W杯の奇跡を支えた「マジックハンド」 エディーが称賛した異色のトレーナー
W杯でもリーチ主将のギックリ腰などを治療
W杯のスコットランド戦で負傷したマフィ。大会中の復帰は難しいかと思われたが、次戦のサモア戦に出場した。 【写真:アフロ】
大会期間中、特にスコットランド戦からサモア戦の間は中9日と時間があったため、堀江、田中、マフィを治療したことは佐藤本人から聞いて知っていたが、リーチもヘスケスも治していたことは今回の取材で初めて知った事実だった。またマフィは歩けないほどの状態だったが、結局、サモア戦でも控えから出場したことには驚きを隠せなかった。当時、佐藤はマフィの復帰に際して「体が大きいので、1日中、マッサージをしていましたよ!」と笑顔で語っていた。
実は15年のW杯では日本代表だけが、一人もスコッドを交替させなかったチームとなった。それがエディー・ジャパンの快進撃を支えた一つの要因にもなった。「メンバーを帰さないことが僕の重要な役割でした」という佐藤は、大会期間中は、ホテルで朝から晩までほぼ治療に専念し、練習グラウンドに立つことはほとんどなかった。実は、佐藤が自分で髪をカットしていることを選手が知り、髪のカットも頼むようになり、「治療とカットの予約でいっぱいでした(苦笑)」と懐かしんだ。
堀江「目で見て、歩き方や姿勢で判断してくれます」
日本代表の堀江も、佐藤に信頼を寄せている 【写真:アフロスポーツ】
こうして選手の信頼を得た佐藤のところに、今もなおプロ選手やプロに近い、19年W杯を目指すラグビー選手たちが足を運ぶのは自然の流れであろう。
「40歳まで現役を目指している」堀江は佐藤の長所を「目で見て、歩き方や姿勢で判断してくれます。人によって治療やトレーニングが変わります。2019年以降、どれくらいできるかが大切だと思っています」とアスリートとして時間とお金を自分の体に投資している。またケガをした選手がいれば佐藤さんを紹介しているという。
大学時代からお世話になり「ケガを治してくれる先生だとわかっていた」という立川は、春は左膝の治療で訪れていたが、「自分の弱いところと伸びシロを見つけてくれる。一般的なトレーナーとは違った視点で診てくれますし、痛めた場所を強化できる場所も教えてくれるので、いい刺激になっています」と全幅の信頼を置く。
また昨年7月のスーパーラグビーの試合で左膝のじん帯と左足首を負傷していたFL金正奎も、当初、医者からシーズン中の復帰は難しいと言われたが、佐藤の治療からリハビリ、そしてトレーニングの甲斐あって、最短の4カ月で復帰。今年もサンウルブズの一員としてピッチを駆け回っている。「僕たちにわからないすごさがあります。本当に元の状態に戻してくれたので、本当に感謝してもしきれないくらい感謝しています!」(金)
19年W杯へ「どういう形でも力になることができれば」
「ケガした後よりも良くなって帰ってもらえればいい」と語る佐藤義人 【斉藤健仁】
日本でラグビーW杯が開催されるまであと2年あまり。佐藤は「選手たちは頑張っているので、2019年は、本当に頑張ってほしいですし、活躍してほしい。また、世界を驚かせるラグビーをしてくれれば最高ですよね!」とエールを送る。
「一度、ラグビー界に携わさせていただいたので、どういう形でも力になることができればと思います」。もしかしたら、日本代表チームや選手たちが再び「マジックハンド」の助けを必要とする時が来るかもしれない。そのときは佐藤もその思いに応える意志は固い。