スタイルが明確なA東京、統率力光る三遠 アナリスト視点でBリーグを見よう(4)

佐々木クリス

バランスの良さが数値に表れる三遠

セカンドチャンスポイントがリーグで2番目に少ない三遠だが、それにはチームとしての意図が表れていた 【(C)B.LEAGUE】

 A東京とCS準々決勝でしのぎを削るのは三遠。このチームのバランスの良さを過小評価してはならない。そしてハートの強さも。シーズンを通じて、自チーム得点効率と相手チーム得点効率の水準が共にリーグTOP5に入るチームはA東京、千葉に加えてこの三遠だけだと言うことを、まずお伝えしておこう。

 シュート決定力をみると、eFG%は50.73%とリーグ4位。この高確率につながった要因を細分化すると、シュートセレクションのバランスが非常によく、攻守にわたって自身の得手・不得手を正確に把握しながら戦術を組み立てていることがうかがえる。リングに近く、どのチームもまずはアタックしたいペイント内での得点はリーグ4位の1試合平均35.1点。比べて、リーグで平均的に効率が伸びないペイント内以外での2Pシュート=ミドルレンジから挙げる得点は全得点の11.3%に抑えており、リーグで5番目に少ない。3Pシュートは頻度、確率共に平均的と言えるが、内外のバランスで高水準を生み出していることは間違いない。

 もうひとつ、戦術分析の上でチームとして質の良いシュート機会を得られているかを示す指標にC&Sがある。三遠のC&Sの50.3%がノーマークとなっており、大部分が3Pシュートと仮定すると及第点以上だろう。また守備においては、このC&Sをよく抑えている。相手のC&Sの実に58.7%に対してコンテストと呼ばれるシュートチェックをしており、リーグ1位の数値だ。これはタフな仕事に明確な意図を持って取り組んでいる証拠で、FG(フィールドゴール)全体で見ても非常に低く抑えられているため、三遠と対戦する際は個で打開できる選手がキッチリと仕事をしなければ苦戦を強いられるだろう。

 バランスの良さ、チーム力――三遠を分析しているとこうした言葉が浮かび上がってくるが、最も象徴的なデータが、さらに彼らの「規律正しさ」と「チームとしてのタフネス」を物語っている。

 そのデータは、攻撃側がシュートをミスした際のオフェンスリバウンドとの相関関係が強い「セカンドチャンスポイント」だ。オフェンスリバウンドの直後にリング周りで流し込んだり、ディフェンスももみくちゃになり3Pシューターのマークが外れていたり、攻撃側としては攻撃権が1回増えるばかりか、次に放つシュートは高確率になりやすい、守備側にとっては手痛いプレーだ。

 三遠はこのセカンドチャンスポイントがリーグで2番目に少ない平均6.7点。そう、少ないのである。

リーグ最高峰のトランジション・ディフェンス

 得点の多さを競う競技でありながら、この強力な武器にもなり得る種類の得点が少ない、その真の意味はもうひとつの指標と併せてみる必要がある。それが、相手に許す速攻の頻度だ。

 三遠は相手の速攻を相手攻撃全体の9.2%にとどめており、リーグで最も少ない。さらに相手が多少強引に攻めたとしても期待値を1.004とリーグで3番目に低く抑え、人数をかけたトランジション・ディフェンスが質・量ともに高水準でリーグ最高峰となっている。

 今のデータをかみ砕くとこうなる。三遠はオフェンスリバウンドで絶対的優位に立てる人材がそろっていない。ならば3人オフェンスリバウンドに参加させるよりは、シュートを放ったら1人はリバウンド、残りはみな自陣に戻って待ち構えることに労力を費やそうということ。

 バスケットボール経験者の中には、オフェンスリバウンドに参加して相手にスムーズにリバウンドを取らせない方が速攻の抑止力になるのでは?と思われる方もいると思う。しかし、どのくらいのチャンスがあってリスクがあるのか、冷静な分析をした結果、三遠は2014年にNBAを制したサンアントニオ・スパーズが当時取り入れていたこの考え方を実行しているのである。

 この戦術からみえる三遠の素晴らしさは、数字以上のものがある。それはバスケで最も地味で、時に苦痛を伴う守備への戻りを誰1人として怠っていないこと。時に絶対的エースは得点に意識やエネルギーが偏り、一般には評価されにくい守備への戻りをおろそかにしてしまう。「多少戻りでさぼっても、俺が取り返せばみんな何も言わない」と慢心したり、審判に抗議するあまり守備に加われない選手を見たことがあるはずだ。

 心の持ち方が大きく試合に影響するのは言うまでもないが、特に攻撃から守備に切り替わる瞬間が、鍛え上げた一流バスケットボール選手でももろさを見せる落とし穴なのだ。

 この考えをチームで徹底するのは難しい。統率を取るためには千差万別の選手の動機付けの仕方も把握する必要がある。藤田弘輝HCはバスケットボールにおいて「最もDiscipline(規律)が必要なこと、これにプライドを持って取り組んでいる」と話し、これを遂行する選手たちの評価を惜しまない。

 今シーズンA東京と三遠の対戦は11節の2試合のみ。その際はA東京が2連勝を収めている。外国籍選手が入れ替わった後(22節以降)のA東京の勝率は15勝8敗と強さを見せているが、栃木や千葉との対戦では7試合中6敗と完成度の高いチームには負けている。

 ギャレットを筆頭に堅守から走りたいA東京。対して相手の速攻阻止がリーグNO.1の三遠。バランスの良い三遠がA東京を土俵際まで追い込んでも不思議ではない。

(データ提供:B.LEAGUE、グラフィックデザイン:相河俊介)

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