“名将”ホワイト氏が見た日本ラグビー 「山田章仁はスペシャルな選手」

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フランス「TOP14」が接戦になる理由

世界各国で確かな実績を残してきたジェイク・ホワイト監督 【写真提供:WOWOW】

 ボーダーレス化が進む世界のラグビーでも、結果を出しているという意味ではこの人がナンバーワンだろう。2007年ワールドカップで南アフリカを優勝に導き、南アフリカからオーストラリア、トンガ、フランスでコーチングを重ね、今年トヨタ自動車ヴェルブリッツの監督に就任。低迷していた名門チームの再建に挑んでいる。名将ジェイク・ホワイトが見たフランスリーグTOP14の特徴と、結果を出せた秘訣。そして日本ラグビーへの評価とメッセージは……。

――ワールドカップ、スーパーラグビーなど、世界ラグビーの頂点を経験してきたジェイクさんから見て、フランスリーグTOP14とはどういうリーグでしょうか。

 ものすごくタフなリーグです。まず、期間がとても長い。8月から翌年の6月までやっています。そして、実力が接近していることも大きな特徴だと思います。1位のチームが最下位のチームと戦っても、アウェーだったら負けたり、接戦になったりします。

 もうひとつは世界中のトップ選手が集まっていることです。ニュージーランドのダン・カーター、マア・ノヌーやヴィクター・ヴィト、南アフリカのビスマルク・デュプレッシー……ヨーロッパからもフランスだけでなく、ジョージアの選手が来ていたり、本当に世界中の国から選手が集まっています。だから、リーグのレベルが高い。RCトゥーロンが欧州チャンピオンズカップで3回も優勝していることがそれを証明しています。

――「接戦が多い」のはなぜでしょう。

 歴史が物語っていると思います。それぞれのチームに伝統があって、昔から接戦を繰り返してきました。それに、TOP14にいるチームはどこも資金力がある。上位のチームと下位のチームの差が大きくないのです。だから最下位のチームにもいい選手はいます。そして、ホームで戦うときにはものすごいサポートを受けるし、誰もが『ホームではいい試合をしなきゃ』と奮い立つ。これは、ホームチームには大きなアドバンテージになります。ただし、アウェーでも勝とうという発想がないのは物足りない。それだけ難しいということなんですけどね。

“イージーな空気”から意欲に溢れたチームに

2007年のワールドカップでは南アフリカ代表を優勝に導いた 【写真:ロイター/アフロ】

――ジェイクさん自身、スーパーラグビーからフランスリーグTOP14に移ったとき、指導法を変えたりしたのですか。

 そうですね、たくさん変えましたよ。スーパーラグビーとはラグビーの解釈が違うし、レフリーのマネジメントも違います。
 スーパーラグビーは始まってから終わるまで6カ月とシーズンが短くて、プレシーズンにキャンプなど十分時間をかけて準備できるし、いいスタートを切ればプレーオフまでは行けるという目算が立ちます。しかし、TOP14は10カ月くらいリーグ戦をするから、その分プレシーズンの準備期間は短い。そして、国内のシーズンを戦いながら、並行してヨーロッパのカップ戦も戦います。フランスリーグを戦いながら、次の週はアイルランドへ行ってマンスターと戦って、フランスに戻ってTOP14を戦って、次の週はイングランドへ行ってワスプスと戦ったりする。異なるカルチャー、違うラグビースタイルを持つ相手とも対戦していかないといけないのです。

 そして、スーパーラグビーは基本的に自国の選手で構成されるから、言語をはじめカルチャーも共通しています。天気もいい。その点、フランスでは世界中の選手が集まってくるから言葉もカルチャーもバラバラ。グラウンドコンディションも、南アフリカでは80%以上がドライなコンディションで試合できたけれど、フランスでは地域によって、季節によって、全然違います。

――ジェイクさんが2シーズン指揮を執ったモンペリエは、それまで下位にいるチームでしたが今では上位の常連になりました。どういうところを変えたのですか。

 自分が変えたことは3つあります。まずリクルートの部分。フランソワ・ステインやビスマルク・デュプレッシー、ジャック・デュプレッシーなど、南アフリカのときから知っていた有能な選手を獲得しました。それから練習プログラムを変えて、試合に向けてハードに、賢くトレーニングするようにしました。

 最後はクラブの雰囲気です。それまでのモンペリエは、イージーな空気がありました。引退間近の選手が、最後の一稼ぎにいくところというような、覇気のないチームでした。私はその意識を変えるために、外国から能力も、経験も、自信もある選手を連れてきて、フランス人選手も向上心のある、意欲的な選手を獲得して彼らを試合に出すようにしたのです。そうしてクラブが変わると、ますますいい選手が来るようになりました。イングランドのノーサンプトン・セインツでプレーしていたルイ・ピカモールを始め、いい選手がどんどん来てくれるようになった。そこからオーナーのモヘド・アルトラッド氏はとても野心的な人なので、いい選手を取るためならお金を出してくれたということ。本気でハードワークして、結果を出そうとする意欲に溢れたチームになったのです。

「新たなチャレンジを求めていた」

ホワイト監督が高く評価した日本代表WTB山田 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

――そのモンペリエを辞めて、今季から日本のトヨタ自動車に来ました。この決断の理由は。

 私自身、新たなチャレンジを求めていたのが一番の理由です。コーチとして、まだまだ成長したいと思っています。私は幸いなことにこれまで、南アフリカ、オーストラリア、トンガ、フランスという異なった文化の元でコーチ経験を積むことができましたし、新しい学びの機会を求めていました。

 それと、私自身が日本に来たかった。日本には以前もスポットコーチで数回訪れていたし、日本の選手が非常に熱心なことは知っていました。日本の選手は、やるべきことを理解したら本当に真剣に取り組むことができます。そのためには最後まで言葉を適切に使って説明する能力が求められるけれど、そこにチャレンジすることで自分を高められると思いました。
 あとは、トヨタという大きな会社が、大きな志を持ってクラブを運営していること。そして、ジャージがスプリングボクスと同じモスグリーンというところにも親近感を持ったのです。

――日本の選手については以前からご覧になっていて、エディーさんからもいろいろな情報を得ていたと思います。日本の選手が世界と戦う上での強み、弱みはどういうところだと見ていらっしゃいますか。

 世界中の人が知っているよ。日本の選手はスキルレベルが高い。パスもキャッチも精度が高い。テンポ良く攻撃を仕掛けることができるし、プレーのスピードもある。これらは前回のワールドカップで証明されたことです。フェイズを重ねる中で攻撃に勢いを作ることができます。

 しかし、フィジカルの部分が足りないことも世界中の人が知っています。足りないのはロックの高さもそうだし、ジョージアやアルゼンチンのFW選手のようなフィジカルの強さ、フィジーの選手のようなアスリート能力といったところだと思います。

 ただ、セットプレーに関しては日本はまじめに時間をかけて強化して、強みにしてきました。前回のワールドカップでは、スクラムコーチのマルク・ダルマゾを中心にスクラムを強化して、ハードワークを重ねて、あの結果を出しました。世界のラグビーにとって、あの日本のパフォーマンスは衝撃的でした。

――2019年のワールドカップ、2020年のオリンピックに向けて、ジェイクさんが期待する日本の選手、トヨタの選手の名前を挙げていただけますか。

 誰かを挙げるのは難しいですね。正直に言うと、そこまで日本の選手をしっかり見ることはまだできていません。ここまで見た中では(取材は第5節終了時)トヨタとの試合で3トライを決めたパナソニックワイルドナイツの山田章仁はスペシャルな選手ですね。あのトライを取りきるスキル、チャンスに反応する嗅覚は素晴らしい。15人制であれ7人制であれ、ワールドクラスで活躍できる選手だと確信しました。
 でも、彼だけではない。本当に日本にはいい選手がたくさんいると思いました。どのチームにも1人や2人じゃなく、いい選手が何人もいるし、各チームに個性がある。上位チームだけじゃない。これはトップリーグの素晴らしいところだと思っています。

ジェイク・ホワイト

1963年12月13日生まれ 南アフリカ・ヨハネスブルク出身
教職を経て、1997年、南アフリカ代表のテクニカルアドバイザーに就任。
1999年、U21南アフリカ代表アシスタントコーチを経て2002年、U21ワールドカップで南アフリカを率いて優勝。2004年に南アフリカ代表ヘッドコーチに就任し、2007年ワールドカップ優勝。
2011年、IRB(現ワールドラグビー)殿堂入り。
2012年からスーパーラグビーのブランビーズ、シャークスで指導。
2014年にトンガ代表テクニカルアドバイザー、
2015年から2シーズン、フランスリーグTOP14モンペリエのヘッドコーチを務める。
2017年からトヨタ自動車ヴェルブリッツの監督。

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第8節:
ポーvsモンペリエ 10/28(土)深夜0:45〜 [WOWOWプライム] ※生中継
ラ・ロシェルvsトゥールーズ 10/29(日)深夜0:35〜 [WOWOWプライム] ※生中継

第9節:
リヨンvsラ・ロシェル 11/4(土)深夜2:15〜 [WOWOWプライム] ※生中継
モンペリエvsクレルモン・オーヴェルニュ 11/5(日)深夜0:35〜[WOWOWプライム] ※生中継

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