ロンドンでボルトの後継者は現れるか? 次代の“ハイパー・スター”候補たち

K Ken 中村

21歳の時に陸上界の頂点に立ったボルト

ボルト(中央)に続くスーパースターは現れるのか? 今回の世界陸上は欠場となったものの、リオ五輪銀メダルのデグラッセ(左)も期待の一人だ 【Getty Images】

 2008年から陸上界を引っ張ってきたウサイン・ボルト(ジャマイカ)が今大会を最後に引退する。

 02年世界ジュニア選手権と03年世界ユース選手権の200メートルで優勝したボルトは“ライジング・スター”として一躍注目されるようになった。しかしその後、順調に成長した訳ではない。18歳(現在のサニブラウン・アブデル・ハキームと同じ年齢)の時出場した04年アテネ五輪では予選落ちを喫し、05年ヘルシンキ世界選手権では8位と期待された結果には遠かった。

 ようやく結果を出したのが07年、21歳の時である。大阪世界選手権の200メートルで2位に入った。そして迎えた08年、北京五輪でボルトの名は世界中に轟き、その後9年間、彼は次々に歴史を塗り替えてきたのである。五輪の100メートルと200メートルでは、前人未踏の3連覇。世界選手権の200メートルでは4連勝、100メートルでも3回優勝している。誰もが知るスーパー・スターに上り詰めたのである。

 1970年代後半から1980年代前半のセバスチャン・コーとスティーブ・オベット(ともにイギリス)、1980年代のカール・ルイスとフローレンス・グリフィス・ジョイナー(ともに米国)、そして1990年代のマイケル・ジョンソン(米国)、と陸上界にはスーパー・スターが次々と出現してきた。

 そして08年からはボルトの時代だった。そのボルトは今年を最後に陸上界を去る。果してその穴を埋める選手は現れるのだろうか? 2020年東京五輪で“スーパー・スター”と言われる選手は誰だろうか?

世界記録更新も期待されるバンニーキルク

男子400mの現世界記録保持者のバンニーキルクは、現在最も勢いのある選手だ 【写真:ロイター/アフロ】

 ボルトは「08年に彗星のごとく現れた」と多くの人は思っているだろう。同じく最近、彗星のごとく現れたのが南アフリカのウェイド・バンニーキルクである。

 15年北京世界選手権男子400メートルでは、12年ロンドン五輪金メダリストのキラニ・ジェームス(グレナダ)と13年モスクワ世界選手権の王者ラショーン・メリット(米国)を破り優勝。翌年のリオ五輪では不滅と言われたマイケル・ジョンソンの世界記録を17年振りに更新して優勝したのだ。

 そして今年は更に上の記録が期待される。何故なら、今年のバンニーキルクは100メートルで9秒94、200メートルで19秒84と自己ベストを更新しただけでなく、300メートルでは30秒81の世界記録を樹立したからだ。

 故に、400メートルでも更に上の記録が狙えそうだ。42秒台も夢ではない。

 1968年メキシコ五輪でリー・エバンス(米国)が初めて43秒台に突入してから来年で50年となる。そろそろ43秒の壁が突破されてもいい頃だ。それだけではない。バンニーキルクには世界選手権ではマイケル・ジョンソン以来となる200メートルと400メートルの2冠も可能なのだ。もしロンドンでバンニーキルクが2冠を達成し、42秒台の世界記録を叩きだせば、彼こそボルトの後継者に相応しい。

100mではコールマンに注目

21歳で9秒82まで自己ベストを伸ばしているコールマン 【Getty Images】

 最近の陸上界にはボルト以外にも5000メートル、1万メートルのモハメド・ファラー(イギリス)、800メートルのデイビッド・ルディシャ(ケニア)、十種競技のアシュトン・イートン(米国)、女子100メートルのシェリー・アン・フレーザー・プライス(ジャマイカ)、女子200メートル、400メートルのアリソン・フィリックス(米国)、そして女子5000メートル、1万メートルのティルネッシュ・ディババ(エチオピア)など、陸上史に残る伝説の選手は多い。

 しかし誰もボルトほど有名ではない。ボルトは現在の花形種目である100メートルで飛び抜けて強いが故に超スーパースター、即ちハイパー・スターなのである。

 その100メートルでボルトの後継者となるのは21歳のクリスチャン・コールマン(米国)か? それとも22歳のアンドレ・デグラッセ(カナダ、※3日に世界陸上欠場を発表)だろうか?

 今年コールマンは全米大学室内選手権の60メートルと200メートル、そして全米大学選手権(NCAA)の100メートルと200メートルを制した。しかも100メートルの自己ベストを、21歳時のボルトのベストより速い9秒82まで、そして200メートルの自己ベストを19秒85(向かい風0.5メートル)まで延ばしている。昨年は全米五輪選考会で6位に入り、リオ五輪では4x100メートルリレーの予選で第2走者を務めた。今年の全米選手権ではジャスティン・ガトリン(米国)など真の世界のトップと初めて競い合った末2位に沈み、勝負にもろいところを見せてしまった。ボルトの後継者になるには心の強さも必要だ。

 一方、15年NCAAとパン・アメリカン大会100メートル、200メートルチャンピオンのデグラッセは既にグローバル選手権のメダリストである。100メートルでは世界選手権と五輪で銅メダルを獲得、200メートルでは五輪銀メダルを持っている。100メートルのベストは9秒91(追い風参考9秒69)、200メートルのベストは19秒80(追い風参考19秒58)のデグラッセはボルトと同じく200メートルの方が得意だ。

 ロンドンではボルトが100メートルで次世代のスーパースター候補であるコールマンと対決する。一方バンニーキルクは400メートルで42秒台の世界記録に挑む。ボルトは22歳の時にブレークしており、今夏は21歳のコールマンのブレークに期待したい。

 果たして次の10年陸上界を引っ張っていく選手は誰なのだろうか? ロンドンでは世代交代の瞬間にも注目だ。
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著者プロフィール

三重県生まれ。カリフォルニア大学大学院物理学部博士課程修了。ATFS(世界陸上競技統計者協会)会員。IAAF(国際陸上競技連盟)出版物、Osaka2007、「陸上競技マガジン」「月刊陸上競技」などの媒体において日英両語で精力的な執筆活動の傍ら「Track and Field News」「Athletics International」「Running Stats」など欧米雑誌の通信員も務める。06年世界クロカン福岡大会報道部を経て、07年大阪世界陸上プレス・チーフ代理を務める。15回の世界陸上、8回の欧州選手権などメジャー大会に神出鬼没。

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