【ボクシング】怪物王者ゴロフキンに見えた衰えの兆候 ミドル級“スターウォーズ”本格開戦か

杉浦大介

「トップ選手たちに戦う理由が与えられた」

ほころびを見せた戦いで、ミドル級の“スターウォーズ”本格開戦か 【Getty Images】

「毎回KOはできないし、ダニーは強さ、サイズ、ボクシングIQを生かし、素晴らしい試合をした。タフなファイトになることは分かっていた。ゲンナディはスキルを誇示できる挑戦を望んでいたんだ。ダニーをKOしなかったことで、ミドル級の他のトップ選手たちに(ゴロフキンと)戦う理由を与えられたんじゃないかな」

 ローフラー氏のそんな言葉の後半部分は、ボクシングビジネスの核心をついている。ピークにいる強豪同士の対戦はなかなか実現しないのがこの業界。しかし、一時は恐れられた選手がひとたび弱みを見せれば、血の匂いを嗅ぎつけたサメのようにライバルたちが周囲に忍び寄ってくる。

 トップ選手の潰し合い第1弾となったゴロフキン対ジェイコブス戦を皮切りに、ミドル級のスターウォーズが本格的に始まる予感はすでにあった。ここで階級最強のゴロフキンがついに鈍りを見せたことで、その流れは加速しそうだ。

 今後、まずは6月10日にカザフスタンでゴロフキン対WBO王者ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)の4団体統一戦が計画されている。その後の9月、かねてから待望されてきたスーパーファイト、ゴロフキン対サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)が開催されるというのが理想的な展開となる。

 サンダース、カネロとともに、これまでゴロフキンとの対戦に積極的に見えなかった。ローフラー氏の予言通り、ジェイコブス戦後にそれも少し変わるかもしれない。そして、そんな彼らとの戦いの中で、ゴロフキンの現在の力がはっきりと世にさらされるのだろう。

再び戦慄の強さを取り戻せるか

「もちろんカネロと戦いたい。その試合を野獣のように望んでいる。ただ、ジェイコブスにもリマッチのチャンスを与えたい」

 ビッグファイト・シリーズを熱望してきたカザフスタン人のそんな願いは、35歳にしてようやく叶えられる可能性が高い。実現の引き金となるのが、自らの衰えによる拙戦だったとすれば皮肉な話。しかし、繰り返すが、ボクシングビジネスとはそんなもので、特に米国で戦う海外選手の実力と商品価値のピークはずれる傾向にある。思えば同じ日に初黒星を喫した4階級制覇ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)も、米国で知名度が上がったのは全盛期を過ぎた頃だった。

 ミドル級が一段と燃え上がりそうな2017年――。ついに最大の舞台に立つことになりそうなゴロフキンは、再び戦慄(せんりつ)の強さを取り戻せるのか。あるいは加齢によるスローダウンが進み、絶好機を待ち続けたライバルたちの思い通りに軍門に下るのか。対戦相手のレベルが上がるのと並行し、時間との戦いも進んでいく。

 どんな結果になろうと、今年後半から来春にかけて、ゴロフキンのキャリアに劇的なクライマックスが訪れそうな予感が確実に漂ってくる。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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