クルム伊達「強いメンタルがすごく大事」 先駆者のみが知る、世界で戦うための条件

スポーツナビ

現在リハビリ中のクルム伊達公子が、錦織圭ら後輩らの活躍やテニスへ思いを語った 【写真:赤坂直人/スポーツナビ】

 クルム伊達公子(エステティックTBC)は、インタビューの席に着くやいなや、柔和な笑顔を浮かべた。1996年の現役引退、2008年の現役復帰を経て、今なお“日本女子テニス界の顔”として君臨し続ける46歳。今月行われたイベントでは、大会数日前から「少しずつ気持ちを高めたり抑えたりしながら」集中モードに入ると明かし、テニスに対するストイックな姿勢を見せていた。しかし、目の前に座る彼女は、その厳しさとは裏腹に穏やかな空気をまとっている。

 37歳で現役復帰を決めた時、クルム伊達はその理由を「若手に刺激に与えるため」と説明した。あれから8年、日本は錦織圭(日清食品)を筆頭に、男女ともトップ100に複数選手がランクインするなど、活況を呈している。そんな若手の活躍をどう見ているのか。今年、痛めていた左ひざ半月板の手術を受け、現在リハビリに励む本人に話を聞いた。

リハビリはマイナスなことだけではない

――今年2月と4月に2度手術を受けました。現在リハビリの真っ最中ですが、状態はいかがですか?

 間もなく2回目の手術から5カ月が経つんですけれど、手術した半月板と軟骨の状態は順調にここまできています。落ちてしまった筋力をどう戻していくかに苦戦している状況で、まだ走れるレベルには来ていないのですが、リハビリでは左足にも負荷を掛けられるスクワットもメニューに入ってきているので、少しずつですけど走れる日、その先にはテニスを再開できる日というのは近づいてきているのかなと。(来年)4月くらいには試合に出られればと思ってはいます。

――若い頃のようにすぐには治らない中で、それでも手術に踏み切った理由は?

 踏み切るというか、チョイスがなかったので仕方なかったんです。テニスはもちろんですけれど、たとえテニスを引退しても、他のスポーツをしたり、私生活においても多少は影響があるとのことだったので、もうやるしかないのかなということで。当然、テニスが長くできる年齢でもない中で、動きたいのにどうしても膝がついてこない。でも膝さえ治れば、もう1回元気に走ってプレーができます。やっぱりここまでやってきて、最後にけがで動けないという形で終わりたくなかったんです。

――長いリハビリ生活ですが、モチベーションをどう保っていますか?

 手術自体は人生で初めてでしたけれど、けがをして復帰に向けてやるべきことを自分である程度理解して、納得して、やることもだいたい想像はついています。期間は長いですが、やらなければコートに戻れないことは分かっているので、それに対して時間がかかるのは、さほどつらいことではありません。きちっと自分の体と向き合える時間でもありますし、しっかりとリハビリができれば体的には強くなれるし、決してマイナスなことだけではないと思います。ただ、どこまで試合に耐えられる膝になるかは、実際にふたを開けてみないと分からないので、そこだけが不安材料ではありますね。

感じたものを受け止める勇気が必要

若手の活躍を歓迎するクルム伊達。大坂なおみには練習パートナーを務めてもらうこともあるという 【写真:赤坂直人/スポーツナビ】

――2008年に現役復帰された時、その理由を「若手に刺激に与えるため」と説明していました。現在、日本女子では土居美咲選手(ミキハウス)を筆頭に、日比野菜緒選手(ルルルン)、奈良くるみ選手(安藤証券)、大坂なおみ選手と4人の若手がトップ100で活躍しています。この状況をどう見ていますか?

 一時期はトップ100に本当に1人、2人ということもありましたが、今は4人なので、少しずつですけれど良くはなってきているとは思いますね。特に大坂なおみちゃんは、日本人離れした体格をしていてパワーもある。今までの日本人の傾向としてパワーとパワーで(ぶつかって)いけないところを、彼女はパワーとパワーでいけるテニスをしています。そういうタイプの違う選手が出てきたことは、一般の人たちから見ても楽しみな要素になるのかなと思いますね。

――90年代と今の日本の若手選手とで、雰囲気の違いはありますか?

 私たち(日本勢)がトップ100に10人くらいいた時は、結構日本人同士でピリピリしていましたが、良くも悪くも今はそういうのがないですね。今時な感じで本当にみんな仲がいいので、良い意味でもうちょっと緊張感というか、ライバル意識というのがあってもいいのではないかと思うほどです。

――彼女たちがさらに上位を目指すためには、何が必要だと思いますか?

 1人1人個性が違うので一概にはこれというのは言いづらいところではあります。でもツアーにいて何が必要かを一番に感じているのは、やはり選手本人だと思うので、感じたものをしっかりと受け止める勇気はいりますよね。どうしてもアジア人の場合は体格的に劣る部分があるので、そこを埋めるためのプラスアルファを持ち続けて、それを極めていかなければ難しいと思います。

 私の場合は、世の中的に言われる「ライジング(編注:伊達選手の代名詞で、バウンド直後のボールを返球する高度なショット)」がありました。当時ですら同じ練習量をやっても(欧米勢と)同じ筋力が付くわけでもないし、パワーとパワーでテニスができるわけでもなかった。そこで自分にできたことが速い展開のテニスで、それを極めたことが結果につながったと思っています。また、今テニスは本当に選択の連続で、その選択しないといけない時を逃すと、勝機はどこかに行ってしまうので、そこを逃さないだけの強いメンタルがすごく大事になると思います。その時に何ができるかにきちっと気付くことと、決断力と実行力ですね(笑)。

――そのすべてを実行するのは難しいですよね。

 でも、その連続だと思いますよ。だから普段から私は“練習のための練習”をしないように心がけています。練習の練習は(日本勢は)みんな世界トップ10にいると思うんです。でも、試合のための練習をしないといけません。常に試合を想定して、試合の中でできるようにするために練習しているわけであって、練習の練習に終わらないことはすごく大事じゃないかなと思いますね。

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