伊藤華英に聞く世界水泳の楽しみ方 ニュースタイルのトビウオジャパンに注目

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水泳世界選手権の競泳が23日から始まる。女子背泳ぎの元日本代表・伊藤華英さんが注目するポイントは!? 【スポーツナビ】

 水泳の世界選手権(以下、世界水泳)の競泳が7月23日、ハンガリーのブダペストで開幕する。過去の大会で多くの輝かしい記録を残してきたトビウオジャパン(競泳日本代表の愛称)は、今大会でどのような活躍を見せてくれるのか。

 スポーツナビでは、スポーツを伝える「言葉」を探求するプレゼンショー『ALE14(エイル・フォーティーン)』に登壇した伊藤華英さんに、今大会の見どころを聞いた。過去5回の世界水泳を経験し、2008年北京、12年ロンドンと2つの五輪出場、06年のパンパシフィック選手権では100メートル背泳ぎで金メダルと競泳界の第一線で活躍してきた伊藤さん。現在は東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会の広報としても活躍する彼女が注目するポイントとは。

新ヒーローが出る予感 辛い時期の萩野には「それを打破して」

“エース”の立場である萩野(左)の心中をおもんぱかる伊藤さん。「それを打破して」とエールを送る。写真右は入江陵介 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――まずは今大会で一番注目しているポイントはどのような点でしょうか?

 まずは去年のリオデジャネイロ五輪(以下、リオ五輪)のレースから1年という見方ですね。日本のみならず世界の選手たちもどのようなモチベーションで世界水泳に臨んでいるのかは注目です。

 6月のヨーロッパグランプリでは、バタフライの世界記録を持っているスウェーデンのサラ(・ショーストロム)がすごく良い記録を見せていて50メートルバタフライで優勝、本職でない50メートル自由形でも好調な泳ぎを見せていました。そのように五輪が終わってからも走り抜けていく選手もいれば、ちょっと休んでいる選手もいます。本当に今年からが東京五輪への一歩になりますので、今大会ではニューヒーローも出るのではないかという気がしています。

 日本でいい結果を出した大橋悠依選手(東洋大)もいますし(編注:日本選手権400メートル個人メドレーで日本新記録)、他の誰かが良い記録を出してくれるかもしれません。世界の選手でも日本にとっての新たなライバルとなる選手が出るかもしれません。すごくリセットされた状態の世界大会かなと思いますね。

――五輪翌年の世界大会は選手にとって難しいといわれます。やはり選手によってはコンディションの差が大きいのでしょうか?

 選手によって全然違うと思いますね。瀬戸大也選手(ANA/バタフライ、個人メドレー)はリオ五輪で本当に悔しかっただろうし(編注:金メダルを狙った400メートル個人メドレーで銅)、新しい取り組みなども始めていると聞いています。結婚もされたということで、すごく気持ちの入った大会になると思いますね。

 逆に萩野公介選手(ブリヂストン)はスロースタートになるかなと。肘の手術もして、少しずつ調整を進めているという印象です。

――4月の日本選手権と5月のジャパンオープンでも優勝こそありましたが、反省の弁が多く本調子という感じではなかったですよね。

 そうですね。それは彼の心理的な状態を表しているかな思います。あまり集中できていないという感じです。萩野選手のモチベーションがすごく高まっている時は、他のものが見えないほどに集中してぐぐっと入っていくスタイルなのですが、今は全然違うなと感じています。逆に言うと、今のスタイルでも勝っていけたら本物かなと思います。

――メンタルに左右されずに、どんな状況でも勝っていくということですか?

 メンタルに左右されなくなるということは、実力がついたということです。例えばメンタルの状態で、成績や体力も下がることはあります。しかしそうではなく、フィジカルが上がっていなくても練習量などでカバーできたりもします。そうしてさらに実力が上がってくれば、ちょっと抜いても勝てる。自分のベースを上げていってもらいたいなと思いますね。

――具体的にはどのあたりが以前と違うと感じられますか?

 やはり金メダリストを目指していた自分と、金メダリストになった自分で葛藤があるのではないでしょうか。金以上(の結果)はないですし、「自分は金メダリストだ」という意識も高いと思いますので。

 でも彼の気持ちになって言うとすごく辛いと思います。毎回毎回良い結果が出るわけでもないのに、ずっと良い結果を求められるのは辛いと思います。でもそれを打破してタフネスにいってほしいな、という期待も彼にはありますね。

今の代表は年齢的なバランスが良くない

3年後の東京五輪に向けて「トビウオジャパンらしさ」の確立にも期待 【写真:築田純/アフロスポーツ】

――現役選手達とは今でもコミュニケーションを多くとっているのですか?

 みんな会えばだいたい話しますね。でも、みんな今の時代の選手たちになってきたなという感じがしますね。

――今の時代の選手とは?

 私達は私達の時代ですごくいろいろやっていましたけれど、ニュータイプというか、ちょっとガンダムみたいですね(笑)。ニュースタイルのトビウオジャパンという感じがしますね。

 やはり時代が違いますよね。みんな仲良さそうだなと思います。私達は2001年に世界水泳を福岡でやったときから、代表としてずっといろいろなものを積み重ねて来た世代でした。今の世代は積み重ねて来たものの上にある、すごく良い環境でやっていますよね。

――環境面の変化が大きいということですか?

 環境面もそうですし、例えば日本代表選手の平均年齢が低いというのもあると思います。あとは小さかったり細い子が多いですよね。私たちの時代の方が体が大きかったと思います。年々細くなっている気がします。さらに、私たちの前の世代はもっと体格がよかったと思います。海外の選手は日本にないようなエクササイズや筋トレもやっているようですしね。

――伊藤さんも若いころに代表入りをして、女子高生スイマーとしても活躍されていましたが、それでも違いを感じますか?

 もうだいぶ過去の話ですから(笑)。

 今の代表は年齢的なバランスが以前とは少し異なると思います。私達の時は若手とベテランが半分半分くらいでした。今のチームは、私たちの時とはまた異なったチーム力があると思いますので、今のチームの色を見せてほしいです。例えばチームとしてどういうスタイルで東京五輪を狙っていくのか、そういうことはあまり考えられないと思います。何かもう少しトビウオジャパンらしさみたいなのを見たいなと思いますね。強い人に引っ張っていってもらって、底上げをしてほしいです。

――伊藤さんが活躍されていた女子の背泳ぎは、今回の世界水泳代表に選ばれませんでした。この現状をどのようにご覧になっていますか?

 本当に、どうなっているのでしょうか(笑)。私たちの時にはあんなにいたのになんでいないの!? という感じですね。あんなにしのぎを削って代表権を争っていたのに、なんか変な感じですよね。当時の3番だって今の代表に入れますからね。悲しいというよりも、時代の周期なのでしょうか。あんなに背泳ぎは花形だったのに……。3年後に自国開催の五輪は来ますし、ぜひ新たな背泳ぎの確立を楽しみにしています。

 あとは100メートル種目が心配ですね。頑張って水連(日本水泳連盟)も強化を始めたようですが、100でメダリストを作るというのは日本の課題だと思います。そうしなければリレーで勝てませんからね。メドレーリレーの復活を楽しみに待ちたいと思います。

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