サンウルブズを初勝利に導いた“融合” ブルズ撃破は日本代表、W杯への自信に

斉藤健仁

ティアティアHC「ゲームプランをしっかりと遂行してくれた」

終了間際に相手ボールを奪うなど、体を張ったプレーを見せたCTB山中 【斉藤健仁】

 サンウルブズ、そして日本代表のラグビーが目指すのは、日本代表のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が、2015年に指揮を執ってスーパーラグビーを制したハイランダーズ流だ。

 キックを有効的に使いつつ、ボールポゼッションが劣っても、80分間、献身的にディフェンスでプレッシャーを与え続けた上で、キックやアンストラクチャー(崩れた局面)からのアタックでトライを取って勝つ。まさしく、この試合は、ハイランダーズ流のラグビーで戦えていたと言えよう。

 そして、ジョセフHCが勝因を「リザーブのパフォーマンス」と挙げたように、後半、11対20とリードされた中でも、SO田村を筆頭に、PR稲垣、FL布巻峻介、SH矢富、CTB山中亮平らは、チームに勢いをもたらした。

「これまでの試合では最後の20分が課題だったが、今日はキックチェイスが向上したことに加えて、リザーブの選手が落ち着いて試合に入り、ゲームプランをしっかりと遂行してくれた」とサンウルブズのフィロ・ティアティアHCが言うように、コーチ陣の戦略、戦術、そして選手起用が当たった。

田中の助言を受けたWTB中鶴がトライ

後半29分にスピードを生かしてトライを奪ったWTB中鶴 【斉藤健仁】

 そして、試合はクライマックスを迎える。後半は、SOが田村に代わったこともあり、ロングキックも増えたが、試合を通してキックチェイスとディフェンスが良かったために、相手の攻め手はハイパントしかなくなっていった。「相手のアタックはパスして当たって、しかなかったので、ディフェンスはしやすかった。1対1は強いですが、みんな、詰め切ってスペースをなくせばいけると思っていた」(CTB山中)

 後半29分、その相手のキックからカウンターアタックを仕掛け、山中のクイックハンズから松島がゴール前まで迫る。相手選手がたまらず反則をしてシンビン(10分間の退場)。そのチャンスに、サンウルブズはスクラムを選択、ボールを継続して、最後は右オープンサイドのスペースにいたWTB中鶴隆彰にSO田村がロングパス。中鶴がインゴールを陥れて18対20と2点差に。

「直前に交代したフミさん(田中)が『お前は端にいろ』と声をかけてくれたので、あのポジションで待っていた。トライの瞬間は、ファンの歓声がすごくて、気持ちよかったです!」(中鶴)

「ここまで成長できたことにハッピーな気持ち」

今季初勝利に喜びを爆発させるサンウルブズの選手たち 【斉藤健仁】

 結局、懸念していたゴール前でのラインアウトからのモールは、その機会を与えないことに成功した。相手のタッチキックミスも1度あったが、モールに入らなかったり、競ったりするなど、自陣奧深くでモールを組ませないスマートな試合運びが勝因の一つとなった。

 田村のPGで21対20と逆転して迎えた39分、途中交代で入った木津のタックルから、稲垣がジャッカルを決める。さらにロスタイム、矢富、山中の2人でジャッカルを成功させて、最後は矢富がボールをタッチに蹴ってノーサイド。6試合目にして、サンウルブズは今季初勝利を挙げた。

「勝利できて大変うれしい。2月から選手たちはハードワークを続けてきて、ここまで成長できたことにハッピーな気持ちでいる。23人全員の勝利だ」とティアティアHCが言うとおり、遠征で一回りも二回りも成長した選手たちに、ジョセフ日本代表HCのもと、日本でしっかりトレーニングを続けていた選手たちが融合、ファンの声援を背に、チーム力で勝ち取った白星だった。

準備期間が短い中で奮闘するサンウルブズ

常に全力を出し切ってチームに貢献しているCTBカーペンター 【赤坂直人/スポーツナビ】

 サンウルブズにとっては、今季初勝利というだけでなく、南アフリカ勢、そして優勝経験チームからの初勝利は大きな意味を持とう。

 昨季の初勝利は第9節、今季も第7節と、やはり、ほかのどのチームよりプレシーズンが短いサンウルブズにとっては、チームが成熟するまで時間がかかることは明らかである。奇しくも試合当日、1995年に始まったスーパーラグビーは来年から18チームから15チームに削減されることが決まった。サンウルブズは削減対象とはならなかったが、良いアピールとなったはずだ。

 いずれにせよ、このブルズ戦の勝利は、サンウルブズにとっては大きな自信となり、日本代表にとっては6月のテストマッチ、そして2019年のW杯につながる白星になった。すでにサンウルブズは格上と4試合対戦するNZ・アルゼンチン遠征に出発した。再びハードな遠征になるが、チャレンジャーとして本場のファンを魅了するラグビーを見せてほしい。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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