U−20W杯で得た、東京五輪への財産 2年半の内山篤体制を振り返る<前編>

川端暁彦

U−20W杯出場を果たしたU−20日本代表はラウンド16で敗れたものの、多くの学びを得た 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 5月にU−20ワールドカップ(W杯)出場を果たしたU−20日本代表は、決勝トーナメント進出を果たしたものの、ラウンド16で延長戦の末、ベネズエラに敗れた。わずか4試合だが、世界を舞台に戦ったその経験から、選手たちは多くの学びを得たはずだ。

 その学びとは、具体的にどんなものだったのか。日本を10年ぶりに世界の舞台に導き、7月に中国で行われたAFC U−23選手権予選で約2年半の監督の任期を終えた内山篤氏に、あらためてその学びを振り返ってもらった。(取材日:2017年8月1日)

U−20W杯で感じた厳しさの“差”

「インテンシティー(強度)」と、プレー強度の高いところでの「判断力」と「技術的な精度」は世界と日本の間には大きな差がある 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――U−20W杯の試合を観てから国内のユース年代の試合を見ると、激しさやスピード感のギャップに戸惑いすら感じました。内山さんはいかがでしょうか。

 同じような感覚は、正直に言うと僕にもあります。スピード感もそうですし、ディテールのところもそうですよね。帰国してからも多くの試合を見てきましたが、簡単にクロスを上げさせてしまっているシーンが目立ちました。特に問題ないプレーのように扱われてしまいがちですが、世界大会であの守備をやっていたら確実にやられていると思います。そういう国内と海外の厳しさの“差”は、あらためて感じました。

――U−20W杯を受けて、下の年代へフィードバックしたいと感じられた部分はどういったところでしょう?

 まずは何より「インテンシティー(強度)」のところでしょうか。そしてプレー強度の高いところでの「判断力」と「技術的な精度」です。究極を言ってしまえば、そこしかないとすら思っています。判断といっても、のんびりした中での判断ではなくて、激しさやスピード感を伴った中での判断力です。プレッシャーのないところでの判断や技術なんて、サッカーではないですから。

 そして日本人はやはり、そうした攻守の判断を組織として共有していくところを重視しないといけません。ただ、現実として、今の日本サッカーの日常で、その必要性を本当の意味で感じられないのかもしれないとも思わされましたね。トップクラスの戦いにいけば、みんな「あっ、これか!」と思うわけですが、それではもう遅いですから、何とか日本の環境に落とし込まないと。

日本に足りない試合中のメリハリ

U−20W杯で対戦したウルグアイなど、勝負に出てくる時間帯と我慢して割り切る時間帯を使い分けてくる国が多かった 【Getty Images】

――試合の中でメリハリをつけて、それをチームとして共有していくところを日本は苦手としているようにも感じます。

 去年は(U−20W杯の)最終予選のことだけでなく、世界大会まで意識しながら世界中へ遠征しました。春から夏にかけて3つの国際ユース大会(Suwon JS Cup、Panda Cup、U−19NTC招待大会)に出ています。9戦して3勝3分け3敗という戦績でしたが、そこでも相手がグッと力をかけてくる時間帯でやられてしまうことが多かった。

 試合の中で一本調子ではない、メリハリがつくことが国内試合と国際試合の差としてありますよね。国内の試合でこれを味わおうと思ってもなかなか難しいことが現実としてあるわけで、これはもう経験するしかないと思っています。だからこそ、国外遠征を多く組んでもらった経緯がありました。

――U−20W杯で対戦したチームも、勝負に出てくる時間帯と我慢して割り切る時間帯を使い分けてくる国ばかりでした(南アフリカ、ウルグアイ、イタリア、ベネズエラ)。

 それはもう当たり前のことなんですよね、本来は。どうしても日本は90分間同じようなサッカーをやろうとするところがある。たとえばU−20W杯でもクラブユース選手権でもそうなのだけれど、暑さもあって連戦の疲労もある中で体が動かないという状況で、それでもスピードアップして仕掛ける時間帯を作っていかないといけない。

 相手の状況、そしてスコアや残り時間も意識しながら共有感を持って出ていくことが必要になる。「ここだ!」というときにガッと全員が反応して動き出して勝負を決めに来る。ただ、日本の育成年代では、そういうシーンがちょっと少なすぎるというのは感じます。あくまで個人が反応する感じですよね。

――そうなると、相手の変化を防ぐスキルも身につきませんね。

 そういうことですね。ゲームの流れをどう感じ取っていくかはサッカーの文化とも言えるところで、幼いころからの積み重ねの結果でもあると思います。でも、経験することで変わる部分もあります。U−20日本代表も最初のころは相手がガッと出てくると一気にバタバタして、連続失点ということもよくありました。前半25分で3失点とかね……(1−3で敗れた16年5月のフランス戦)。でも、国際経験を積む中で対応できるようになってきた。

 彼らにはゲームの流れに関する部分をしっかり共有できなければいけないというのは口酸っぱく言ってきましたが、U−20W杯ではその成果が出た面もあると思います。何も言わずにやらせていると、「何となくやられたな」となってしまいますが、意識させた上でやられたことは、選手の心にきちんと残りますから。勝負どころを意識するようになると、相手が仕掛けてくるところも見えるようになってきます。「ここは危ない」「ここがチャンスだ」とね。1人が見えるのではなく、チームとして共有して意識できるようになっていきます。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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