小林祐希がオランダで過ごす濃密な時間 “名波スタイル”を貫いた先に見えるもの

中田徹

「今やってることを突き詰めれば、よくなっていく」

小林は「お互いのミスやお互いの要求を気持ちよくのめる関係を作るのが、オフ・ザ・ピッチだから」と話す 【Getty Images】

 昨季の前半戦は8勝5分け4敗という好成績ながら、後半戦は4勝2分け11敗と一気に崩れてしまった。良い試合をしても勝てない。勝てないうちにプレーの質が落ちてくる。やがて、「俺が、俺が」とチームに40個の欲が生まれたのではないか。そう解釈すると、昨季後半戦のバラバラに見えたヘーレンフェーンの姿に合点がいく。

「良い時も悪い時も、いろいろ全部見れたから、すごく勉強になりました。思ったのは、サッカーの時ぐらいは1つになろうぜ、楽しくやろうぜということ。ピッチを出たら、何でもいいけれど……。

 セルビアとコソボの人たち、本当はバチバチじゃん。うちのコソボの選手も『俺はセルビアのやつとは絶対にしゃべらない』という感じだった。だけど、今は肩を組んでいて、何だお前らはと思うよ(笑)。やっぱり俺たち、チームメートになれば、そういうの関係ないよね」

 オフ・ザ・ピッチでも、結局は仲良くしておいた方がいいという結論に至る。

「お互いのミスやお互いの要求を気持ちよくのめる関係を作るのが、オフ・ザ・ピッチだから、そこで仲良くしておけば、多少試合で『おい、(パス)出せよ』となっても『あいつとは仲が良い』し、『ごめん、ごめん』となれる。人間は単純だから、ピッチ外で『あ、祐希は雰囲気が良いな』『いつも笑ってるな』と思わせておけば、その先が楽ですからね。

 だから、自分がやるべきことは、ただ小林祐希でいればいい。サッカー的な部分、プレー面では『こうしないといけない』という部分はあるけれど、他ではないです。俺は自分がやっていることを間違っているとは思っていないから。今やってることを突き詰めていけば、いつかよくなっていく。常に自分に疑問を抱いてプレーしていたら、それこそうまくいかないです」

 小林の家には「壺中日月長(こちゅうじつげつながし)」という文字が彫られた、大きな将棋の駒が置いてある。壺(つぼ)の中に住む老人に招かれ、歓待を受けて10日ほど楽しく過ごしたと思っていたら、実は10数年経っていた――というお話だ。

「壺の中の小さな世界は、外の世界よりずっと楽しい世界だったという言い伝えがあるんだって。俺は1つのことに集中してサッカーをしている。それで俺の誕生日の時に知り合いがプレゼントしてくれたんです。毎朝、これを見てから練習に行く。俺は今、自分の人生で大事な、とても濃いところにいるんだなと思います」

 2万6800人収容のアベ・レンストラ・スタディオン。小林にとって、そこが小さな壺の中。瞬く間にオランダでの濃厚な時間が過ぎていく。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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