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人々の記憶に刻まれた「CL奇跡の逆転劇」
勝者の陰に、身を削るような失望と落胆が

提供:スポナビライブ

逆転勝利と言っても、その中身はさまざま

「カンプ・ノウの奇跡」として知られる1998−99シーズンのCL決勝。あなたの記憶に残る逆転劇は?
「カンプ・ノウの奇跡」として知られる1998−99シーズンのCL決勝。あなたの記憶に残る逆転劇は?【Getty Images】

 サッカーというゲームにとって、逆転勝利そのものは決して珍しいことではない。しかし、一口に逆転勝利と言っても、その中身はさまざまだ。


 明らかに実力で勝るチームが不用意な形で失点を喫し、それを挽回して手に入れた勝利は、形の上では逆転だが、結果としては順当と言える。実力が拮抗(きっこう)したチーム同士の対戦でも、リードしたがゆえに受け身になり、守りに入って相手に主導権を奪われた末に失点、その勢いで押し切られて逆転負けというのは、よくある試合展開のひとつだ。


 しかし中には、どう考えても不可能だという状況をひっくり返した、まさに「奇跡」としか言いようのない逆転勝利も存在する。そしてそれがビッグマッチであればあるほど、人々の記憶に深く刻み込まれることになる。


 筆者が真っ先に思い出すのは、「カンプ・ノウの奇跡」として知られる1998−99シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝。バイエルンが序盤に挙げた1点を守って後半ロスタイムを迎えながら、GKピーター・シュマイケルまでも攻め上がるという絶望的な総攻撃に出たマンチェスター・ユナイテッドが、CKから立て続けに2ゴールを決めて劇的な逆転勝ちを収めた伝説的な試合だ。


 残り10分を切ったところで勝利を信じてピッチを去り、ベンチから試合を追っていたバイエルンの偉大な主将ローター・マテウスが、呆然(ぼうぜん)とした表情でピッチを見つめる姿は、今なお記憶に新しい。

説明がつかない「イスタンブールの奇跡」

CL決勝にはもうひとつ「奇跡」と呼ばれる試合がある。「イスタンブールの奇跡」だ
CL決勝にはもうひとつ「奇跡」と呼ばれる試合がある。「イスタンブールの奇跡」だ【Getty Images】

 CL決勝にはもうひとつ「奇跡」と呼ばれる試合がある。前半だけでミランに3点を食らったリバプールが、後半開始から間もない6分間に立て続けに3点をたたき込んで追いつき、最後はPK戦で勝利をもぎ取った2004−05シーズンの決勝、いわゆる「イスタンブールの奇跡」だ。


 スポナビライブで放映中の英国制作番組『FOOTBALL COUNTDOWNS』の第6回「奇跡の逆転劇」で第1位にランクされた、このファイナルもまた「カンプ・ノウの奇跡」と同様、なぜそんなことが起こったのか、理屈ではまったく説明がつかない試合だった。


 圧倒的な優位に立って一方的にリバプールを押し込み、45分で3ゴールをたたき込んだミランがすでに勝負を決めたかに見えた前半から、あっという間に3失点を喫して奈落の底に沈んだ「魔の6分間」へ。この極端なコントラストの分水嶺(れい)となったハーフタイムをめぐっては、試合直後からあらゆる種類の証言と憶測が入り乱れた。


 リバプールのある選手は試合後、「ハーフタイムにミランのロッカールームから、もう勝ったような歓声が聞こえてきて、それで発奮したんだ」と語った。イタリアのTV局のレポーターは、「前半が終わり、観客席からロッカールームに下りてきたフィリッポ・インザーギらミランの登録外選手たちが、そのままベンチに潜り込もうとしてUEFA(欧州サッカー連盟)の係員に見とがめられ、追い返された」と証言している。


 完璧な後半と「魔の6分間」との信じられない落差に説明をつけようとすれば、誰もがすぐに思いつくのが「勝利を確信したがゆえの気の緩み」だろう。しかし、ピッチの上やロッカールームで当事者たちが生きた現実は、そんな単純な言葉で説明できるようなものではない。

“被害者”ミラン関係者の証言

逆転を許したミランだが、関係者の証言によればハーフタイムのチームの雰囲気は理想的だった
逆転を許したミランだが、関係者の証言によればハーフタイムのチームの雰囲気は理想的だった【Getty Images】

 筆者は当時、『ワールドサッカーダイジェスト』でカルロ・アンチェロッティ監督とジェンナーロ・ガットゥーゾの連載企画を持っていたこともあって、彼らを含む関係者の口から直接、ハーフタイムをめぐる証言を聞くことができた。


 この機会に、「奇跡の逆転劇」の“被害者”たちの言葉をあらためて紹介することにしたい。いずれの言葉からも、われわれが想像するそれとはまったく異なる光景が浮かび上がってくる。


 アンチェロッティ監督は、ハーフタイムのロッカールームをこう振り返った。


「ロッカールームに戻ってきた選手たちは、まったく浮かれてなどいなかった。私が選手たちに言ったのは、前半は非常にいい試合をしたということ、そしてこのまま戦い続けるべきだということだ。相手が後半の立ち上がりから何らかの形で試合の流れを変えようとしてくることは、当然、予想がついていた。それも念頭に置いた上で、集中を切らすことなく前半の戦いを続けることができれば、このまま最後まで試合を支配し続けられるという、確かな感触があった」


 そのロッカールームで、選手たちに語り掛けるアンチェロッティの隣に立っていたのは、チーム付きのスポーツ心理学者ブルーノ・デミケリス。彼はさらにはっきりとこう断言した。


「イスタンブールでのハーフタイムは、私がこれまでに見た中で最も完璧なハーフタイムだった」

片野道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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