ジュアン・スミスが語る“ケガとの戦い” 「自分の意志でキャリアを終えたい」

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アキレス腱断裂から2年のリハビリを経て復帰

「世界最高のブラインドフランカー」と評価されたジュアン・スミス 【写真提供:WOWOW】

 グローバル化した日本のラグビーには、世界をまたいで活躍してきた選手が数多く流入している。その中にはさまざまなストーリーを刻みながら競技生活を送ってきた多彩な選手がいる。ジュアン・スミスはその代表的な存在だ。南アフリカ代表70キャップ。196cm、116kgの大型でパワフルなフランカーとして2007年のワールドカップ優勝に貢献し、当時の南アフリカ代表ジェイク・ホワイト監督は「世界最高のブラインドフランカー」と称えた。
 そこから左足アキレス腱断裂という大ケガを負いながら、2年間のリハビリを経て復帰。フランスリーグTOP14のRCトゥーロンでフランス王者、欧州チャンピオンも経験。南ア代表復帰も果たし、2017年には日本のトップリーグへ転じた。諸事情でシーズン半ばで引退、退団となったが、その言葉からは、国境をまたいで活躍してきたラガーマンならではの皮膚感覚とリアリティがにじみ出ている。(インタビュー=2017年9月)

――ジュアンさんは世界各地でプレーしてきました。スーパーラグビーとフランスリーグ、日本のトップリーグの、それぞれの特徴を聞かせてください。

 日本のラグビーとスーパーラグビーはとても似ていると思います。とてもクイックなゲームをします。フランスは、もっとフィジカルで、とてもスロー。日本やスーパーラグビーよりもスローです。僕は若い時は、スーパーラグビーのような速いラグビーを楽しんだけど、今は少し難しいな。日本ではゲームがとても速いけど、僕は4年間、フランスでスローなラグビーに慣れちゃったから(笑)。

――南アはとてもフィジカルが激しいラグビーをする印象がありますが、フランスはもっとフィジカルだったのですか?

 たくさんの人に『今までで一番フィジカルなラグビーはどこだったか』と聞かれるけど、もっともフィジカルだったのは、フランスでの4年間でした。フランスリーグTOP14は、僕が経験したもっともタフなリーグでしたよ。毎週試合があり、ホームだろうとアウェーだろうと関係なく、いつもフィジカルな戦いになります。グラウンドコンディションは走るラグビーには合わない。とてもフォワード志向のラグビーで、とてもフィジカルです。フォワードが活躍するリーグですね。

――南アフリカにいた時よりも、体は痛かったりしたのですか?

 スーパーラグビーからフランスリーグに移籍したことは、それほど大変とは感じませんでした。南アはフランスよりも速いラグビーだけど、フィジカル指向ではありますから。僕は、南アでのフィジカル的な負荷が大きいラグビーに慣れていたから、特に問題はなかったですね。

――スーパーラグビーのフィジカルさとフランスリーグのフィジカルさとの違いはどういうものなのでしょうか?

 南アとフランスの違いはひとつ。スーパーラグビーではバックスがフォワードより小さいけど、フランスの場合は、プロップからフルバックまで、皆90キロ超級の選手なのです。フランスにいる選手の方が大きい。そして、フランスには太平洋地域から来ている選手が多い。トンガ、フィジーとかね。それが、南アのスーパーラグビーとのもっとに大きな違いだと思います。

キャリアの終わりは自分で決めたかった

豪快な突破が持ち味で、南アフリカ代表70キャップを獲得した 【写真:ロイター/アフロ】

――ジュアンさんは2011年、スーパーラグビーでアキレス腱断裂という大きな怪我をしてからフランスに行きましたね。

 プロのラグビー選手にとって、怪我は最悪なことで、怪我をすると、3〜4カ月はプレーできない状態になります。僕の怪我はあまりにも重かったので、キャリアを止めるかどうか、というところまでいきました。それはどんなプロのラグビー選手にとっても最悪の事態です。キャリアを終えるのは、自分で決めたいものです。怪我のせいでなくてね。
 それが僕にとっての最大のチャレンジでした。「自分の意志でキャリアを終えたい」。それが2011年2月に怪我をした後のモチベーションでした。自分のキャリアの終わりは自分で決めたいという思いが、そこから2年半のリハビリを支えていたのです。

――その後は、4年間タフなフランスリーグで活躍したのですね。

 そうですね、ラグビー自体はタフでしたけど、とてもエンジョイしました。特に怪我明けでしたからね。2年半の間、たくさんのリハビリをしましたし、5つもの手術も受けたのは、ただフィールドに戻るためでした。だから僕は、どの瞬間も楽しみました。

――フランスリーグTOP14の魅力を教えてください。

 フランスでは、南アよりもスタジアムがずっと小さいのです。1万5000人くらいのところがほとんどかな。でも、どの試合でも、チケットは売り切れ、いつも満員です。フランス人は、とてもラグビーに情熱を持っています。どこでプレーしようと、トゥーロンの街だろうと、アウェーだろうと、応援してくれます。それが、フランスリーグTOP14でもっとも良い点だと思いますね。人々がそれほどまでに、熱狂している。毎週、満員の観客の前でプレーできる。素晴らしい大会ですよ。

――そのフランスから日本に来る決断をした理由は何ですか?

 日本でプレーしたことがあるいろいろな選手に話を聞いたのですが、みんなラグビーだけでなく、日本での経験、人々との交流をエンジョイしていたと話していました。
 僕は、世界中に行ってラグビーをしてきました。南アフリカからオーストラリア、イギリス、ニュージーランド、フランス……でも日本には行ったことがなかった。だから、ラグビーだけでなく、日本では、人々がどういう風に生活しているのかということにもとても興味がありました。もちろん、日本でラグビーをすることも、自分にとってはとてもチャレンジングなことでしたよ。

 それともうひとつ。南アにいる時から、いつも、トヨタのピックアップ・バギーを製造しているところを見てみたいと思っていたんだ。僕は昔、南アでクルマの組立作業をやっていたんだよ。

――トップリーグのプレーの印象はどうですか?

 クイック、クイック、クイックですね。それは僕にとっては、チャレンジです。フランスは、さっきも言ったように、とてもフィジカルで、グラウンドコンディションはあまりランニング・ラグビー向きではありません。とてもフォワードが活躍するラグビーで、まるで10人でラグビーをしているみたいでした。そしてこっちに来たら、とてもクイックなラグビーです。それほどフィジカルではないけど、とてもクイックですね。

15年W杯の日本代表は「勝利に値するパフォーマンス」

21歳で2003年W杯に出場。世界の舞台で長く活躍した 【写真:ロイター/アフロ】

――ジュアンさんはブルームフォンテーン生まれですが、1995年ワールドカップの日本代表チームの印象は何かありますか?

 95年? 素晴らしい思い出というわけではないけど、オールブラックスとビッグマッチをしましたよね。ブルームフォンテーンでね。あの試合でジョナ・ロムーが日本に対して、3トライをしたような……違ったかな?(注:1995年ワールドカップでトライ王となったニュージーランド代表WTBジョナ・ロムーは日本戦は欠場していた。試合はニュージーランドが145対17という記録的スコアで日本に圧勝した)

――当時はスタジアムで観戦したのですか。

 そうです。僕は当時14歳でした。フリーステイト・スタジアムは、それまでは大きいスタジアムではなかったけれど、ワールドカップの直前に、4万人くらい入る新しいスタジアムに作り直したんです。すごいことでしたよ。ブルームフォンテーンのラグビーにとっては、大きなことでしたね。

――それから20年後に、日本代表がワールドカップで南アフリカ代表を破りました。

 いろいろな人に『あの試合では何が起きたのか?』と聞かれましたよ。あの時、スプリングボクスは、それほど悪い試合をしたとは思いません。むしろ、日本がとても良い試合をしたのです。日本はスプリングボクスに対して、試合の間ずっと、あらゆる面でプレッシャーをかけていました。とてもエキサイティングな試合でした。あの日は、日本が勝利に値する素晴らしいパフォーマンスをしたのです。

――あなたがいなかったので、日本はラッキーでした。

 僕もとてもラッキーだったよ(笑)

――日本のファンへのメッセージをお願いします。

 フランスに行った時も、スーパーラグビーからフランスリーグTOP14に適応しました。ゲームに慣れないといけませんでした。テンポとかスタイルとか、コーチが僕らに望むゲームプランとかに慣れないといけません。そして僕は、今また同じ状況にいます。とてもスローなゲーム展開のフランスから来て、日本ではゲームがよりクイックで、試合の中でより走ることが求められ、ルールの適用方法も違い、リーグがどのようにルールを調整しているかに慣れるのは、どの選手にとっても、大きなチャレンジです。ゆっくりと、でも着実にその点を克服しています。

――最後に、RCトゥーロンの注目選手を教えてください。

 RCトゥーロンというチームを語るなら、まずブジェラルを称えたいですね。会長のムラド・ブジェラルです。彼はたくさんの資金をかけて、良い選手を獲得しています。今もビッグネームの選手がたくさんいますよね、マア・ノヌー、マチュー・バスタローとかね。誰か一人の選手を挙げるのは難しいけれど、ワールドクラスのチームだから、テレビを見るときは誰かを見るんじゃなく、RCトゥーロンのチーム全体を見ると良いんじゃないでしょうか。エキサイティングな選手がたくさんいるし、絶対に勝つつもりでプレーしています。ワールドクラスのチームというのは、どんなときも勝つラグビーをしようと思っています。そこを注目してほしいですね。

ジュアン・スミス

1981年7月30日、南アフリカ ブルームフォンテーン生まれ 36歳
2003年6月、南アフリカ代表デビュー、70キャップを得る。
ワールドカップには2003年、2007年の2大会で全試合に出場し、2007年大会は優勝に貢献。
2003−2005年はキャッツ、2006−2011年はチーターズ、スーパーラグビーは2チームでプレー。
2011年に左足アキレス腱を断裂し、同年のワールドカップを断念したが、2年間のリハビリを経て2013年、フランスリーグTOP14のRCトゥーロンで現役復帰。2014年のアルゼンチン戦で南ア代表に4年ぶり復帰を果たす。
2017年、トヨタ自動車ヴェルブリッツに加入するが、同年10月、プライベートな事情のため現役引退を表明、退団した。

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