西武・菊池、新エースへ上々の開幕白星 大谷との勝負で課題残す一方、手応えも

中島大輔

菊池は自身2度目の開幕投手で初白星をマーク 【写真は共同】

 札幌ドームのマウンド上で、埼玉西武の菊池雄星は思わず苦笑いを浮かべていた。

 対して、ライト前に鮮やかなヒットを放った北海道日本ハムの大谷翔平は、一塁ベース上で自然と笑みをこぼしていた。

 この球を打つのか――。

 二人にしか見せられないような名勝負が生まれたのは、開幕戦という独特の舞台だったからかもしれない。3月31日に実現した花巻東高(岩手)の先輩後輩対決は、今季の熱い戦いを予感させるものだった。

投手心理をわかっていたからこそ…

 西武が4点を奪って6対1とした直後の6回裏1死。先発の菊池は味方にリードを大きく広げてもらい、無失点に抑えて流れをつかまなければならない場面だった。ここで迎えたのが、この日3度目の対戦となる大谷だ。

 初球は内角高めの150キロストレートが外れる。続いて外角低めにスライダーを投じると、大谷は強振した。1ボール、1ストライク。ここで再びバッテリーは内角のストレートを選択する。146キロのボールがコースぎりぎりに向かったが、大谷はものの見事にライト前に弾き返した。

 直後、菊池が思わず苦笑いをこぼしたほど、投手としては文句のつけようのないボールだった。それを大谷も分かっていたからこそ、塁上で笑みを浮かべたのだろう。

「目が合って、あいつもベース上で笑っていました。そういうことだろうと思いますね。本当にすごいバッターです。あのインコースをきれいにさばかれるのは、なかなか経験がありません。もっともっと対策を練らないといけないと思います」

捕手・炭谷が施した「工夫」

 この日の菊池は、辻発彦監督が「フラフラしていた」と振り返ったように、立ち上がりから本来の出来ではなかった。開幕投手の大役を任されるのは昨年に続いて2度目だが、その意味合いは大きく異なっている。当然、菊池自身もこの試合に投げる意味を受け止めていた。

「去年はカードの組み合わせによって僕がいったという形なんですけど、今年に関しては監督からも『1年間、お前中心でいく』と就任されたときから言われ続けていたので、重みも違うと思います」

 前年は2カード目に福岡ソフトバンク戦が組まれていた関係でエースの岸孝之が開幕に投げず、代わりに菊池が任された。その岸が同年終了後にFAで東北楽天に移籍し、今季から就任した辻監督は菊池にエースの座を託している。

 その思いを背負ってマウンドに登ったことで、立ち上がりから力みが出てしまった。結果、フォームのバランスが悪くなり、コントロールを重視しようとしたがゆえにボールを置きにいく場面も見られた。そうして苦しんだ試合序盤、要所で立ちはだかったのが大谷だった。

 初回に先頭打者の西川遥輝にセンター前ヒットを打たれた後、田中賢介を打ち取り、この日初めての打席に迎えた。言わずもがな先制点を与えたくなく、自然と力が入るような場面で、バッテリーは完璧な攻めを見せた。試合前、捕手の炭谷銀仁朗はこんな話をしている。

「(大谷との打席では)こっちが工夫するので、雄星には基本的に無駄な四球を出さないように投げてもらえればいい。普段通りのピッチングをしてくれればいいです」

 炭谷の言う「こっちの工夫」とは、インコースを意識させることだった。初球は145キロのストレートを外角に決めてストライクを取ると、2球目からは内角にストレートを3球続けて攻める。5球目は一転、外角低めに逃げていくスライダーを投じると、大谷は体勢を崩されて空振り三振に倒れた。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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