し、選手たちに伝え続けていたという。それが「ハードワーク(走る)」「球際で戦う」、そして「気持ち」だった。

 テクニック偏重の風間前監督の指導で身につけた技術的なベースに加え、鬼木監督は局面で戦うことの必要性を繰り返し指導した。そんな鬼木監督の勝ちたい気持ちは選手にも浸透し、その結果として選手たちが自主的に行動を始めた。

チームが変わる契機となった第9節のC大阪戦

4月30日に行われたアウェーのC大阪戦で惨敗し、川崎は1度チーム瓦解の瀬戸際に立たされた 【(C)J.LEAGUE】

 ルヴァン杯で準優勝、天皇杯、ACLでベスト8入り。さらにリーグでも3節を残して2位に付けている今季だが、あらためてシーズン当初のことを振り返ると信じられない思いになる。シーズン序盤、川崎には勝てない時期があったということ。そんなチームが劇的に変わるきっかけがあった。それが第9節のC大阪戦だった。

 くしくもルヴァン杯決勝で相まみえたC大阪とのアウェーマッチで川崎は惨敗。0−2という得点差以上に酷い内容での敗戦に、チームは危機感をつのらせた。第6節からヴァンフォーレ甲府、北海道コンサドーレ札幌、清水エスパルスと残留を争うチームを相手に続いたリーグ戦3試合連続の引き分けと、C大阪戦の惨敗とで、チームは瓦解の瀬戸際に立たされていた。

 この危機を救ったのが今季からキャプテンに就任した小林悠だった。敗戦の直後、オフ明けの5月2日にC大阪戦に出場した選手たちに声をかけ、クールダウンの練習後にピッチ上で円陣を組みお互いに胸の内をぶつけ合った。

 参加したのは小林、阿部浩之、車屋紳太郎、田坂祐介、谷口彰悟、チョン・ソンリョン、そして奈良竜樹だった。話し合われた内容は、直接的にはC大阪戦惨敗の理由。そしてより本質的な意味で、戦う姿勢が問い直された。

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著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

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