苦しい2月を笑顔で終えた小林祐希 「この経験は必ず今後に生きてくる」

中田徹

勝ち点3を意識した試合運びで快勝

後半は相手が退場したが、11人対11人の前半もヘーレンフェーンがうまくゲームを進めていた 【Getty Images】

 前半のシュート数はローダJCの8本に対し、ヘーレンフェーンは5本しか打てなかった。それが後半に入ると、ヘーレンフェーンは15本ものシュートを放ち、ローダJCに1本のシュートすら撃たせなかった。退場者が出て、ヘーレンフェーンが有利になったこともあるが、11人対11人で戦っていた後半の入りでも、ヘーレンフェーンがうまくゲームを進めていた。

「相手の7番のキャプテン(トム・ファン・ヒフテ)が『(小林を)消せ、消せ』と、みんなに言っていた。それでも、もう少し俺にボールを出してくれてもよかった。『祐希も、もっと声を出していけ』と、みんなが俺を使うイメージを持ちました。そんな中、ラッキーなことに相手が1人少なくなって、よりボールに触れるようになった。1点取った時に『今日は本当に何が何でも勝ち点3を取る』と思いました。無理に攻めるというよりも勝ち点3を意識した結果、2点取れた。後半はかみ合ったと思います」

 不振から心と体のプレーが固くなったローダJC戦の前半から、後半は相手が1人減り、先制点を奪ったものの“1−0”の緊張状態がずっと続いた。それが89分にヘンク・フェールマンが豪快なシュートで追加点を奪うと、チーム全体がスイングし、アディショナルタイムにはダメ押しのPKをレザ・グーチャネジハドが決めた。ルート・ファン・ニステルローイの「ケチャップのようにゴールはいったん決まりだすとドバドバ決まる」という名言のようだった。

「甘くなかったと思い知らされた」

小林は苦しかった2月を「長かったけれど、人生においてもこういう時間は必要だった」と振り返る 【Getty Images】

 チームの精神的支柱であるスタイン・スハールスが最近、クラブハウスに顔を出した時のエピソードを小林は語ってくれた。

「スタインがミーティングで『(試合の)内容は全然悪くない。ただ、こういう時期もある。だけれど、自分が試合を見ていて思うのは、アルベル(・ゼネリ)、サム、祐希、モルテン(・トルスビー)、マルティン(・ウーデゴール)、みんな1人に見える。ひとりひとりは頑張っているけれど、ただ頑張っているだけのように感じる。

 攻撃も守備もみんなでやらないと。守備はお前の仕事、攻撃はお前が行ってくれ――ではなく、みんなで攻撃も守備もすること。そこが少しずつかみ合えば、まだ戻るだろう』と言っていた。俺が思っていたことと同じで、俺もそういうことを言いたいんだけれど、(まだ言葉が)流暢(ちょう)じゃないから、なかなか言えなかった。スタインが同じようなことを言ってくれたから、良かったなと思いました」

 苦しかった2月を、こうして笑顔で終えることができた。

「前半戦はそんなに波がなく、良い状態をキープできました。今はポジティブに言うと“勝てない時期を経験できている”。みんなが、どうすれば次の試合で勝てるか考える時間ができました。この1カ月は、すごく長かったけれど、サッカーだけでなく人生においても、絶対にそういう時間は必要なんです。

 若い選手がビッグクラブに行ってうまくいかない時、『俺はよくなかった時、どうしてたかな?』と振り返る際、『あのヘーレンフェーンでの2月はすごく苦しかったけれど、みんな楽しくやってたな』というのを思い出すだけで、精神的にすごく楽になると思うんです。だから、俺はポジティブに捉えています。

 逆に俺は、このまま苦しい時期を経験せずに3位になってシーズンを終えていたら調子に乗っていたかもしれない。やっぱり甘くなかったというのを思い知らされた。これは、これからのヨーロッパでの生活に絶対に生きてくる……。そう、昨日寝る前に思っていました。そうしたら目覚めもよかった(笑)。自分にとって大事な1カ月だったと思います。そしてこれから、連勝街道のレールに乗りたい。日本代表にも行けるなら行って、帰って来てから、また勝ち続けられたらと思います」
 
 クラブのレジェンド、ファン・ニステルローイが観戦する中、見事な快勝でヘーレンフェーンは順位を6位まで戻した。

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント