U-17と20、2つのW杯でぶつかった16強の壁 痛感した日本サッカー界に共通する課題

川端暁彦

選手層の厚みも共通の課題

イングランド戦で途中出場したのは椿(左)のみ。明らかに交代カード不足だった 【佐藤博之】

 もう1つ、共通して明確になった課題は選手層の厚みだった。U−20はエースFWの小川航基(ジュビロ磐田)を失ったとき、その代役となれる選手がおらず、代わりに久保建英(FC東京U−18)を先発起用することで、今度は攻撃の切り札となれる選手をも欠いてしまった。

 U−17代表も同様だ。大会前に守備の要であるセンターバックの瀬古歩夢(セレッソ大阪U−18)が負傷離脱。この穴はサイドバック(SB)から配置転換された菅原由勢(名古屋グランパスU18)が埋めたものの、「相手のサイドの強力な方にぶつける形で菅原を左右のサイドに置く」という森山監督の当初の構想は頓挫してしまった。また菅原の穴を埋めるために喜田陽(C大阪U−18)がSBに下がったことで、今度は中盤で切れる交代カードのバリエーションがなくなってしまった。久保を中盤に下げるオプションはあったが、久保の代わりに前線へ入るスーパーサブとして期待されていたFW斉藤光毅(横浜FCユース)も大会直前に離脱。交代カードの不足は明らかで、ラウンド16のイングランド戦において日本は交代カードを2枚残して終了の笛を聞くこととなった。

 これと対照的だったのはイングランドで、グループステージ第3戦では「ほとんどサブの選手が出たのにまったく遜色がない」(森山監督)、「最初、サブの選手が出ていると気付かないくらいだった」(久保)というパフォーマンスで、アジア予選では日本を破っているイラクに4−0と圧勝。主軸選手のMFジェイドン・サンチョ(ドルトムント)が所属クラブの都合でラウンド16直前に抜けても、「代わりに出てくる選手がまた強烈」と指揮官が苦笑を浮かべたように、この差は否めなかった。森山監督も「主力同士でやったら何とか渡り合えるけれど、サブ同士だったら確実に厳しい」と、率直に日本の弱みを認めた。

遅咲きのタレントをどう発掘するか

日本は小林友希ら2年前から主軸を担う選手が多かった。遅咲きのタレントをどう発掘するかが課題だ 【佐藤博之】

 日本とイングランドのこの世代は、実は2年前にフランスで行われた国際ユース大会において対戦している。日本は当時のメンバー18名中12名が今大会のメンバー。不参加だった平川も加えると、当時から主軸の選手のほとんどが継続して代表の招集されている。対してイングランドは18名中7名。大幅にメンバーが入れ替わりながら、個々の能力も伸ばしてきていた。試合を前に2年前の大会映像もあらためて見ていたのだが、「体格が違うし、スピードも違う」(森山監督)というフィジカル面での差の開き方は明らか。晩熟タイプの新たな選手が加わってチームが刷新されていたイングランドと、早くに選抜された選手たちが主軸のまま来ていた日本というコントラストも感じざるを得なかった。

「普通の年代だったら、14、5歳のときにエリートだった選手はもっと消えていると思う」と森山監督が言うように、この年代のエリート選手は森山監督の厳しい指導に食らい付くようにしてよく伸びてきたのは間違いない。一方で、やはり遅咲きのタレント発掘という意味では、まだまだ足りなかったのではないかという思いも捨て切れない。これはU−20代表で選んだタレントについて、内山監督が「もっと早くに出会えていれば」と語っていたことともリンクする。

 木村浩吉ナショナルチームダイレクターが「そこ(タレント発掘)はトレセン(地域の選手選抜システム)でまずやっていく必要がある」と指摘するように、代表監督個人の責任ではない。たとえば、来季からガンバ大阪入りすることが内定しているDF山口竜弥(東海大相模高)は生まれ年的にこの代表の有資格者なのだが、県のトレセンにも入っておらず、森山監督ら代表スタッフが初めてチェックする機会を得たのが今年の夏になってから。「もう半年早く見ていたら」とは指揮官本人の弁だが、こうした例は他にもまだまだあるだろう。

 U−16〜17年代のトレセン制度の改革については協会内でもさまざまな議論が進んでいて、「遅咲きの選手は絶対にいるので、それを何とか見つけられるような形にしたい」(池内豊ユース育成サブダイレクター)という方向にはある。もちろん予算の制約はあると思うが、個人的には“U−16日本B代表”のようなチームをポテンシャル重視で編成し、国際経験を積ませながらAチームへの挑戦を促すのも一手ではないかと思う。どうしても“国際経験値”という意味で常連組とそれ以外の格差が生まれてしまい、新しい選手がなかなか割って入れないという構図もあったように思うからだ。

世界大会への継続的な出場は欠かせない

継続して国際レベルの真剣勝負を経験するために、世界大会の切符が欠かせない 【佐藤博之】

 森山監督はこの世代の未来について「今回の選手たちのように早くから代表に選ばれているような選手たちと、その枠の外からグッと伸びてきた雑草魂のある選手たちが合わさってより強くなってくれれば」と語った。まさにその通りだと思うが、その融合をもう少しだけ早めることができないものか――。当然ながら、まったく簡単な課題ではないのだが、育成のスピード感を早めるという昨今の日本サッカー界が求めてきた方向性を思えば、意識する価値はある課題だろう。それは単にU−17W杯で勝つということだけでなく、その先まで見据えての価値である。

 17年のU−17とU−20の両W杯でそろって16強入りした国はイングランド、ドイツ、フランス、メキシコ、米国、そして日本の6カ国のみ。アジアの予選が他地域に比べて“ぬるい”ことを差し引いても決して悲観するような結果ではないし、どちらも90分のゲームでは負けなかったという事実もある。こうした成果に対する自信も持ちながら、同時に謙虚に学び、いかにして16強で明確に感じられた“壁”を越えるなり砕くなり、あるいは地中をもぐっていくなりしていくのかを探っていく必要がある。

 そしてこうした課題を2年に1度、確実に持ち帰りながら強くなっていくというサイクルを継続できるかどうか。国際レベルの真剣勝負という絶対的な機会が不足している日本が強くなるには、U−17とU−20の2つの年代の世界大会への継続的な出場が欠かせない。世界大会の切符の重要性をあらためて認識させられた、そんな2大会だったとも言えそうだ。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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