早生まれの“不利”はどうすれば覆せるか。保護者や指導者に知ってほしい「事実&視点」
学童野球や中学野球では、いわゆる“早熟”の選手が重用されるケースが多い。
身体の大きい選手のほうが速いボールを投げ、遠くまで飛ばす傾向が強く、目の前の試合に勝利しやすいからだろう。
身体の大きさは、遺伝によって決まる部分が多い。睡眠、食事や運動の影響も受けるが、選手自身では左右できない要素が多くを占めるのだ。
早熟と晩熟は、遺伝子でほぼ決まっている
ただし個人差が大きく、小学生で身長の伸びのピークがくる子もいれば、大学生まで伸び続ける者もいる。前者が“早熟型”、後者が“晩熟型”だ。
「いつ増加のピークがくるのかは、ほとんど遺伝的に決まっていると言われています」(勝亦教授)
興味深いのは、家族構成も選手の野球の競技力に与えていることだ。兄や弟がいる選手は、「NPB12球団ジュニアトーナメント」など地域の選抜チームに選ばれやすい傾向にあるという。
以上の点などで、兄弟のいる選手は野球が上達しやすい環境にあるのかもしれない。
生まれ月の多様な影響
一方、男子より発育の早い女子の場合、「女の子のほうが体力の差は早く埋まるので、生まれ月の影響は少ないと言われています」。
いわゆる早熟と晩熟を考慮し、選手を指導しているケースは決して多くない。同じ学年でも4月生まれと3月生まれでは1年近くの“成長の差”があるにもかかわらず、早熟のほうが試合に起用されやすい傾向にあるのだ。
学童野球でいわゆる“うまい選手”は投手や捕手を務めるケースが多いが、4-6月生まれは1-3月生まれより多くの割合を占めている。
「今」と「将来」の位置づけ
小中学生の段階から勝利を最優先して勝ちに行くのか。あるいは、もっと先で大きく飛躍することを見据えるのか。
「今」と「将来」をどう位置づけるかで、チーム方針や選手起用は大きく変わってくる。
目の前の勝利を最優先するなら、その時点で競技力が高い選手を優先的に起用し、レギュラーを固定したほうが勝利する確率は高くなるだろう。
興味深いことに体育教師かつ高校野球指導者は4-6月生まれが50%近くを占めるという。
では、目の前の勝利、つまり「今」を重視すると、どんな悪循環が生まれるだろうか。
ネガティブな気持ちになると練習から遠ざかり、ひいては野球をやめたいと考えるようになっていく。
昨今は野球人口減少が進むなか、指導者はそうした悪循環に陥らせないことが重要だと勝亦教授は指摘する。
「野球をやっていた人で、自分の子どもに『野球、楽しいよ。やったほうがいいよ』と心から言える人がどれくらいいるでしょうか。そんなに多くないと思います。
特に競技人口が多かった頃は、ほとんど試合に出ずに野球を辞めた人も多かったわけです。そういった人は、自分の子どもに『野球やったほうがいいよ』と言わないと思います。
ですので、野球をやっている満足感、幸福感をみんなが得られるようなチームをつくっていくことが大事。高校や中学校の先生にはそう伝えています」
早生まれの“逆転劇”
「高校生くらいまでは4−6月、7−9月が有利ですけど、それ以降になると逆転します。不思議ですよね。もしかしたら、ケガがあるかもしれない。4−6月、7−9月生まれはずっと一線で活躍してきて、プロに入ってもそういうプレシャーを受けているかもしれない。一方、10-12月、1-3月生まれはコツコツやって、逆転するということがあるかもしれません」(勝亦教授)
生まれ月の早い子どもたちは身体の成長も早い分、より大きな負荷もかかっている。それなのに多くの試合で起用されると、心身にかかる負担も大きく、ケガにつながるリスクがあるのだ。
一方、早生まれの子は成功だけでなく失敗を経て、どうすればうまくなれるかと学びを重ねてきた。そうして、プロ野球でタイトルを獲得できるほど成長できたのかもしれない。
指導者や保護者にとって、大切な視点を勝亦教授が語る。
「成功体験はもちろん大事。でも成功体験だけで子どもは成長しなくて、いろんな経験をすることが大事だと思います。うさぎと亀の寓話がありますよね。うさぎは途中で寝てしまって、亀に逆転されるという話です。生まれ月になぞらえると、うさぎは早熟なので早く行ける。亀は晩熟で、ゆっくりだけどコツコツ歩いて逆転した。
何が問題かと言うと、うさぎは亀を見ていたわけです。亀は遅いから待っていていいと、寝ていたら逆転された。でも亀は、ゴールが明確にあってそこにコツコツ進んだから逆転した。目標設定の仕方が非常に大事だということです」
遺伝子をONにするために
「人が持っている遺伝子はたくさんあって、そのごくわずかしか使われていないことが研究でわかっています」
そう語ると、遺伝子研究で知られる村上和雄氏の著書から以下を抜粋・改変して伝えた。
<眠っている遺伝子をONしよう>
人間の不可思議なのは、遺伝子がスイッチONになっても、電灯のスイッチと同じで、ついたり消えたりするようにできている。遺伝子をスイッチONできる人は以下の特徴がある。
(1)物事に集中する人
(2)持続性の有る人
(3)常識に縛られない闊達(かったつ)さを持つ人
*自分の考えや習慣にとらわれず、日常生活(環境)を変えて、それを継続し、遺伝子をONしよう
横型ではなく、縦型で比較を
でも、昨日の自分より今日の自分が良くなったとか、その選手が以前より良くなったということを見てあげてほしい。特に将来を見据えた指導をするのであれば、縦の評価が欠かせません」
早生まれの不利はなぜ起こるのか。それを理解した上で、周囲の大人はどう対応するべきかが重要だ。
競技人口の減少が進む野球界では、今後ますます大事な視点になっていくことは間違いない。
(文・撮影/中島大輔)
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