得点力が武器の川崎、攻撃OPが鍵のSR渋谷 アナリスト視点でBリーグを見よう(3)
本記事で扱うデータは、Bリーグが競技力向上のためにB1に導入したバスケットボール専用の分析ツール「Synergy」の数値を元にしている。Bリーグ初年度のクライマックスを、データとともに楽しんでいただきたい。
リーグ得点王を軸に生まれる川崎の好循環
【(C)B.LEAGUE】
リズムを狂わせようとゾーンディフェンスを試みたチームも、その効率の良さに気持ちを折られたことがしばしばあっただろう。
得点効率が良い理由はいくつか挙げられる。リーグ得点王で1試合あたり27.1点を記録するニック・ファジーカスの存在は試合のどんな場面でもアドバンテージを生み出す。まさに攻撃の起点であり、大きなレバレッジとなっている。また、ファジーカスがチームに加わり5年目のシーズンとなり、篠山竜青、辻直人といったバックコートの主軸と一緒に積み重ねてきた歳月は簡単に揺らぐことはないケミストリーを構築している。さらに「臨機応変」を座右の銘とし、選手たちに「自ら考え成功体験を重ねてもらう」スタイルの北卓也ヘッドコーチは、選手やスタッフにも判断を委譲しながらトップレベルでも成功を収めてきている。
このスタイルを示すデータとして注目すべきは、チーム内でのボールの回り具合を表すアシスト(AST)%の高さと、チームの安定性を表す指標である1試合に記録するアシスト数とターンオーバー(TO)数の比率=AST/TOだ。リーグNO.1の累計1064本のアシストは成功した全FG(フィールドゴール)の実に56.29%と18クラブの平均より9%も高い。シュート決定力が高いだけにアシストが伸びるのは当然と言えば当然。しかし、絶対的なファジーカスの存在感とは裏腹に、アイソレーションと呼ばれる1対1の状況からのシュート数は全シュートの2.5%でリーグ最小であるとデータは示す。ならばリーグNO.1のeFG%(※1)はボールが回るからこそさらに高まると言う好循環が見て取れる。
(※1)1試合のシュート数に3Pシュートの価値も上乗せした考え方の略。詳細は下記関連リンクを参照
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アシスト%が高いことも好材料
川崎はリーグ得点王のニックを軸に好循環が生まれている 【(C)B.LEAGUE】
その内訳を見ていくと100回の攻撃で14.2回TOを犯す頻度は平均より少し良いだけで、川崎もミスをしないわけではない。しかし先ほども挙げたAST%が優秀なだけにリーグでもTOPクラスのAST/TOとなっている。
試合を観戦した方ならお分かりだと思うが、川崎の選手たちには十分な決定力があるばかりでなく、ボールをつないで、相手ディフェンスの講じる策をかい潜って、打つべき選手にボールが供給できているのだ。それがデータにも表れている。
最後に特徴をひとつ付け加えるならば、川崎はバスケットボールにおいては誰しもが効率よく点に結びつけられるトランジション、すなわち速攻の頻度はリーグ9位にすぎない。当然少ない機会も高確率で決めるため危険なことに変わりはないが、この速攻の少なさからは、川崎のハーフコートオフェンスがいかに完成度が高いかをうかがい知ることができる。
ファジーカスは、リーグ4位のポストアップ数(308回)、さらに300回以上ポストアップをする選手中2番目に高い得点期待値をポストプレーにおいて有する。この脅威を最大限に生かしながら、ボールを持たずにリングに飛び込むカットプレーと、3Pラインにそろったシューター陣でディフェンスを粉砕する。ファジーカスを守るのか、そこからの展開を守るのか、対戦チームは苦しい決断を迫られる。
NETレーティングのコラム(※2)でもご紹介した通り、川崎の守備力はリーグ平均以下となっている。川崎相手に構えてはいけない。彼らが時折みせるフルコートプレスはリーグの中でも効果が高く、CSでは脅威になり得る。しかも、対戦相手に与えるトランジション機会は平均的であり、一度走られると新潟アルビレックスBBに次ぐリーグ2番目に高い確率で決められてしまう。それ以外に、ポストディフェンス、オフェンスリバウンドの直後に押し込まれるもろさもある。毒をもって毒を制す、攻撃的なメンタリティーで守備側の労力を使わせることでかき乱す必要がありそうだ。
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