安美錦が大けがを乗り越え関取残留 “希代の業師”が家族とつかみ取った白星
大関を思わせるような拍手と歓声
9月場所2日目で里山をはりま投げで下し、初白星を挙げると、8勝7敗で勝ち越した 【写真は共同】
「宇良といい勝負だったんじゃない(笑)? 出てくるだけで声援をもらうのは申し訳ない。辞める前の力士じゃないんだから、どんどん元気を出していかないと」
前頭3枚目で迎えた今年5月場所2日目、つき膝で敗れた際に左足アキレス腱を断裂。何とか自力で立ち上がったものの歩行はままならず、呼出しの肩を借りて土俵に降りると車椅子で花道を引き揚げる事態となった。これまでも両膝のケガには何度も泣かされてきたが、そのたびに天才的なセンスと技、そして不屈の精神力で幾度の試練を乗り切ってきた。
しかし、今度ばかりはこれまでの比ではないほどの力士生命最大のピンチに追い込まれてしまった。完全復帰までに最低でも1年はかかると言われている重傷。このまま休場を続ければ、関取の座を失うのは必至だ。引退を決意してもおかしくない状況だったが、負傷した翌日に手術を行うと、その日に自身のブログで「絶対に引退はしません。もう一度、土俵に帰ってきます」と現役続行を力強く宣言したのであった。
3年前にもあった引退の危機
「考えたとおりの相撲が取れるのは白鵬関と安美錦関だけでしょう」と語る関取もいた。横綱、大関戦の土俵に上がると、何かをやってくれそうな雰囲気を漂わせ、実際に何度も大きな仕事をやってのけた。
そんな“仕事人”に3年前にも一度、引退危機が訪れた。古傷の左膝の状態が悪化し、リハビリに励むも肉体は悲鳴を上げていた。切れそうな気持ちを繋ぎ止めたのは、ジムや病院の送り迎え、栄養バランスを考慮した食事の世話など、献身的なサポートに徹していた現在の絵莉夫人の存在だった。
「独身のままだったら、もういいやと思っていただろうね」と安美錦は語る。試練を乗り越えた翌26年9月場所は4年ぶりの三賞となる技能賞を獲得した。
このころを境にコメントでも夫人への感謝の言葉が頻繁に聞かれるなど、“稀代の業師”は新たに“家庭人”の顔をのぞかせるようになる。今回の土俵復帰ももちろん、絵莉夫人のサポートなしでは果たせなかったであろう。