小林祐希、久々の勝利の余韻に浸る 「今日はただ喜んでいいですか?」

中田徹

厳しいマークで消される試合が増加

アンカーでプレーする小林祐希(左)。最近は厳しいマークに消されることが多かった 【VI-Images via Getty Images】

 小林祐希が所属するヘーレンフェーンは、4月4日(現地時間)に行われたホームのスパルタ戦を3−0で快勝した。2月25日のローダ戦(3−0)以来の久々の勝利に、小林は「俺個人は良くなかったんですけれど、勝ったので『サッカーは面白いなあ』と思いました」とチームの勝利を喜んだ。

 今シーズン前半戦を4位という好成績で終えたヘーレンフェーンに対して、相手チームはどこも徹底して長所を消しにきている。アンカーの小林は、ユルゲン・ストレッペル監督から「チームの頭脳」と呼ばれるほど攻守にタクトを振っていたが、最近は徹底してマークされ、なかなか機能しなかった。その象徴的な試合が、前節の対ヘラクレス戦だった。

 ヘラクレスのジョン・ステーへマン監督は新人のルーフェン・ニーマイヤーを初めて先発に抜てきし、小林をマークさせた。さらに、ストライカーのサムエル・アルメンテロスはフラフラと中盤に下がって、小林が食いつかざるを得ないポジションをとった。アルメンテロスは小林を引き連れてサイドへ流れ、ヘーレンフェーンの中盤に穴を作ると、ニーマイヤーはそのスペースを巧みに突いて1ゴールを挙げるなど、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれる活躍を見せた。試合は4−1という大差でヘラクレスが勝利。気が付けば、ヘーレンフェーンは順位を8位まで落とし、9位のヘラクレスが勝ち点3差まで迫ってきていた。

 ヘラクレス戦後、小林は「確実に俺を消しにきている」と語っていた。

 スパルタ戦の前半も、ヘーレンフェーンはチームとしてリズムを作れなかった。ヘーレンフェーンのエース、サム・ラーションは今年に入ってからずっと調子を崩しているが、それでも彼が左ウイングの位置から中に絞ることにより、左サイドバックのルーカス・バイカーがオーバーラップするスペースは生まれていた。

 しかし、スパルタのアレックス・パストール監督は5バックシステムを採用し、バイカーの攻め上がりを自由にさせなかった。アンカーの小林は、この日も相手の厳しい監視を受けてしまい、前半は完全に消されてしまった。

ハーフタイムのポジションチェンジで息を吹き返す

 前半はスパルタのペースで0−0。ハーフタイム、ストレッペル監督は小林とモルテン・トルスビーのポジションを入れ替えるよう指示を出し、小林は左インサイドハーフに移った。このコンバートについて、試合後の小林はこのように分析した。

(1)試合開始10分でイエローカードをもらっていたため、2枚目のイエローカードを受けるリスクを避けて、攻撃的なポジションへ移った

(2)トルスビーは体が強く、相手のロングボールに対してセカンドボールが拾える

(3)左ウイングのラーションと右インサイドハーフのペレ・ファン・アメルスフォールトが同時に前に出てしまうので、相手にスペースを与えていた。そこのスペースつぶしの役を担った

 また、小林が左MFを務めたことで、ラーションとの距離が近くなり、左サイドバック(SB)のバイカーも含めてトライアングルも生まれた。後半の試合展開を小林はこう振り返る。

「(後半は)ほぼハーフコートゲームみたいな感じになった。俺がボールに触ることは少なかったけれど、サイドで数的優位を作れた。それが勝ちにつながったと思います。俺の立ち位置が変わっただけで、相手も『あれ、変わったぞ』みたいに試合中に話していた。そんなことに驚いた相手で良かったなあと思います」

 56分、右サイドで小林のシンプルなパスが起点となって、右SBのステファノ・マルツォのラストパスを受けたファン・アメルスフォールトが美しいロビングシュートを決めてヘーレンフェーンが先制すると、72分にはラーションのFKをセンターバックのヨースト・ファン・アーケンがバックヘッドで合わせて追加点。81分にはラーションのシュートをGKが弾いたリバウンドにセンターFWレザ・グーチャネジハドが詰めて3−0とし、後半のゴールラッシュを締めくくった。

 前半、不必要なヒールキックのミスなど、散々な出来でブーイングを受けたラーションが後半、小林のサポートもあって蘇り、86分にベンチに退くときにはスタンディングオベーションを浴びた。

「(俺が)近くにいた方が、あいつ(ラーション)もやりやすいんだと思います。自分が“逃げ場”になってあげられればと思います」(小林)

小林「今日はただ喜んでいいですか?」

久々の勝利を喜んだ小林。スパルタ戦の後半はターニングポイントとなるか 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 試合後、私はストレッペル監督に直接、小林がポジションを変更した意図について尋ねてみた。

――前半、バイカーはスパルタのマークに苦労していましたね?

「それで、後半、祐希のポジションが中盤の底(アンカー)から左MF(インサイドハーフ)に変わった」

――バイカーは後半、SBのポジションから動きませんでした。そして小林が左にポジションの重心を移しました。その結果、スパルタは右ウイングバック(ヤンネ・サクセラ、前半のバイカーのマーク役)と守備的MF(ケネット・ドゥガル(小林のマーク役)のどちらが小林に付くのか曖昧になりました。

「そう、その通り」

 いかに相手の守備を曖昧なポジションに置くか、それが戦術合戦の醍醐味(だいごみ)である。ストレッペル監督は「よく見ていたな」と破顔一笑だった。

 小林には「1点目(ファン・アメルスフォールト)、2点目(ヨースト・ファン・アーケン)と伏兵の選手が決めましたね」と話を傾けてみたが、久々の勝利の余韻に浸っている中、そんなことを尋ねるのは粋ではなかったようだ。

「とりあえず、今日はただ喜んでいいですか? 誰が点を獲ったとかはどうでもよくて、久々にロッカーでの雰囲気が良いなと思った(笑)」

 長期負傷欠場中だったスタイン・スハールスが、64分からピッチに立ち、元気な姿を見せたのも好材料だ。

「なんかね、1個の勝ち、1個のクリーンシートとか、それで自信が全部変わると思う。こうなってくるとポジション争いも面白くなってくる」

 5位フィテッセ、2位アヤックスとの厳しいアウェーゲームが控えているヘーレンフェーンにとって、良いターニングポイントにしたいスパルタとの後半45分間だった。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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