世界に衝撃を与えた17歳・平野美宇 「打倒中国」を実現しアジア初制覇

高樹ミナ

フロックではない中国人選手からの3連勝

平野は丁寧撃破に留まらず、世界2位の朱雨玲、同5位の陳夢も立て続けに破ってみせた 【写真は共同】

 準々決勝で丁寧を倒した平野は、その勢いで翌日の準決勝も世界ランク2位の朱雨玲にストレート勝ち。決勝でも同5位の陳夢をストレートで破って優勝を手にした。平野といえば昨夏のリオ五輪で代表メンバーに入れず、控え選手として仲間をサポートし、試合に出られない悔しさを味わった。それを糧に前年の秋から取り組んでいた「守りのプレー」から「攻撃的なプレー」への転換に力を入れ、五輪の翌々月、2016年10月のワールドカップで最年少優勝。さらに年明けの全日本選手権でも大会4連覇中の石川佳純(全農)を破って最年少優勝を果たし、世界女王と全日本女王の称号を一気に手に入れた。

 しかし、ワールドカップは中国人選手が欠場したため、中国人との直接対決を制しての国際大会優勝はこのアジア選手権が初めて。本人も「中国人に3回勝つのはまぐれではできない。そこは自信になった」と話すように大きな価値のあるタイトルとなった。

 また、この結果を日本で見届けた母・真理子さんも、3歳半から小学校卒業まで卓球を指導してきたわが子の活躍に、「(美宇は)確かに力をつけてきてはいるが、丁寧選手に通じるかどうかというのが正直なところだった。勝てて本当にうれしそうだった。20年東京五輪までに中国を倒すのを目標にしていたが、ここで実現するとは思わなかった」と驚きと喜びの声を上げている。

金メダル狙う世界卓球 使用球は今大会と同一

 一つの大会で中国人選手に3連勝するという、神がかり的な平野のプレーは本当に素晴らしかった。だがその一方で、少しだけ触れておきたいのが使用球の影響だ。卓球は打球に対する反応やスピードもさることながら、打球の回転量がモノをいう競技で、トップ選手のボールには傍目(はため)には分かりにくい多彩な回転がかけられている。とりわけ中国人選手の打球は回転量もさることながら変化の種類も豊富で、他国の選手は“魔球”対策に苦労している。

 そんな中国人選手の持ち味に影響を及ぼした可能性があるのが、アジア選手権で使用された日本の卓球メーカー「ニッタク」のボールだ。ニッタクのボールは材質が硬く、ラケットからの球離れが早いため回転がかかりにくいという特徴がある。そのため打球の回転量で相手のミスを誘い攻撃を封じる、中国人選手本来のプレーが発揮しにくかったという見方があるのだ。

 ちなみに中国の超級リーグや日本も参戦しているITTFワールドツアーでは、中国の卓球メーカー「紅双喜」のボールが使われているが、ニッタクのボールに比べ材質が柔らかく回転がかかりやすいため中国人好みだといわれている。

 そうした意味では、来月ドイツのデュッセルドルフで開かれる世界卓球(5月29〜6月5日)の使用球もニッタクに決まっており、対中国を考えれば好材料と言えるかもしれない。

 アジア選手権で優勝した平野は今後、中国だけでなく諸外国からもマークされ、研究されることが予想される。しかし伸び盛りの17歳には、それを上回るさらなる成長もまた期待できる。世界卓球では優勝候補としてシングルス、そして日本のエース・石川と新ペアを組むダブルスで、金色のメダルを虎視眈々(たんたん)と狙う。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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