早生まれの“不利”はどうすれば覆せるか。保護者や指導者に知ってほしい「事実&視点」

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【©中島大輔】

日本で生まれて野球を始め、熱中して上達し、プロになった選手たちのなかには“ある傾向”が存在する。生まれた月に偏りがあるのだ。

【©勝亦陽一】

上記のデータは東京農業大学でスポーツ科学を研究する勝亦陽一教授によるものだ。

学童野球や中学野球では、いわゆる“早熟”の選手が重用されるケースが多い。
身体の大きい選手のほうが速いボールを投げ、遠くまで飛ばす傾向が強く、目の前の試合に勝利しやすいからだろう。

身体の大きさは、遺伝によって決まる部分が多い。睡眠、食事や運動の影響も受けるが、選手自身では左右できない要素が多くを占めるのだ。

【©勝亦陽一】

中学生で全国大会に出場した投手を見ると、一般的な選手より高身長となっている。

【©勝亦陽一】

勝亦教授のデータによると、全国大会に出場した投手は平均171.8cmだったのに対し、一般的な選手は平均166.6cm。身長の高い投手は速い球を投げるために必要な運動エネルギーを生みやすく、背丈が有利に働くのだ。

早熟と晩熟は、遺伝子でほぼ決まっている

一般的に男子の場合、身長増加のピークは中学1年生前後と言われる。

ただし個人差が大きく、小学生で身長の伸びのピークがくる子もいれば、大学生まで伸び続ける者もいる。前者が“早熟型”、後者が“晩熟型”だ。

「いつ増加のピークがくるのかは、ほとんど遺伝的に決まっていると言われています」(勝亦教授)

興味深いのは、家族構成も選手の野球の競技力に与えていることだ。兄や弟がいる選手は、「NPB12球団ジュニアトーナメント」など地域の選抜チームに選ばれやすい傾向にあるという。

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兄が先に野球を始めていた場合、弟は早い年齢から一緒にプレーするきっかけが生まれやすい。さらに弟がいれば、兄弟でキャッチボールなど練習(野球遊び)をすることもできる。

以上の点などで、兄弟のいる選手は野球が上達しやすい環境にあるのかもしれない。

生まれ月の多様な影響

小中学生の男子では生まれ月によって体力差が大きくあるが、高校卒業を迎える頃、学年内の体力差はほぼ消滅する。

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「男子であれば、体力の差は高校卒業くらいでようやく消えます。でも成長の遅い子は大学でも身長が伸びるので、大学の3・4年生になるとようやく体力差が埋まります」(勝亦教授)

一方、男子より発育の早い女子の場合、「女の子のほうが体力の差は早く埋まるので、生まれ月の影響は少ないと言われています」。

いわゆる早熟と晩熟を考慮し、選手を指導しているケースは決して多くない。同じ学年でも4月生まれと3月生まれでは1年近くの“成長の差”があるにもかかわらず、早熟のほうが試合に起用されやすい傾向にあるのだ。

【©勝亦陽一】

上記のデータを見ると、小学生の段階では4-6月生まれが多いチームは勝利しやすく、選抜チームにも選ばれやすいと言える。対して、選抜チームに選ばれる1-3月生まれの割合は極端に少ない。

学童野球でいわゆる“うまい選手”は投手や捕手を務めるケースが多いが、4-6月生まれは1-3月生まれより多くの割合を占めている。

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生まれ月が影響するのは「今」だけではない。子どもたちの「夢」も左右する。

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早く生まれて子どもの頃から周囲よりうまい選手は甲子園やプロで活躍することを目指す一方、早生まれで成長の遅い子どもは野球を早々とあきらめて“他の道”に進んでいるのだ。

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「今」と「将来」の位置づけ

選手を育成する上で、重要になるのはビジョンだ。

小中学生の段階から勝利を最優先して勝ちに行くのか。あるいは、もっと先で大きく飛躍することを見据えるのか。

「今」と「将来」をどう位置づけるかで、チーム方針や選手起用は大きく変わってくる。

目の前の勝利を最優先するなら、その時点で競技力が高い選手を優先的に起用し、レギュラーを固定したほうが勝利する確率は高くなるだろう。

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生まれ月の早い子は小中学生の頃から周囲よりうまく、試合に多く起用され、野球に対して熱心に臨む。そうして卒業後、指導者として野球に関わるケースもある。

興味深いことに体育教師かつ高校野球指導者は4-6月生まれが50%近くを占めるという。

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「自分が体育や野球でいい思いをした人が、そうした職業に就いているからです。本人も周囲も気づいていませんが、それくらい生まれ月の影響は長期的で大きいということです」(勝亦教授)

では、目の前の勝利、つまり「今」を重視すると、どんな悪循環が生まれるだろうか。

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周囲より野球がうまくない子は試合で起用されにくいため、野球をつまらなく感じる。試合へ行っても試合には出してもらずにずっと応援、試合に出たら「なぜできないんだ」と罵倒するような指導者に出会った場合、練習に行くのが嫌になるだろう。
ネガティブな気持ちになると練習から遠ざかり、ひいては野球をやめたいと考えるようになっていく。

昨今は野球人口減少が進むなか、指導者はそうした悪循環に陥らせないことが重要だと勝亦教授は指摘する。

「野球をやっていた人で、自分の子どもに『野球、楽しいよ。やったほうがいいよ』と心から言える人がどれくらいいるでしょうか。そんなに多くないと思います。
特に競技人口が多かった頃は、ほとんど試合に出ずに野球を辞めた人も多かったわけです。そういった人は、自分の子どもに『野球やったほうがいいよ』と言わないと思います。

ですので、野球をやっている満足感、幸福感をみんなが得られるようなチームをつくっていくことが大事。高校や中学校の先生にはそう伝えています」

【©中島大輔】

早生まれの“逆転劇”

本稿の冒頭で、日本のプロ野球選手には生まれ月の偏りがあると述べた。同時に、もう一つ興味深いデータがある。最優秀防御率などのタイトルホルダーを見ると、早生まれが逆転しているのだ。

【©勝亦陽一】

現役選手で言えば、千賀滉大(メッツ)、村上宗隆、石川雅規(ともにヤクルト)、菊池涼介(広島)、源田壮亮(西武)、周東佑京(ソフトバンク)らが早生まれだ。

「高校生くらいまでは4−6月、7−9月が有利ですけど、それ以降になると逆転します。不思議ですよね。もしかしたら、ケガがあるかもしれない。4−6月、7−9月生まれはずっと一線で活躍してきて、プロに入ってもそういうプレシャーを受けているかもしれない。一方、10-12月、1-3月生まれはコツコツやって、逆転するということがあるかもしれません」(勝亦教授)

生まれ月の早い子どもたちは身体の成長も早い分、より大きな負荷もかかっている。それなのに多くの試合で起用されると、心身にかかる負担も大きく、ケガにつながるリスクがあるのだ。

一方、早生まれの子は成功だけでなく失敗を経て、どうすればうまくなれるかと学びを重ねてきた。そうして、プロ野球でタイトルを獲得できるほど成長できたのかもしれない。

指導者や保護者にとって、大切な視点を勝亦教授が語る。

「成功体験はもちろん大事。でも成功体験だけで子どもは成長しなくて、いろんな経験をすることが大事だと思います。うさぎと亀の寓話がありますよね。うさぎは途中で寝てしまって、亀に逆転されるという話です。生まれ月になぞらえると、うさぎは早熟なので早く行ける。亀は晩熟で、ゆっくりだけどコツコツ歩いて逆転した。

何が問題かと言うと、うさぎは亀を見ていたわけです。亀は遅いから待っていていいと、寝ていたら逆転された。でも亀は、ゴールが明確にあってそこにコツコツ進んだから逆転した。目標設定の仕方が非常に大事だということです」

【©勝亦陽一】

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遺伝子をONにするために

保護者の立場に立ったとき、子どもを成長させるためにどんな習慣をつけさせればいいのか。そんな質問を受けると、勝亦教授はこう答えている。

「人が持っている遺伝子はたくさんあって、そのごくわずかしか使われていないことが研究でわかっています」

そう語ると、遺伝子研究で知られる村上和雄氏の著書から以下を抜粋・改変して伝えた。


<眠っている遺伝子をONしよう>

人間の不可思議なのは、遺伝子がスイッチONになっても、電灯のスイッチと同じで、ついたり消えたりするようにできている。遺伝子をスイッチONできる人は以下の特徴がある。

(1)物事に集中する人
(2)持続性の有る人
(3)常識に縛られない闊達(かったつ)さを持つ人

*自分の考えや習慣にとらわれず、日常生活(環境)を変えて、それを継続し、遺伝子をONしよう

横型ではなく、縦型で比較を

では、指導者にとって大事なのはどんな点か。横型(他人)比較ではなく、縦型比較(過去の自分)をすることだと勝亦教授は指摘した。

【©勝亦陽一】

「これはスポーツ心理学者の布施努さんから伺った考え方です。多くの場合、指導者が選手を試合で使う、使わないのを決めるときには、A、B、Cの3選手を比較しているわけです。目の前にある試合に勝つためにはそれは仕方ないですし、選手にはこういう横の評価も必要です。
でも、昨日の自分より今日の自分が良くなったとか、その選手が以前より良くなったということを見てあげてほしい。特に将来を見据えた指導をするのであれば、縦の評価が欠かせません」

早生まれの不利はなぜ起こるのか。それを理解した上で、周囲の大人はどう対応するべきかが重要だ。

競技人口の減少が進む野球界では、今後ますます大事な視点になっていくことは間違いない。



(文・撮影/中島大輔)
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著者プロフィール

「Homebase」は、全日本野球協会(BFJ)唯一の公認メディアとして、アマチュア野球に携わる選手・指導者・審判員に焦点を当て、スポーツ科学や野球科学の最新トレンド、進化し続けるスポーツテックの動向、導入事例などを包括的に網羅。独自の取材を通じて各領域で活躍するトップランナーや知識豊富な専門家の声をお届けし、「野球界のアップデート」をタイムリーに提供していきます。さらに、未来の野球を形成する情報発信基地として、野球コミュニティに最新の知見と洞察を提供していきます。

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