サンウルブズ、大敗の中で光った3トライ 「課題をどうポジティブに変えるか」

斉藤健仁

昨季の王者相手に83失点

厳しい戦いの中でサンウルブズのNo.8ブリッツ(中央)らが奮闘した 【斉藤健仁】

“日出づる国のオオカミたち”の2年目の挑戦が始まった。
 
 2月25日、日本を本拠地とするスーパーラグビーチーム、サンウルブズは東京・秩父宮ラグビー場で、1万7553人の観客の期待感の中、開幕戦を迎えた。相手は昨年、初優勝を飾った王者ハリケーンズだった。

 昨年、1勝1分13敗で最下位だったサンウルブズにとって初のニュージーランド勢との対戦は17対83、トライ数であれば3本対13本と完敗だった。相手の速さ、強さ、そしてオフロードパス(タックルを受けながらつなぐパス)といった巧さに簡単にトライを取られたシーンも目立ったが、必ずしもネガティブなことだけではなかった。

 今年のサンウルブズは、昨年のチームと比べて、53名のスコッド中34名が日本代表経験者であり、ほぼ全員が日本代表、もしくは今後、日本代表になりたいという意志をもった選手たちで構成されている。つまり日本代表に準じるチームとなった。ただ、スコッドを多く招集した反面、昨年の11月の日本代表を経験している選手は9人(先発は7人)、初のスーパーラグビーの試合を経験したという選手は10人(先発は7人)、そして2015年のワールドカップ組は3人と、経験という面では物足りない布陣だった。

スクラムは安定、WTB中鶴らも躍動

約1万7500人のファンが見守る中、スクラムで相手を押し込んだ 【斉藤健仁】

 それでも昨年、キャプテンとして率いたHO堀江翔太は「メンタル面とか精神的な部分は(昨年のチームを)引き継いでいる。残っている」と感じていた。昨年のサンウルブズにも見られた最後まで戦う、あきらめない気持ち――それが顕著に出たのが、5対83となり、100点ゲームをも覚悟した後半20分以降だった。

 昨年、最後まで苦しんだスクラムは、長谷川慎コーチの下、見違えるように改善し、低く、8人一体となって相手を押し込む。「スクラムコーチがいるかいないかで全然違う。まったく不安はなかった。押される気はなかった」(堀江)。そしてトップリーグMVPだったWTB中鶴隆彰、この試合は途中からFBに入った江見翔太のサントリーの両翼はしっかりと前に出て、ほとんどプレー経験のない13番に入った山中亮平も得意のランでチャンスメイク。SH茂野海人もラック周辺で、FWをうまく使っていた。

病床の父にトライで勇気を伝えたブリッツ

後半37分、連続攻撃からブリッツがトライを奪う 【斉藤健仁】

 後半29分には、昨年はケガに苦しんだが復調し「ディフェンスだけでなくアタックも意識した」というFL金正奎がトライ、そして37分には手首に巻いたテーピングに「DAD」の文字を刻んで、南アフリカにいる病床の父を思って最後まで体を張り続けたNo.8ヴィリー・ブリッツがトライを挙げた。

 前半のFBリアン・フィルヨーンのトライも含め、サンウルブズのトライの起点はすべてラインアウトだった。昨年、ラインアウトは最も獲得率の悪いチームだったが、「テンポで取ればいけるはず」と堀江が言っていたように、ラインアウト、スクラムというセットプレーは見事に改善されていた。

 実はハリケーンズは、昨年のプレーオフ3試合は相手をノートライに抑えて優勝し、最後の5試合を見ても3トライしか許していなかった。スーパーラグビーの中でもディフェンスに定評のあるチームだった。「最後の15分、20分はサンウルブズのゲームだった」と相手のゲームキャプテンでオールブラックスでもあるSHのTJ・ペレナラが称えたように、王者相手に自分たちのアタックでしっかりトライを奪えたことは、今後に向けて大きな収穫となったはずだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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