カデナ基地の本領発揮 「競馬巴投げ!第142回」1万円馬券勝負
長年夢想している“駅弁売り主催者”
この3月竣工となったが、確かに畳の部屋なのだが、想像以上にきれいなものとなった。部屋内では、すべてプリペイドカードで馬券を買う。というより馬券というものがない。レシートみたいなのが出てくるだけで、何番を買ったかの記録はすべて磁気カードに保存される。もちろん冷暖房完備(冬にはコタツも出るらしい)で、非常にいいのだが、この部屋に入る人はせっかく現場に来ながら、レースはすべてモニター画面で見て、生のレースを見ない可能性が高い(番外写真1、2)。これはもったいなくないか。
[番外写真1]園田競馬場のお座敷投票所 【写真:乗峯栄一】
[番外写真2]想像以上にきれいだけど、せっかく現場まで来たのに生のレースを見ないのはちょっともったいない? 【写真:乗峯栄一】
ぼくが長年夢想しているのは、われわれ競馬客の方がガラスの中にいて、駅弁売りのように首から平台を下げた多数の主催者のおじさんが「バケーン、バケーン、バケーンは要らんかねえ」とガラスの外を動き回る。ときたまガラス窓を開けて「あ、バケン屋さん、馬券ちょうだい」とガラスの中から手招きするのである。
「買いなはれ“ワシのJRA”で」
[写真1]スワーヴリチャード 【写真:乗峯栄一】
我々が「ファンディーナ単勝1万」と書かれた紙を大事にするのは「ファンディーナが来た日にはJRAがこの紙切れと交換に3万くれる」と“信じている”からだ。「この紙切れ持ってる間にJRAトンズラするかもしれんぞ」と心配していたら馬券にはならない。JRAが信用されるのは競馬場という巨大施設を持ち、多くの馬をつつがなく出走させ、大勢の職員がスーツの制服で「お客さま第一」と言うからだ。
「でももしこれがもし逆だったらどうだ?」と時々考える。
我々がスーツ着てガラスの向こうに座り「皐月賞なに買おう」と思案する。ガラスのこっちには、くすんだジャンパーに頭ボサボサ、欠けた歯に路上で拾ったシケモク挟んだおっちゃんたちがゾロゾロ集まる。駅弁売りのように首から段ボールの平台が吊され、その平台には例外なく「JRA」という手書きの紙が貼られる。馬券売りのJRA職員たちだ。
「ニイちゃんら、皐月賞買うんかいな?」と平台下げた“JRAおっちゃん”数人がガラス板に近寄る。「はよせな、時間ないで」とおっちゃんたちは黄色い歯を見せてニッと笑う。
「私たちは検討の結果、キングズラッシュの単勝を100万買おうと先ほど決定しました、ね、主任」とスーツの若者が後ろを見ると、主任の女性がダダダと駆けよってきて「何かトラブルでしょうか? 恐縮ですが、私たちの内規ではキングズラッシュとなっております」とさらに訳の分からないことを言う。
「キングズラッシュ? アハハ、まあええわ、で、いくら買うって? よう聞こえへんがな。え? いくら? ヒャ、100万?!」と平台おじちゃんは甲高い声で金額を復唱して目を剥く。「買いなはれ“ワシのJRA”で、キングズラッシュ固いがな」と態度一変、ガラスに額こすりつけて強烈セールスに入る。
「何言うとんねん、ワシのJRAから買うたらええがな、すぐ馬券出したるサケ」と横のJRAおじさんも割って入る。
「早い馬券やったら、ワシが一番やっちゅうねん、ワシの馬券は早くて、そのうえ美しいがな」とそのおじさんは自分の平台の上にジャポニカ学習帳を広げて「サウンドバリアー単勝100万円」と書き、ビリッとそのページを破って「ホイ、馬券、早いやろ? その上きれいや。“鉛筆字のモッさん”てワシ、子供の頃から有名やったんや」と差し出す。ガラスの向こう客が顔しかめると「あ、わりぃわりぃ、忘れとった。サイン入れなナ? 証書やさけナ。いま入れたるがな。“JRA”と、ホレ」
馬券はこれでもいい。今のJRA発行馬券だって別にスカシや特殊蛍光がある訳じゃない。ただ我々が「JRAは持ち逃げしない」と信用しているだけのことだ。つまり信用だ。今年度皐月賞(18)のトラストだ。信用さえあれば馬券購入者と販売者のシステムは逆転したっていい。