スタイルが明確なA東京、統率力光る三遠 アナリスト視点でBリーグを見よう(4)

佐々木クリス
 初年度のBリーグがいよいよクライマックスを迎えようとしている。スポーツナビではBリーグ初代王者が決まる5月13日からのチャンピオンシップ(CS)2016−17に向けて、大会ナビゲーターに就任したバスケットボール解説者・NBAアナリストの佐々木クリス氏協力のもと、プレーデータを活用したCSの楽しみ方を連載形式でご紹介する。今回は、準々決勝で相まみえるアルバルク東京と、三遠ネオフェニックスのシーズンデータから、チームの特徴を解説してもらう。

 本記事で扱うデータは、Bリーグが競技力向上のためにB1に導入したバスケットボール専用の分析ツール「Synergy」の数値を元にしている。Bリーグ初年度のクライマックスを、データとともに楽しんでいただきたい。

速攻時の決定力がリーグ1位のA東京

【(C)B.LEAGUE】

 記念すべきBリーグの開幕戦を戦ったエリート軍団。A東京は60試合を終えてリーグNO.1の守備力を誇り、得点効率もリーグ4位と、攻守にわたって正にエリートチームと呼べることを証明した。また数あるクラブの中で、これだけ充実したスタッフを抱えるビッグクラブはなかなか見つからない。伊藤拓摩ヘッドコーチ(HC)を含めたコーチ陣のバックグラウンドは海外のバスケットボール文化とのつながりも感じる上、ベンチにはアナリストも置き、目指すべく方向が数字にもくっきりと表れるバスケットボールを展開している。

 まず、ハーフコート・ディフェンスがリーグ最高である証拠として、相手に許すeFG%(※1)成功率は47.2%と栃木ブレックスと並んでリーグ最小となっていることを挙げたい。特に守備の99.3%を占めるマンツーマン・ディフェンスはリーグNO.1で、相手はその圧力に消耗し切ってしまうのだ(5147回の相手攻撃権の内、ゾーンディフェンスを敷いたのはわずか31回)。

 守備の仕方を考える時、相手のシュート成功率を下げるタイプと、ターンオーバーを誘い相手の攻撃回数を減らすタイプに分類できる。相手からスティールし、速攻につなげる守備は魅力的だが、スティールに失敗した場合は相手に高確率なシュートを許すハイリスクな戦術とも言える。A東京の守備は堅実かつ強固で、“悪いシュート”で相手の攻撃を終わらせることにフォーカスされている。特に入る見込みの低いエリアでのシュートを仕向けることに労力を惜しまない。相手から誘うミスの数は100回の攻撃権あたり14.8回と平均的だが、相手のシュートミスからでも走る。しかもその決定力はNO.1と非常に危険だ。

 以下に40試合以上出場し、40回以上速攻時にシュートを放っているA東京の選手の得点期待値(=得点力)を並べた。

松井啓十郎 1.353(5位) 
田中大貴 1.274(10位)
竹内譲次 1.26(12位)
ディアンテ・ギャレット 1.219(24位)

※カッコ内は外国籍選手も含めた該当選手におけるリーグ内順位

 ギャレットの決定力が低いと感じられるかもしれないが、速攻はどの選手でも期待値が高いもの。この記録でも十分な数値である上、ギャレットが速攻でシュートを放った機会は201回とBリーグ全体でもジュリアン・マブンガ(滋賀レイクスターズ)の222回、タイラー・ストーン(千葉ジェッツ)の216回に続いて3番目に多い。このことからもA東京の守備から一気に攻めに転じるスタイルをギャレットがけん引していることは、熱心に試合を観戦している方でなくとも納得していただけるはずだ。

(※1)1試合のシュート数に3Pシュートの価値も上乗せした考え方の略。詳細は下記関連リンクを参照

ギャレットと田中の特筆すべきデータ

ギャレットはピック&ロール時のボールを保持した状態から、自らシュートまで持ち込む回数がリーグ最多 【(C)B.LEAGUE】

 速攻以上に、A東京の攻撃における最大の特徴はピック&ロールだろう。特にギャレットはボールを保持した状態でスクリーンを受けた後に、自身でシュートに持ち込む機会がリーグで最多の371回。同じ状況下で300回以上シュートを放った選手は、千葉の富樫勇樹、滋賀の並里成と秋田ノーザンハピネッツの安藤誓哉の3選手しかいない。

 実はこのタイプのシュートの決定力は、リーグの選手全体では決して高い数値を出していない。しかしながらギャレットは1試合で1回以上ピック&ロールを使ってシュートを打つ選手の中ではリーグ3位の得点効率0.933ppp(ppp=Points Per Possession)を誇り、各チームが恐れるだけある(1位は比江島の0.99ppp、2位がチルドレスの0.984ppp、pppのリーグ平均は0.712で目指すべき数値は1.0)。次にチームで多いのは田中の216回で、効率こそギャレットには及ばないが、得点への意識改革をもって臨んだ今季の気持ちの表れとも言える。

 ピック&ロール時にボールを保持する状況下で、この2人が放ったシュートの合計は実に587回。これはチーム全体で582回の新潟アルビレックスBBをはじめ、三遠(556)、横浜ビー・コルセアーズ(553)、京都ハンナリーズ(543)、大阪エヴェッサ(531)、シーホース三河(513)、富山グラウジーズ(501)、サンロッカーズ渋谷(473)よりも多い。

 ピック&ロールの絶対数とも相関関係があるこのプレーをチームメート2人で次に多く行うのは、千葉のタイラー・ストーン&富樫で508回。A東京の2人と千葉の2人だけがリーグで500回以上を記録しているのが大きな特徴だ。

 eFG%のコラムで解説したように、ピック&ロールの成功には外角のシュート力が大きく関わる。この2人を囲むチームメートのスポットアップ(シューターが外に広がってスペース=スポットを開けるプレー)からのシュート精度も0.947pppでリーグ5位。C&S(キャッチ&シュート/キャッチしてすぐシュートするプレー)の53.5%はノーマークということからも、内から外、外から内の相乗効果が見て取れる。攻撃のオプションとしてポストアップからのシュート機会が全体の7.4%とリーグで4番目に少ないが、ピック&ロールからポゼッションを消化した全2558本のシュートはポストを起点にせずとも多くの成果を得ているということだ。

 外国籍の入れ替えや、けが人の状況から立て直しを求められ完成度もピークとは言えないながらも、A東京は明確な方向性がリーグ戦では打ち出されており、チームスタイルが色濃く出ている。

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