三原舞依、スケートへの情熱を胸に 「夢」から「目標」に変わった五輪

野口美恵
 来年2月の平昌五輪に向けたシーズンが、いよいよ始まる。今季もこれまで以上に過酷で、ハイレベルな争いが展開されるだろう。前回のソチ五輪から3年半。出場権を狙う選手たちはどのような道を歩んできたのか。連載の第5回は三原舞依(神戸ポートアイランドクラブ)の過去3シーズンを振り返る。

フリーの日本歴代最高得点をマーク

ジュニア時代の最後は病気で欠場しながら、シニア1年目で急成長を遂げた三原。その飛躍はシンデレラ・ストーリーという言葉は最もふさわしい 【写真:アフロスポーツ】

 シンデレラストーリー。使い古された言葉だが、彼女の飛躍を語るにはこの一言に限る。ジュニア時代の最後は病気で欠場しながらも、シニアに上がった昨季は、国別対抗戦のフリーで日本歴代最高点となる146.17点をマーク。急成長の背景には何があったのか。

 人生最初のターニングポイントは、2005年12月だった。当時6歳だった三原は、テレビでグランプリ(GP)ファイナルを見た。画面のなかで、15歳の浅田真央が天真爛漫(らんまん)な笑顔で演技し、トリプルアクセルを軽々と跳ぶ。競技のことは分からなかったが、笑顔が目に焼き付いた。

「とにかく楽しそうに滑っているなと思い、演技に魅了されたんです。それで私もやってみたいと感じました」

 親に頼んですぐに練習をスタート。着実に実力を伸ばすと、13歳のときに全日本ノービスAで3位、14歳で全日本ジュニア選手権2位と、成績を出した。16歳で迎えた15−16シーズンには、バルセロナで行われたジュニアGPファイナルに進出。シニアと同時開催の大会だったため、浅田と同じ会場で滑るという、これ以上ない喜びを味わった。

難病からの復帰、GPシリーズ出場へ

 しかし幸せのあとに、苦しみが待っていた。帰国後、全身の関節が痛み、難病の若年性特発性関節炎と診断される。自分で歩くこともできなくなり入院。未知の病と格闘するなか、15年12月の全日本選手権は行われた。

「皆さんが素晴らしい演技をしているときに、私は車いすの生活で入院している。病室のテレビで見ながら、悔しいというよりは、皆さんすごいなという気持ちでした」

 しかし、ただ落ち込むわけではなかった。どんな時でも気持ちだけはプラスに。それが三原の強さだった。

「辛かったけれど、周りの支えもありましたし、スケートのテレビを見たほうがもう一度戻りたいという気持ちが大きくなりました。だから憧れの真央さんの演技を何度も見て過ごしました」

闘病中は自身が憧れる浅田(写真)の演技を見て、スケートへの気持ちを高めていた 【坂本清】

 さらに自分の気持ちを鼓舞しようと、いろいろなポジティブ思考を試した。

「スケートでうれしかったことを思い出すようにしました。ジュニアGPファイナルに出たこと。その時、真央さんにスケートを始めたきっかけだと話したら『うれしいです』と言われて、私もうれしかったこと。スケートを始めてから自分の演技が少しは成長していること。いろいろと思い出しました」

 体に合う薬が見つかり、痛みと付き合いながらも練習を本格的に再開できたのは16年4月だった。

「氷で滑れない間は、氷に乗った時に痛みが出る関節を曲げられるような(関節周りの)筋肉トレーニングをして体作りをしておきました」

 夢中で練習し、4カ月の遅れをどんどん取り戻していく三原。十分に実力があると判断した中野園子コーチと日本スケート連盟は、シニアに上がりGPシリーズに出場することを勧めた。

「思い切って決断しました。病気もあってスケートを頑張れるかどうかと思っていたのが、むしろGPに出られるなんて信じられなくて。チャンスをいただいたので感謝して滑りたいです。休み明けだからということは一切関係なく、昨年の自分を超えるスケーターになりたいです」

 シニアデビューに向けて、フリーは新曲『シンデレラ』を振り付けてもらった。振付師の佐藤有香からは「シンデレラという主人公になりきって」と言われ、自らがシンデレラになろうと、胸に刻んだ。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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