南アフリカ戦で日本が感じた桁違いの速さ 10年ぶりに出た世界大会で感じる幸せ

川端暁彦

驚異的なスピードに戸惑った守備陣

2−1と初戦を勝利で飾った日本だが、序盤は南アフリカの驚異的なスピードに戸惑う場面も多かった 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 出てみないことには分からない「世界」がそこにはあった。

 5月20日に韓国各地で開幕を迎えたU−20ワールドカップ(W杯)において、日本の属するグループDは翌21日に大会初戦を実施。そのファーストマッチとなった日本と南アフリカの対戦は日本が2−1と逆転勝利を収めた。

 アジア王者として大会に臨んだ日本だったが、世界大会は初体験という選手ばかりでもある。緊張もあったが、何よりやってみないことには分からない感覚的な落差もあった。

「いやあ、速かったですねえ」

 試合後、そう言って苦笑いを浮かべたのはDF舩木翔だ。「映像を観ていて『速い』というのは分かっていたんですけれど、今までやったサウジアラビアの選手とかの速さじゃなくて、もう桁違いの速さ。1本裏を取られた場面では、自分的には付いていけるつもりだったんですが、気付いたらもう結構来ていた」と言うように、立ち上がりから相手の見せる驚異的なスピードに日本の守備陣は大いに戸惑うこととなった。

 開始7分の失点はそうした相手の速さを体感しながら、DFの対応が分かれたことが原因だった。DF冨安健洋が「自分はオフサイドを狙って(ディフェンスラインを)止めて、初瀬亮選手は(相手選手に)付いていってというところで連係も合っていなかった」と振り返ったように、相手が縦への揺さぶりから裏を狙ってきたシーンでDFが異なる対応をしたことで、オフサイドラインが消滅。裏を突かれる流れから痛恨の失点を喫してしまった。

内山監督「この経験は、サッカー人生の中で役に立つ」

内山監督は「この経験は、彼らのサッカー人生の中で役に立つ」と試合を振り返った 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 このままいけば一気に厳しくなる流れだったが、南アフリカのシュートミスにも救われて徐々に日本も落ち着きを取り戻すと、相手のスピードにも慣れて試合のペースを引き戻していく。逆に南アフリカのルーズな守備意識、特に右サイドのそれを突く形で、日本の左サイドから何度もチャンスが生まれる流れとなった。前半は決定機を逃して無得点も、ハーフタイムは「これなら点は取れる」と前向きなムードだったと言う。後半開始早々の48分、その手応えのままに同点ゴールが生まれた。

 起点になったのは左サイドバックの舩木。中に入るポジショニングからスルーパスを通し、これをFW岩崎悠人が折り返す。中を見る余裕はなく、「この辺りにいるかな」と信じて出したボールに応えたのは、FW小川航基。前半の決定機を2度も逃していたが、あえてまったく気にしていないように振る舞い、自分に言い聞かせていたというストライカーがゴールを決め、試合を振り出しに戻した。

 この勢いのままに、日本ベンチはスペースが空いた状況で生きる選手としてベンチに残していたFW久保建英とMF遠藤渓太を59分と68分に相次いで投入し、勝負に出る。そして迎えた72分だった。遠藤の絶妙な縦パスが右サイドから中央左寄りの位置へ入ってきていた堂安律に通る。堂安はこれをワンタッチでスペースにはたいて、「パス&ゴー」。受けた久保もまた同じくワンタッチで堂安へ戻す。躍動感あふれるワンツー攻撃が実って、最後は堂安が得意の左足を一振。ゴールネットが揺れて、日本の逆転ゴールとなった。

 このあとは南アフリカの強烈な反撃を受ける流れとなったが、我慢の展開で我慢できるチームであることは昨年から取り組んできたテーマの1つ。次々に足がつる選手も出る厳しい状態ながらも日本イレブンは共通理解を持って耐え抜き、2−1のスコアのまま試合終了の笛を聞くこととなった。「この経験は、彼らのサッカー人生の中で非常に役に立つはず」と内山篤監督が振り返る、チーム一丸の勝利だった。

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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