U−20W杯で得た、東京五輪への財産 2年半の内山篤体制を振り返る<前編>

川端暁彦

ゲームがなければ選手は伸びない

堂安(左)はU−20W杯後、G大阪からオランダのフローニンゲンへ移籍を果たした 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――そうした面を強調されたのは昨年からだと思います。一昨年は“自分たちありき”で逆のアプローチにも見えました。

 最初から勝負の部分を言い過ぎるとチームとしての攻守の基本的な部分、戻るよりどころがなくなりますから。おっしゃるとおり、初めはアプローチが違いました。対戦相手について言うのではなく、まず自分たちがどう攻めてどう守るかから入って、就任1年目に1次予選を抜けたところで、今度は相手や試合の状況に応じてという要素を入れていきました。どうしても指導者はいろいろなことをバーンと同時に押しつけがちです。「あれもやらないといけないし、これもやらないといけないし、そっちも教えないといけない」と。でも、同時にやっても選手に入らないんですよね。

――応用から入ってはダメということですね。

 たとえばコンパクトにやろうというコンセプトがあります。最初は(前後の距離が)35メートルでした。最後は20メートル近くになっているのですが、いきなりそれを要求してもうまくいかない。段階を踏むことが大事です。ゲームコントロールの部分も、いきなりはできない。攻守のコンセプトを作って、初めてやる段階で強い相手とばかり試合をしたら、選手は「これ無理だ」となってしまいますから。一定の結果もついてこないと、共有すべきものが共有できなくなります。

 それをやった上で、2年目からは勝負のディテールが求められる相手との試合を増やしました。ベースはあるので、負けたとしても「ここをもっとやれば」というのも選手たちの中で見えたと思います。そうした積み上げの上で、選手たちは、世界の舞台でいろいろな意味でのスピードの差を感じることにもなったと思います。個の速さもそうですし、判断のスピードもそうだし、チームとしてのスピードの緩急もそうですよね。

――結局、そういう差を埋めるにはもっと早く選手が欧州に出て行くしかないのでしょうか?

 そこは何とも言えません。簡単に日本を出て行くことがすべてだとは思いません。もちろん、今回のU−20W杯に欧州でプレーしている選手が半数いたとしたら、また違う形になったのだろうかと少し思ったことはありますよ。ただ、あくまで向こうから望まれる選手として行かないと。サッカーのプレーヤーはプレーしないといけないですから。プレーできないところに行っても仕方がない。

 欧州との差という点から言えば、ゲーム環境の差もあると思います。欧州の代表を見ると、試合に出られない選手はみんな期限付き移籍で別のクラブに行ってゲームに出ていますよね。試合に出られない選手が移籍するのもごく普通のことですし。そういうゲーム環境に関する部分で欧州との差は感じていました。ゲームのためにトレーニングをするのですから、ゲームがなければ選手は伸びません。そこはものすごく大事です。

内山「自分の経験はしっかりと伝えていく」

内山氏は自身の持つ経験や情報を東京五輪に向かうチームに伝えることを約束した 【スポーツナビ】

――日本の「U−19問題」はありますよね。高卒1、2年目の選手が出場機会を得られないという。

 それは前回のU−19代表のコーチをしていたとき(14年)にも痛感させられたことです。本当にガクッとパフォーマンスが落ちますから。少し奇妙な話ではあるのですが、彼らのゲーム勘を代表の試合で作っていくようなイメージも持っていました。90分ゲームをやっていないので、代表に呼んで90分のゲームを経験させてあげようということですね。

 自分も(ジュビロ磐田で)Jリーグの監督をしていたので分かりますが、少数の若手選手のためだけに練習試合を組むといったことは、やはり難しいんです。そういうところは考えながらやらせてもらったし、前回コーチとしてやっていた経験は本当に大きかったですね。

――10年ぶりのアジア予選突破は1つの成果だったわけですよね。

 そうかもしれない。でも、いまだから言えるけれど、正直に言えばプレッシャーはありましたよ。4回も連続で失敗していて、5回目ですからね。口では「大丈夫、大丈夫」と言い続けていましたけれど、確証なんて何もない世界ですから。

――それを表に出さないでどっしり構えられていたのは、アジアでの勝因の1つだと思ってます。

 試合の中でどんなアクシデントが起こるかは分からない。そんな簡単なことだったら、4回も負けるわけがないですから。だから自分の経験は次の(U−20W杯を目指すU−18日本代表監督の)影山雅永さんにもしっかり伝えておかなくてはと思っています。それは協会の仕事とかそういう枠組みの話ではなくて、1人のサッカー人としてね。アジアのチャンピオンになった分、次の大会では絶対に日本がマークされるとも思いますから。

――内山監督が飛び級で選手を起用したおかげで、次のチームに経験値を持った選手が残っているのは強みです。

 それは当たり前ですよ。当たり前のことをしただけです。A代表になれば年齢は関係ないんですから。世界大会も、選手たちは本当にベストを尽くしてくれたと思います。その上で彼らが直面したものについて、指導者は真摯(しんし)に受け止めないといけない。何が足りないのか。どうしていかなければいけないのか。それを考えて、全国の指導者へ伝えていかないことには、全力で戦ってくれた彼らにも失礼だと思っています。

 あとは、この年代の選手たちのことを一番知っているのは間違いなく私なので、それを東京五輪に向かうチームのためにしっかり情報として残しておくこともやっておこうと思います。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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