世界に衝撃を与えた17歳・平野美宇 「打倒中国」を実現しアジア初制覇

高樹ミナ

「ヤバイ、夢かも!」

 日本卓球界の悲願である「打倒中国」を17歳の女子高生が実現するとは――。15日、前日に誕生日を迎えたばかりの平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園)が、中国・無錫(むしゃく)で開催された第23回アジア卓球選手権の女子シングルスで、世界王者・中国の牙城を崩して優勝。エース丁寧を含む上位3選手を破った衝撃のニュースは国際卓球連盟(ITTF)が「Japanese Teenager Hirano Shocks China to Win Asian Table Tennis Championships」とすぐさま報じたようように、驚きをもって世界中に伝えられた。

世界が驚いた平野美宇のアジア制覇。本人は「夢かも!」と喜びを爆発させた 【写真は共同】

 とりわけ日本では競技関係者から一般の愛好家まで多くの卓球人がこの快挙を祝福した。一部報道では1996年のシンガポール・カラン大会で優勝した「小山ちれ以来、21年ぶり」とも報じられたが、当時無敵を誇った小山はもとはといえば中国チャンピオンにもなった帰化選手。無論、日本で刻んだ功績は広く知られるところだが、日本育ちの選手という点でいえば、1974年の横浜大会で優勝した枝野とみえ以来、実に43年ぶりとなる。

 だが、そんな歴史もどこ吹く風。優勝を決めた直後の平野はコートからベンチに戻ると、「ヤバイ、夢かも!」と今どきの女子高生らしい素直な表現で喜びを爆発させた。

ハイライトは世界ナンバーワンの丁寧撃破

 2年ごとに開かれるアジア選手権には今回、男子28カ国、女子26カ国が出場し、女子の頂点に立った平野は大会を通して好調を維持していた。痛めていた右肩の具合が心配されたが、その影響はほとんどない様子で、自身の初戦にあたる2回戦と続く3、4回戦をストレート勝ち。迎えた準々決勝は世界ランキング1位でリオデジャネイロ五輪金メダリストの丁寧を相手にフルゲーム(5ゲームマッチ)の死闘を演じ、2ゲームを連取されてから怒とうの逆転で大金星を挙げた。

 1ゲーム目は平野に硬さがあったかもしれない。何しろ丁寧は過去6回シングルスで対戦して1ゲームも奪えていない相手なのだ。2ゲーム目も先に5点をリードした丁寧が主導権を握るかに見えた。だが、その直後に潮目が変わった。第2ゲームは12−14で惜しくも落としたが、3ゲーム目の接戦を11−9で制した平野は、続く4ゲーム目も2度のマッチポイントを握られながらピンチをしのぎ、16−14でフルゲームへと持ち込む。勝負を決するラストゲームも大接戦だったが12−10でモノにした。試合全体を振り返ってみると、第4ゲームの平野の粘りが勝利を引き寄せたといえるだろう。

 過去、丁寧に勝った日本人には2014年アジア大会団体戦の福原愛(ANA)、その前には2006年ジャパンオープンの福岡春菜(元中国電力)がいるが、世界ランク1位になってからの丁寧には2016年リオ五輪アジア予選の伊藤美誠(スターツSC)しか勝っていなかった。奇しくも伊藤が丁寧を破ったのは平野の誕生日。つまり平野が今大会で丁寧に勝ったのと同じ日だったことになる。「去年の誕生日は美誠ちゃんに話題をさらわれた」と平野が伊藤と笑い合っていたのが印象的だ。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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