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W杯に向けて変化したエディージャパン
指揮官に「だまされた」4年間

少しずつ変わった戦略

南アフリカから大金星を挙げた日本代表。ジョーンズHCの下、少しずつ変化していた
南アフリカから大金星を挙げた日本代表。ジョーンズHCの下、少しずつ変化していた【Photo by Yuka SHIGA】

 9月18日にイングランドで開幕したラグビーワールドカップ。「ベスト8」進出を掲げた日本代表は、南アフリカから大金星を挙げるなど3勝1敗としたが、惜しくも2位のスコットランドに勝ち点で及ばず予選プールB3位で大会を終えた。ただ次大会の出場権を自力で獲得し、さらに2003年の現行方式以降、3勝して決勝トーナメントに進出できなかった初のチーム、つまり「最強の敗者」としてイングランドの地を去った。


 それでは予選プールの戦いぶりを振り返ってみたい。「サッカーのバルセロナのようなラグビーがしたい」。就任当初、そう語っていたエディー・ジョーンズHCは、「JAPAN WAY(ジャパンウェイ)」を掲げてサントリー時代よろしく、パスとランによるアタッキングラグビーを貫いていた。ボールポゼッションを重視し、「(日本代表に)エリアマネジメントという考えはない」、「自陣からでもアタックする勇気が必要」という言葉を繰り返した。


 このラグビーで世界と戦っていくと、指揮官に信じ込まされていた。もしくは用意周到にだまされていたとも思ってしまう。ただ、ワールドカップイヤーに入った今年は、その考えは少し変化が見られた。「パスとランとキックでスペースを使って、賢く攻めるのが『JAPAN WAY』だ」(ジョーンズHC)

夏合宿では繰り返していたキック

ゴールキックだけでなく、地域を取るキックでも貢献したFB五郎丸
ゴールキックだけでなく、地域を取るキックでも貢献したFB五郎丸【Photo by Yuka SHIGA】

 FWとBKを重層的に配置する攻撃戦術である「アタック・シェイプ」は、チームとして共通理解の下、戦わなくてはない。浅いフラットラインで敵と接近してパスを放って、ボールキャリアもしっかりと低い姿勢を取り、ステップを切って前に出たりすることが必須。それをワールドカップの舞台で実行するための最低限のフィジカル、フィットネス、スピードも欠かせない。どうしても熟練には時間がかかるため、敢えてパスとランを強調してきたのだろう。キックは個人の判断でも蹴ろうと思えば蹴れてしまうため、あえて封印したというわけだ。


 今思えば、2012年から3年間、夏のミニキャンプだけは、キックを使い自陣から脱出する練習だけを繰り返していた。また2013年の6月、キックをうまく使い、相手を背走させることでウェールズ代表を2戦目で撃破。2014年のマオリ・オールブラックスとの連戦も1戦目は自陣から積極的にボールを展開して大敗したが、2戦目はキックをうまく使い、僅差の惜敗だった。


 パスとランという日本代表の攻撃の軸を強化しつつ、ジョーンズHCは勝つために、特に南アフリカ戦では、相手のセットプレーを少なくし、ボールインプレーを増やすため、キックは蹴るが、タッチに蹴らないという現実的な方法を採った。その戦略が見事にはまった。

 何よりも負けず嫌いで、テストマッチでは「どんな方法でもあれ勝つことが重要」という指揮官ならでは、である。今年の1月、日本代表初の招集日に巨人の原辰徳監督に「鬼になれ」と講演してもらったが、一番、鬼になっていたのは指揮官だったのかもしれない。そして、キックをうまく使いつつ、チャンスとあれば見事なパスとランでトライを取り切り金星につなげた。

敗れたスコットランド戦の判断ミス

スコットランド戦ではキックを使わずに攻めたが、後半に突き放された
スコットランド戦ではキックを使わずに攻めたが、後半に突き放された【Photo by Yuka SHIGA】

 南アフリカ戦だけでなく、予選プール4試合を通して日本代表のキックとパスの比率は下記のようだった。


南アフリカ戦(○34対32) キック:パス=1:3.4


スコットランド戦(●10対45) キック:パス=1:16.9


サモア戦(○26対5) キック:パス=1:5.9


アメリカ戦(○28対18) キック:パス=1:6.1


 こうして見ると、特に南アフリカ戦はキックを賢く使っていたことが顕著である。またサモア戦、アメリカ戦も同様にキックの比率が高かった。この両試合は相手には身体能力が高いバックスリーがそろい、カウンターが得意であったが、セットプレー、特にラインアウトで日本が優位に立てるという予測の下、しっかりと蹴れるときはタッチに蹴り出した。


 一方、スコットランド戦だけが突出してパスにこだわっていたことがよく分かる。この試合は「ファスト・アグレッシブ・スタート」を掲げ、前半最初からトライにこだわり、ポゼッションも60%、テリトリーも64%と相手より高かった。中盤、相手のバックスリーが下がっていたため、スペースがあったのは確かである。だが、南アフリカ戦から中3日だったからこそ、前半勝負ではなく後半勝負で戦ってほしかった。賭けに出た部分もあるが、指揮官は戦略、戦術を見誤ったと言わざるを得ない。後半、フィットネスが落ちた原因は、疲れももちろんあるが、この判断ミスの影響もあったかと思う。

斉藤健仁

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。 学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「世界最強のゴールキーパー論」(出版芸術社)、「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)など著書多数。最新刊は「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版/2017年11月刊)。

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