サンウルブズを初勝利に導いた“融合” ブルズ撃破は日本代表、W杯への自信に

斉藤健仁

南アフリカ代表5人を擁するブルズに勝利

独走するサンウルブズFB松島。何度もチャンスを作り出した 【斉藤健仁】

 満開の桜に囲まれた聖地で、サンウルブズの選手たちは、おのおの抱き合い、今季初勝利に喜びを爆発させた。

 4月8日、スーパーラグビーの第7節、日本を本拠地とするサンウルブズは、ホームの東京・秩父宮ラグビー場に、優勝3回の南アフリカの雄・ブルズを迎えた。

 開幕から5連敗中だった狼軍団にとって、勝たなければいけない試合だった。ホームで、前節は試合がなくて休養は十分。また相手は東京に来る前にニュージーランド(NZ)で2試合を行い、遠征最後の試合だったので、チームの中軸である南アフリカ代表のSOハンドレ・ポラード、FBジェシー・クリエルの2人を休ませた。

 それでもブルズは強敵だった。FWには代表で主将を務めるHOアドリアーン・ストラウス、BKにはCTBヤン・サーフォンテインら先発にスプリングボクス(南アフリカ代表の愛称)経験者5人をそろえ、若いLOの2人も身長2mを超えており、FWの平均体重は6.5キロほど上回っていた。

SH田中、FB松島らW杯組が復帰

逆転PGを決めるなど、冷静な判断と高い技術が光ったSO田村 【斉藤健仁】

 サンウルブズにとって「コーチングスタッフにおけるチャレンジ」(田邉淳コーチ)という位置付けの試合だった。3月の遠征では4連敗したものの若い力が躍動し善戦、一定の手応えと自信を得ていた。その選手たちに、どう、NDS(ナショナルディベロップメントスコッド)合宿で調整していた経験ある選手を融合させるかは、一つの課題だった。

 そのため、サンウルブズのメンバーは遠征に参加した選手が中心だが、今季からサンウルブズに加わったSH田中史朗、FB松島幸太朗の2015年のワールドカップ(W杯)組2人がスターターに名を連ねた。そしてベンチにも同じくW杯組のPR稲垣啓太、HO木津武士、SO田村優の3人、そしてベテランSH矢富勇毅と日本代表でも経験豊富な4人が今シーズン初のメンバー入りとなった。

 3週間前、サンウルブズはアウェーでブルズと対戦し、後半、相手にレッドカードが出て数的有利になったにも関わらず21対34で敗戦。失トライ4本の内2本がゴール前のモールから許した。つまり、サンウルブズにとっては、どのように相手にゴール前でモールを組ませないか、裏を返せば、自陣での不用意な反則を重ねることを避けなければいけなかった。

課題だったキック後のディフェンスが向上

先制トライを挙げたNo.8ボスアヤコ。スピード豊かなランが魅力 【斉藤健仁】

 1万2000人を超える観客の中、試合はキックオフされた。サンウルブズはSH田中の緩急をつけたボールさばきと、SOヘイデン・クリップスらの裏へのキックを軸にアタックで試合を優位に進める。6分、裏へのキックに、ゲームキャプテンを務めたCTBティモシー・ラファエレが反応しキャッチ。すぐに左に展開し、この試合でデビューを果たした21歳のNo.8ラーボニ・ウォーレン・ボスアヤコが左中間にトライ。

 この後も、サンウルブズは田中のボックスキックやクリップスのハイパントなどのキックを軸に戦う。実に前半だけを見てもインプレー中のキックは18回で、ほとんどはハイパントやディフェンスラインの裏へ蹴る、相手を競り合うコンテストキックで、タッチに蹴ったのは1回のみだった。

 その意図は、大きな相手FWを走らせること、相手が優位に立つラインアウトを減らすこと、さらに肉体的な疲労を避けるためである。ボールをキープし続けると相手のタックルを受けて疲労が蓄積、80分間、フィットネスが続かない可能性が出てきてしまう。

 キックを多用すると、キックチェイス、そしてディフェンスも重要になってくるが、外から内に、前に出る組織ディフェンスは前提としつつ、過去5試合であまり良くなかったラック周りのディフェンスとともに、キックを蹴った後のチェイスが格段に良くなっていた。前半22分、キック後のHO庭井祐輔のジャッカルは象徴的なシーンだった。

「ディフェンスはコミュニケーションが取れてきましたし、しんどいときでも周りと話す癖がついてきた。KCP(キックチェイスプレッシャー)は前節もラインはそろえることができていましたし、日本に戻ってきても意識できていました」(FL徳永祥尭)

 試合を通してのサンウルブズのポールポゼッション(保持率)は40%だったが、ディフェンス時に相手のボールをターンオーバーした回数は、ほかの試合は多くて6回だったものの、この試合は断トツに多い12回。相手を止めるだけでなく、有効的にボールを奪い返していたことがわかる。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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