清武を評価するモンチの眼力と“錬金術” セビージャで最も重要な人物はSD
16年間でEL3連覇を含む9個のタイトルを獲得
2015−16シーズン終了直後の5月末、突然モンチが「辞めたい」と漏らすと大騒ぎになった。クラブ広報とは日常的に連絡を取っていたが、いきなり音信不通になったのだ。クラブが「違約金(2億数千万円)の支払いを要求する」と強硬姿勢に出ると、モンチは翻意。広報部長は「大変な激震だった。でも良かった」と安堵(あんど)のため息をついた。クラブ事務所周辺にファン有志が集まり、直接残留を訴えたこともモンチの心を動かしたのだろう。
その時に知ったのだった。セビージャにとって最も重要な人物は、会長でも監督でもスター選手でもなく、スポーツディレクター(SD)のラモン・ロドリゲス・ベルデホ、通称モンチなのだと。
モンチなくしてセビージャの今はなかった。2000年に補強担当としてSDに就任すると、選手を安く買って高く売るというやり方で、16年間で約1億3000万ユーロ(約150億円)もの利益を出した。財政面の貢献だけではない。この間、セビージャは国内外のカップ戦で16度決勝に進出し(UEFAスーパーカップ、スペインスーパーカップを含む)、ヨーロッパリーグ(EL)の3連覇をはじめとして、9個のタイトルを勝ち取っている。
モンチがいなくなれば、ビジネスモデルが崩壊する
売上高では欧州30位にも入っていないセビージャが、競争力を表すUEFAのクラブランキング(16−17シーズン)では10位に入っている。このランク差を埋めているのがモンチの腕前である。会長が代わろうが、EL3連覇を成し遂げた監督やチーム得点王が出ていこうが、モンチがいれば何とかなる。だが、モンチがいなくなれば、クラブのコンペティション&ビジネスモデル自体が崩壊してしまうのだ。
私は昨年秋に彼にインタビューをした。“世界中にスカウトがいる”という、うわさはうそで、彼を含めてわずか16人で世界中をカバーしているとか、スカウティングには生観戦ではなくビデオをフル活用しているとか、Jリーグは追いかけていないが日本代表クラスはフルからアンダー世代までチェックしているとか、いろいろ手の内を明かしてくれた。
スペインの中でも特に開放的なアンダルシア地方のクラブ、セビージャは家庭的なクラブで、取材者にとっては大変ありがたいところなのだが、モンチも気さくで話好きなことで知られている。サンパオリ現監督を含め、インタビュー拒否という風潮が広がっているサッカー界で、彼は記者会見にもインタビューの場にも積極的に出てきてスポークスマンを務めている。
EL優勝祝賀会でクラブの旗をまとい、「セビージャ万歳!」と叫んだ数日後に冒頭の“退団爆弾”を落とすなど、少しエキセントリックなところはあるのだが、近づき難い雰囲気はまったくない。インタビュー以降、モンチは顔を覚えてくれて、会うたびにあいさつしてくれるようになった。清武の入団会見の時も私を見つけて、「どうだ清武は良い選手だよな! やってくれるよな!」と満面の笑顔を見せていたものだ。