森岡亮太、ベルギーで一躍“時の人”に 「絶滅危惧種の10番」に高まる期待

中田徹

ベフェレンはプレーオフ進出を狙える位置に

コルトレイク戦で今季6点目を決めた森岡 【写真は共同】

 現在、べフェレンはベルギー1部で暫定ながら5位(10月25日の試合終了時点)。上位6チームで争うプレーオフ進出を狙える位置に付けている。

 昨季のべフェレンは、ベルギーリーグ30試合(レギュラーシーズン)を戦って28ゴールしか奪えなかった。それが、今季は25日に行われた、コルトレイクを相手に2−1で勝利した試合で28ゴールに達してしまった。まだシーズンは前半戦の12節だ。

 その28ゴール目は、森岡亮太による貴重な決勝ゴールだった。この日、ベフェレンはコルトレイクの守備にアクセントを置いた戦術に、なかなか打開策を見つけられなかった。しかし後半7分に失点すると、一気にチーム全体が前がかりになり、森岡を起点とした反撃が始まった。1対1で迎えた後半35分、森岡は左サイドバック(SB)、エルディン・デミルのクロスをヘディングで合わせ、決勝ゴールを決めた。

 ゴール正面まで走り込み、最後は相手DF2人の間に身を投げ出すようにして決めた、渾身のヘディングシュートだった。

「めっちゃいいボールが来たので、本当に合わせるだけという感じでした」

 森岡はこれで今季6ゴール目。得点ランキングは3位タイだ。アシスト数は、前節のズルテ・ワレヘム戦で2つ決めたことで8となり、アシスト王争いでは単独2位に付けている。首位フォルマー(クラブ・ブルージュ)とあった3つの差が、1まで縮まった。

日課は試合前の「イメージトレーニング」

森岡は試合前の日課として、イニエスタなどスーパースターのプレー動画を見ているという(写真はゲント戦のときのもの) 【写真は共同】

 今や森岡はベルギーサッカー界の「時の人」である。

 10月14日の全国紙『ヘット・ニーウスブラット』は森岡のインタビューに紙面4ページをまるまる割いた。毎週水曜日に発売される週刊誌『フットボール・スポルトマガジン』の最新号では、たった一言「フットボールとは考えるスポーツだ。試合の前、私はイスコやイニエスタの映像を見ている」という“森岡語録”が大きな字で紹介されていた。

 コルトレイク戦の後、森岡は試合前に映像を見ながらイメージトレーニングしていることを認めた。では、この日はいったいどんなスーパースターをチェックして試合に臨み、得点を決めたのだろうか。森岡は「今日はちょっとね」と言ってから、思い出し笑いをしながら話しだした。

「いつも携帯で見ているんですけれど、今日はi−Padで見ていたんですよ。そしたらいろいろな選手が『何を見ているんだ』みたいに寄って来て、それこそアシストしてくれた左SBの選手(デミル)とか、右サイドハーフの選手とかが来て、『俺の映像を見ろ』と(言ってきた)。彼らの名前を検索して、10分ぐらいのハイライトシーンを見ていました。そうしたら、(デミルが)いい形でアシストしてくれました。彼の映像を見て良かったです(笑)」

 サイドからのボールに対して、相手DF陣に欠点があることもしっかり見抜いた上で、森岡がゴール前まで走り込んで、DF2人の間に割って入っていった。

「そこがボールウォッチャーになっていて、スペースがありました。ベルギーのチームは割とボールウォッチャーになることが多い。1点目もそういう感じで、(イブラヒマ・)セクがいい感じでフリーで決めていましたし、『あそこは空いているな』というのは意識していました」

 デミルからの完璧なクロスに、森岡は「あまり得意じゃない僕でも(ヘッドを)決められたので、今日は本当にいいボールが来ました」と振り返ったが、その過程には森岡の試合前の準備、試合中の観察があったことも見過ごせないのである。

森岡に漂う「80年代の10番」の香り

「絶滅危惧種の古典的な10番」とベルギーで評されることもある森岡。1992年生まれの彼だが、どことなくそのボールさばきには80年代の優雅な10番の香りが漂っている。

 80年代を代表するMFの1人だったラースロー・ベレニは、アントワープの監督として森岡に「トイレまで着いてくるかと思った」と言わしめたほどの密着マークを付け、封じ込めようとした。森岡への包囲網は狭まるばかりである。

 コルトレイク戦でも、森岡へのスペースはあまりなく、ボールタッチもそれほど多くなかった。それでも、これまでのベルギーでの成功体験から、「我慢すればいい。我慢さえしていれば、やがて相手の守備にほころびが生まれる」という強い気持ちが森岡にはあるのではないだろうか。

「『我慢すればいい』というよりも、そこは我慢しないとダメだと思っています。もちろん、自分のやりたいプレーをやるのも1つですけれど、今日みたいな試合でいい形を作れない自分にボールが入って来ないとなったら、無理にやり続けるというのはチームにとってよくない。だったら、来るべき時まで、チームから求められている守備をしっかりやるとか、やるべきことをやっておいて、とりあえず“それ”を待つ――というのは試合の流れを見て、意識しています」

 コルトレイク戦で、“それ”は試合終了10分前に訪れた。なるほど、サッカーは考えるスポーツである。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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