歴史的な逆転劇の陰に潜むバルサの問題点 デポルティーボ戦の敗戦を教訓に

バルサファンを幸福に浸らせたCLでの逆転劇

CLでの逆転劇で、世界中のバルサファンを幸福に浸らせる時間が続いてきた 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 ここ数日、世界中のバルサファンを幸福に浸らせる時間が続いてきた。現代フットボールの、それもチャンピオンズリーグ(CL)ほどの大舞台において、トップレベルの選手がそろったパリ・サンジェルマン(PSG)のような強豪チームを相手に、0−4からの逆転を実現するとは。ましてや終盤の7分間で3ゴールを決めるという信じられない形だったのだから、それは盛大に祝うべきである。

 この上なく劇的な形で成し遂げた3月8日(現地時間)の決勝トーナメント第2戦での6−1の勝利により、バルセロナは敗退が確実視されていたCLでベスト8進出を果たした。しかし、矛盾しているように聞こえるかもしれないが、ここで誤解のないよう私の考えを明記しなければならない。あの夜さえ、“アスルグラナ”(青とえんじ。バルセロナの愛称)は数年前のようなプレーができていたわけではなかったということを。

 バルセロナの逆転を可能にしたのは選手たちの驚くべき執念であり、レフェリーの目に余る誤審であり、まるでライバルの追い上げを歓迎するかのように開始1分からゴール前に引きこもったPSGの消極的な姿勢であった。

 1つ1つのゴールシーンを振り返れば、2ゴールは存在したとは言い難いPKによるものであり、1ゴールはネイマールの見事な直接FKであり、1ゴールは相手選手に当たって入ったオウンゴールだった。流れの中から奇麗に決まったものと言えば、ルイス・スアレスが開始早々に決めた先制点、そしてチーム全員がゴール前に押し寄せたラストプレーでセルジ・ロベルトが押し込んだ6点目だけだ。

トップレベルの選手が15人ほどしかいない

デポルティーボ戦ではかねてからの問題点をあらためて露呈 【Getty Images】

 とはいえ、だからと言ってこの歴史的な逆転劇の価値が下がることはない。そのことははっきりさせておこう。だがチームのプレー内容や機能性、そう遠くない過去との比較に着目した場合は別だ。戦術的な方向性を見失うことで力を失い、ボールポゼッションの質が並みのレベルまで落ち込んだ今のバルセロナは、全てをスター選手たちのタレントに依存するようになった。そしてそのスターたちも安定感に欠けたプレーが続いている。

 特定のポジションにとどまらず、ピッチ上を自由に動きながらプレーすることが多いリオネル・メッシは、ここにきて調子を落としつつある。アンドレス・イニエスタも万全のフィジカルコンディションを維持できておらず、コンスタントにプレーしていない。ネイマールは傑出したタレントを持ちながら、ドリブル突破に固執するあまりに判断を誤り、ラストパスのタイミングを逃しがちだ。高精度のアシストを必要とするルイス・スアレスへの配給が遅れれば、相手守備陣にポジショニングを修正する時間を与えることになる。

 さらにバルセロナはレアル・マドリーと比べ、出番を与えるたびに結果を出し、主力メンバーのプレーレベルを維持できるバックアッパーの補強にことごとく失敗している。

 バルセロナが抱えるこれらの問題点は、11日のデポルティーボ・ラ・コルーニャ戦(1−2)であらためて露呈した。あのような形で大逆転を成し遂げ、この上なく充実した精神状態で臨んだはずのバルセロナに対し、ぺぺ・メル率いるデポルティーボはペナルティーエリアへの侵入をほとんど許さず、両ゴール前での空中戦を制し続けた。

 今のバルセロナにはトップレベルの選手が15人ほどしかいない。選手交代が必要な際には先発組とは異なるレベルの選手を投入せざるを得ず、度々高い代償を払わされている。それに頼りのスター選手たちも常に最高のパフォーマンスを見せてくれるわけでもない。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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