U-17と20、2つのW杯でぶつかった16強の壁 痛感した日本サッカー界に共通する課題

川端暁彦

2つのチームが同じように直面した課題

世代別の2つの世界大会で共に16強に終わった日本。2つのチームが直面した共通の課題とは? 【佐藤博之】

 2017年にU−17とU−20日本が2つのワールドカップ(W杯)への同時出場を果たしたのは、実に10年ぶりのことだった。そして終幕は共に16強。グループステージでの戦績も1勝1分け1敗と同じであり、首位通過を果たせなかったことからラウンド16において圧倒的な強さでグループを抜けてきた強国(U−20は準優勝のベネズエラ、U−17は大会最強のタレント集団との評もあったイングランド)とぶつかって敗れるという流れまで同じだった。

 だが、「よって、ベスト16に壁がある」と断じるのは少々安直にすぎる。ただ、2つのチームが同じように直面した課題については、捨て置かないで考えておく必要があるだろう。異なる監督、異なる世代のチームが同様の課題に遭遇していたのなら、それは日本サッカー界としての課題と見るべきだからだ。

痛感させられたアスリート能力の差

高いキープ力を誇る平川(4番)ですら、W杯では強くて“速い”プレスに対応し切れなかった 【佐藤博之】

 2つの大会を通じてあらためて痛感させられたのは、極めてベーシックなアスリート能力全般の向上だ。科学的なトレーニングとタレント発掘の成果だろう。単純に走る・動く・跳ぶといったベースの能力がまず高い。U−17で日本が破ることのできなかったフランスとイングランドの試合はどちらも「相手の足が速い」という実に身もふたもないけれど、走るスポーツにおいては非常に深刻な差を痛感させられながらの試合運びを強いられた。

 スピードの部分は相手のプレッシングに対しても感じた部分だ。「日本では絶対に体感できない迫力とスピード」で迫ってくる相手に対し、技術でいなしてボールを運んでいけるかどうか。「平川怜(FC東京U−18)が、あんなボールの失い方をするんですよ」と指揮官の森山佳郎が絶句したように、日本国内の試合では圧倒的なキープ力を誇る司令塔ですら自由にプレーできないほど激しく、そして絶対的な速さに裏打ちされたプレッシング。そこにも対応し切れなかったことは否めない。

 大会前、平川は「フィジカルコンタクトの強さはJ3の試合で(高いレベルに)慣れている」と語っていたが、単なる当たりの強弱ではなく、絶対的な“速さ”を伴ったプレッシングは、たとえJ1リーグでも味わえない感覚だろう。おまけにフランスやイングランドの選手たちは、戦術的にもしっかりしたベースの高さまであった。高い強度と“速度”のプレッシャーを受けながら、なお技術的精度を発揮できたかと言えば、やはり厳しいものがあった。これは内山篤監督が大会後にU−20代表について指摘していたことと同一の課題だ。

価値あるイングランド戦のトライ

割り切りマインドが奏功したイングランド戦だったが、ゴールを奪う部分は課題として残った 【佐藤博之】

 もちろん、これをもって「日本人も、もっと速くなればいいじゃない」という結論なら本当に身もふたもないが、そういう話では当然ない。解決策の1つのヒントはイングランドとのラウンド16で見られた。グループステージのフランス戦では相手の高速プレスにあえて単純にトライして敗れたが、その反省を受けて臨んだこの試合では、後ろからつないで攻める「日本人らしい“いいサッカー”」にこだわることなく、「蹴ったっていいじゃない」(森山監督)という割り切りマインドで臨みながら、勝機を探った。

「日本でテレビ越しに見ていた人は『もっとつなげばいい』と思ったかもしれない。僕は選手のすぐ近くで見ていたから分かるけれど、そんな簡単じゃない。あのスピードであの体を持った選手たちが迫ってくる中でつなぐのは並大抵のことじゃない」(森山監督)

 個人能力で差があり、その能力格差に「慣れていない」というベースの差もある。これに対し、戦い方のメリハリ、戦略的な試合運び、そして何よりチームワークによって対抗していったのがイングランド戦だった。「やれない時間帯」があることを受け入れ、意図的に作り出した「やれる時間帯」に勝負を懸ける。いいサッカーをやり切ることを目的化するのではなく、勝利から逆算してサッカーをする。「今まで日本人が苦手としていた部分」(森山監督)へのトライという意味でも価値のある試合だった。

 ただ、最後に「勝利」という果実を手にするには至らなかった。単に運がなかったからではない。剛健極まるイングランドの4バックを破り切れなかったからだ。決定機に思えるシーンも数あれど、やはり最後に豪快に体を寄せて少しでもシュートの精度を落としてくる彼らの守備に阻まれたと見るべきだろう。入らないシュートは運のせいではなく、やはり実力と思うしかない。U−20代表もまた、最後にゴールを割るという部分で非力さが出た点は共通している。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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